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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT112    『ストレガ・ユニット/接近』



 聞こえてしまった。リタ・ベルナルの声が……やっぱり、リタ。お前も、そこに『少しだけ』いるんだな……っ。

 この戦いを仕組んだヤツは、私の素性も知っていて、だからこそ、リタの脳の一部が入っている『生体ユニット』とやらを、ぶつけて来たのか?

 ……だとすれば、それを企画したヤツは、本当にイヤな性格をしているじゃないかよ。悪魔みたいな女だな、そして下品で、狡猾ってイメージだ。オーガスタ・シリーズを戦わせて、データを回収したかったのか?

 ハハハ!……負けられない理由が、もう一つ出来た。私は、そんなクズどもに、データを1バイトだってやりはしないぞ―――。

『―――シェザール7!!逃げろ!!』

「分かっているよ!!」

 スラスターを全開にして、とにかく『ネームレス2』から距離を取ろうと荒野を走る!!オーバーコートのホバーが機能しているおかげで、マシンガンを捨てた分だけは速く動けている。

 しかし、焼け石に水と言ったところであろう。距離が、どんどん詰まっていく。400メートル、480メートル、460メートル……あの機体は、脚だけで、ここまで速く走っているというのか……。

『姉ちゃん、ビーム・ライフルを使え。高速でステップしながらでも、当てられるヤツは当てられるだろ!!』

「……私は、そういうヤツじゃない方だっていう自覚は、あるんだけどね」

 だが、試すしかない。当たればラッキーだと喜んでもいい。オーバーコートの背部に固定されてあるビーム・ライフルをナラティブは抜き取る。高速で後退しつつ、狙いを定めるのは難しいことだ。

 『ネームレス2』も、ジグザグに動いて、こちらの攻撃に対しては警戒心を見せているのだから。冷静さがある。暴走しているというよりも、この状態が……『生体ユニット』にとっての正常な状態。

 ……リタと、オーガスタ研究所の子供たちの脳細胞……さすがだな、という言葉で褒める気にはならない。

「―――死んだ子たちだっているんだ。死んだ後まで、戦場に連れ出すなんて……悪魔みたいな考えよッ!!……同じ、オーガスタに連れて行かれた者同士として!!私が、皆を眠らせてあげるッ!!」

 ビーム・ライフルの照準を『ネームレス2』に合わせると、ジュナ・バシュタ少尉は浄化の祈りを込めて、ナラティブガンダムにライフルの引き金を絞らせていた!!

 バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンンッッ!!

 当たれば一撃で終わってしまうようにと、威力を込めた一撃を放つ。しかし、『ネームレス2』はビームに反応していた。いや、パイロットに接続されていた『ストレガ・ユニット』がすでに機能していたのだ。

『どこを狙っている!!』

『姉ちゃん、外しすぎだぞ!!』

「……っ!?……何これ、今、私……当たる軌道で撃てたハズなのにッ!?……まさか―――」

『―――その感覚は、アイツのサイコ・ジャックだッ!!』

『まだ、それなりに離れているぞ!?』

『……あいつ、出力を隠していたってのかい?』

『……あるいは、砲戦用の追加装甲を外したことで、よりサイコフレームが外部に露出しています。そのせいで、サイコ・ジャックの有効射程が伸びたのかもしれません。遮蔽物が減った方が、能力を伝導しやすいのかもしれない』

「……クソ。最悪。幻覚を見せられるなんて……っ。私の精神は、そんな貧弱だっていうの!?」

 舌打ちする。状況は悪化の一途を辿るばかりであった。『ネームレス2』は、さらに接近して来る。300メートル。ビーム・ライフルのチャージは完了するが、再び撃ったところで、当たるというのだろうか……?

 ……アイデアを使うか。

 ジュナ・バシュタ少尉は再び愛機にビーム・ライフルを放たせる。その荷電粒子を放つ水素のピンク色が闇を切り裂いて、オーストラリアの赤く焦げた大地を穿った。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!

 爆風と共に、大量の土砂が空中に飛び散っていた。それらを、高速機動している『ネームレス2』は浴びることになる。

 必殺の威力はないが、数十キロから、数百キロの硬い岩盤のつぶてに、高速で衝突することにはなる。乗用車なら、一瞬でスクラップになるが……モビルスーツの体は耐えた。耐えてはいるが、ダメージにはなる。

『上手いぞ、地味だが、有効な策だ』

『そうだぜ、姉ちゃん、地味だがな!!』

「地味地味、二人して言うんじゃないわよ!!」

『少尉、今のは有効策です。攻撃を繰り返して、ちょっとずつでも……っ!?』

 『ネームレス2』が消えた。ジュナ・バシュタは幻覚に囚われたのかと感じたが、そうではない。単純に、『ネームレス2』は今までの倍近い速さに化けたのだ。

 一瞬の、爆発的なまでの加速……『ネームレス2』が、ナラティブの目の前に存在している。

『……殺す、殺す、殺す!!お前も、殺してやるから!!お前も、『ストレガ』の一部になっちまええええええええッ!!』


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