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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT118    『星への祈り』




「……ステファニー・ルオ。それもまた、ルオ商会。しかも、事実的なトップ」

「地球の政財界にもお詳しいんだな、ベテラン・パイロットさまは」

「有名人だからな。新聞を購読する伝統を継いでいる世代なんだよ、オレはな」

「勉強熱心だなー、さすが特殊部隊の隊長サンだぜ」

「うちらの大尉なんて、定期購読してる雑誌なんて、競馬新聞ぐらいのもんだ」

「……馬に詳しくなるのも、素敵なことじゃないか」

 心にもない言葉を吐きながら、ジュナは『ネームレス2』のパイロットの隣りにしゃがみ込む。翡翠色の双眸を細めながら、彼女のなかに『残っていないか』探す……。

「……何をしているんだ?」

「……ニュータイプもどきの仕事だ。私の昔なじみたちが、コイツの精神に巣食っていないか、調べていた。オーガスタ研究所の、子供たちが……」

「そんなことが出来るのか?」

「出来る……ような気がするから、してみただけね」

「……姉さんも、ニュータイプっすかー?」

「そこそこ強かったぜ。オレたちより、ちょい上ぐらいに」

「……そんな程度だから、ニュータイプもどきだか、強化人間もどき止まりなのよね」

 肩をすくめながらジュナは立ち上がった。

「……彼女の中に、その……いたのか?……オーガスタ研究所の子供たちが?」

「もう、いないわ」

「もう……ということは」

「入っていたような気がするから、そのせいで、この女は参っているんでしょうね」

「……死んだ子供の……精神と、接続するか」

「一部だろうけどね」

「で、でもよ?……そ、それってさー」

「……幽霊ってことかよ?」

「……そんなものかもしれないわ。ニュータイプには、そういう力もあるみたいなのよ」

 サイコフレームに触れすぎたのかもしれない。自分でも、そんな能力があると思い込みたがっているのか?……いや、どこか自覚し始めている。ニュータイプには、生とか死とかの境界も越える知覚があるのだ……。

 ……ミシェルの考えに、私も毒されている?……でも、たしかに……私はオーガスタの子供たちを最初から認識していた。

 手術室に向かって、けっきょく戻って来なかった連中。違う病棟に行ったと大人たちに伝えられたけど、半分ぐらいは嘘だって分かった。

 半分は、その手術で殺されたんだ。頭を開かれて、脳をグチャグチャにされた。

 ニュータイプの根拠を知るために……リタみたいに、脳の一部を取り除かれても、壊されても、生きていた子たちもいる……どれぐらい長く生きられたのか、分からないけど。

 ……きっと、健康な状態なんかじゃない。脳を壊されて、楽しい日々なんて遅れるはずがないだろ……?

 自分が、自分じゃなくされる。殺されたんだ。殺されていたんだよな。リタ……お前は、あの日、脳の一部を取り除かれて、今までのリタじゃ、なくなっていた。

 上を向く。

 オーストラリアの星空を見つめるのだ。11月……南半球の『夏』の星座たちは、幼い頃からちっとも変わることはなかった。

 変わらぬ星の光を、翡翠色の双眸で見つめながら、ジュナは考えていた。不吉な予想を。

 ……『フェネクス』を暴走させたのは、事故じゃなくて……お前の意志だったのか、リタ?……30人近く殺したのは、壊されてしまったお前の意志で……それは、お前の『復讐』だったのか?

 ……暴走直前で死んでいたとしても、全身がサイコフレームのモビルスーツなら、ニュータイプの執念だって宿すかもしれない。魂を、保存する。お前の『怒り』を保存して、『フェネクス』は復讐の鬼と化したのか?

 ……だとしても、私は……お前を許せるよ。だって、この世界は、お前に対して、あまりにも酷いことばかりをして来たんだから…………お前には、この世界に復讐する権利があるよ。

 お前から、やさしさを奪って、怪物みたいなモビルスーツと繋いだのは、この狂いに狂った世界なんだから―――。

「―――シェザール7……泣いているのか?」

「……いいや、泣いていないさ。私は……そんなことしている場合じゃないんだから」

 星空を―――宇宙を睨みつけながら、ジュナ・バシュタは決意する。改造されて変異してしまった左眼が疼き、それに構うこともなく星を追いかけながら誓うのだ。

「……『不死鳥狩り』のために、宇宙へと上がるぞ。私は……今のリタ・ベルナルに逢いに行く。そして……出来ることをしてやるんだ」

「……『不死鳥狩り』……か」

「……とんでもない任務だ。巻き込まれたことを、不運に思うことになる」

「……災いと業の深い任務というのなら、オレが行くべきだ。ニュータイプと深く関わる任務だというのなら……オレが相応しい。オレは、ニュータイプに、借りがある。命を助けられたんだ」

「……そうかい。それなら、きっと……『不死鳥狩り』のためにこそ、使うべき命なのだろう。『不死鳥』に乗っているパイロットは……リタ・ベルナルは……紛れもない、本物のニュータイプだったんだからな」


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