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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT113    『ストレガ・ユニット/白兵砲戦』




 懐に入られて、そのまま、流れるような動きで『ネームレス2』がパンチを放ってくる。

 パンチ?……モビルスーツ戦闘に置いて、高度な精密さを宿した指なんていう部分を使って敵を殴りつけるなんてこと……リスキーにも程がある。

 脚部はかなり頑丈ではあるが―――モビルスーツの指や拳なんてものは、一般作業機械のマニピュレータと同じような強度しかない。それで敵の装甲に殴りかかるなんていうことは、あまりにも常軌を逸している。

 そんなことをしても、壊れるのは殴った方の指である。とくに、今のナラティブガンダムはオーバーコートという、醜いほどに分厚い追加装甲をまとっているというのに。

 ドガアアアンンンンッッッ!!!

 パンチが、ナラティブガンダムのオーバーコートにぶつかり、壊れる音が聞こえていた。強い衝撃で、揺さぶられたあげく―――そうだ、オーバーコートの一部が、抉り取られてもいる。

「……ばかな……ッ。この、分厚い装甲が、砕かれるなんてこと……ッ」

 サイコ・ジャックのあげくの幻覚だろうか?……いいや。そうじゃなさそうだ。認識が遅れているわけじゃない。ダメージは、リアルタイムで与えられた。

 HUDにも、ダメージを伝える表示が浮かんでいる。重たい一撃だった。格闘用の兵器を命中させられたような気持ちになってしまう……なんて、重たい一撃。あんな不安定な体勢から放ったパンチで、オーバーコートの、最も硬いはずの前面胸部装甲を砕くなんて……ッ。

 恐怖する。

 オーバーコートがなければ?……ネイキッド・ナラティブはフレーム剥き出しの貧弱な存在である。あのパンチ一発で、ナラティブの胸部から背部にかけてを、『ネームレス2』の腕が貫いた可能性は高い……。

 一撃で、私、殺されちゃうわ、ナラティブごと。あの子たちと……リタに―――っ!?

『―――ジュナ、見ーつけたっ!!』

 コクピットの内部に、リタ・ベルナルがいた。それは……青白く輝くリタ……だが、大人の体ではなく、10才ぐらいに見えた。

 全裸のまま、まったくの性徴を来していない、子供のような胸がある……それが、幽霊のように浮いていた。無邪気な笑みを浮かべて。

「……リタ、なのか……?」

『ジュナ、見ーつけた!!ここにいたんだー。えへへへー!!』

「リタ、私は、あのとき……お前を助けてやれなくて―――」

『ジュナ…………標的を、確認』

 感情でいっぱいだったリタ・ベルナルの声が、唐突に機械的な言葉へと変わる。

 まったくもって感情を宿しているとは思えない、機械的な合成音であった。ジュナは、その声が持つ冷たさに、リタ・ベルナルの消失を感じる。

 目の前にいる少女の幽霊は、感情のない瞳で、自分を見下ろしているばかりだった。

 まるで、虫みたいな目をしている。ジュナは、その事実に心を引き裂かれてしまう。どんなことをされたら、リタからあの笑顔を奪えるというのだろうか―――。

「―――ふざけんな……ッ。こんなことして、いいわけないだろッ!!」

『殲滅、殲滅、殲滅。標的を破壊、破壊、破壊。殺せ―――』

 リタ・ベルナルが消失し、その代わりに狭くて周囲を見渡しにくいナラティブのモニターに、『ネームレス2』の拳を見つける。暴力が詰まった一撃に見える、勢いのあまり、装甲が膨れあがっているようにも見えた。

『シェザール7!!間合いを詰めろ!!』

「……っ!!」

 イアゴ・ハーカナ少佐の声に、ジュナ・バシュタ少尉のパイロットとしての経験値が反応してくれていた。

 接近戦の心得の一つだ。避けられないのであれば……間合いを詰めて打撃の勢いを殺すということも、有効な戦術の一つである。

 ジュナはサイコスーツに頼っていた。手動入力でマニューバを打ち込むよりも、サイコスーツの力で全身の制御装置を同時に動かした方が、はるかに速い。

 ドガアアアアンンンンッッ!!

 ホバーを全力で噴射させたことで、『ネームレス2』の放ったパンチが勢いに乗るよりも先に衝突し、その威力を消せた―――ジュナとナラティブは、その高度なディフェンス・テクニックを成功させていたのだ。

『なに……っ!?』

 敵の声が聞こえる。『生体ユニット』と一つになった、哀れな女の声が。

「……へへへ。パンチってのはさ、肘が伸び切らないと、いい威力にならない。オーガスタで、大人の兵隊どもに散々、殴られながら!!私は、そいつを学んでいるんだよ!!」

 ジュナ・バシュタ少尉の悲惨な人生は、彼女に幾つかの戦い方を教えてもいた。反抗的な彼女に対して振るわれた暴力を、彼女は覚えている。

 だから、そういう暴力に二度と負けないようにと、ニュージーランドの基地ではボクシングも習った。

 強化人間もどきの肉体では、ボクサーの道なんて参加することも許されはしないが、もしも参加が許されたら?……ただの人間の男が、彼女と殴り合いで勝つのは不可能だ。

「ナラティブのノーマルの拳なら、やれやしないけど……オーバーコートの追加装甲がある今なら!!殴り合いだって、やれるんだぞッ!!」

 サイコスーツが赤い光を放ち、ナラティブの機動性が向上する。

 まるで、高度に鍛錬されたボクサーのように、オーバーコート・ナラティブは体を揺らしながら踏み込み、重量にモノを言わせた打撃を、『ネームレス2』へと叩き込んだ!!


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