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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT107    『ストレガ・ユニット/混沌』




『スワンソンッッッ!!!』

『スワンソンくん、逃げろ!!生きているのなら、逃げるんだ!!』

「……ぐ、うああ……ッ。また……また、やられた……ッ。見えなかったぞ。いや、動いていないように、見えたんだ……っ」

『生きていたか!!』

「え、ええ……シェザール1……オレは、まだ生きている……っ」

 『シェザール2』……ジェスタは片腕を失っていたが、コクピットのなかにいるスワンソン大尉のことは守ってみせた。

『さすがはガンダリウム合金配合だ!!』

 ならず者の大尉は、嬉しそうにそう語る。追い詰められて、体の痛みさえも抱えるスワンソン大尉は、どこか被害妄想的な感情に支配されていた。

 あのならず者たちのリーダーは、オレが死んだら、オレのジェスタから、ガンダリウム合金を回収して、どこかの怪しい業者に売りつけに行くんじゃないか?

 ……あいつら、オレとシェザール1が死んでも、大喜びするんじゃないだろうか……くそ!!そもそも……この通信だって、ニセモノじゃないのか?……スワンソン大尉ほどのベテラン・パイロットだとしても、この幻覚までも使う強敵相手では、精神力も保てない。

 片腕をやられた。

 どうしたって、バランスが崩れるし……ダメージも大きい。これでは、ろくなマニューバを使えなくなる。

 そんな状況で、あのバケモノを……あの超がつくほど、高速で機動する機体を相手にして……戦えるというのかよ、本当に……ッ!!

 負ける気がしてならない。時間を稼げば、あの速すぎるバケモノの自滅を誘えるのかもしれないが―――どうやって稼げばいいのか。魔法使いでも相手にしているようなものじゃないか。オレには、アイツが……止まって見えてしまうんだぞ……?

『……スワンソン』

「……そんな心配しないで下さいよ、シェザール1……とにかく、まだ……オレのジェスタは動きはします。ボロボロですけどね……」

『よくやっているよ。相手は、反則的な強さだってのにさー』

『そうそう。頑張れって。どうにか生きてろ。死にかけても、粘ってると、いいことも起きたりするぜ。アフリカで得た、オレたち兄弟の教訓』

「……心に染みるぜ」

 粘る。生き残る?……クソ。どいつもこいつも、勝手に言いやがって。ああ、やっぱり、オレは、あのアフリカから来たとか言う三人組が嫌いだぜ!!……アイツらに、オレのジェスタのガンダリウム合金だけは、絶対に渡してやりたくない!!

 スワンソン大尉を支えるのは、希望ではなく、ただの意地であった。砲撃されたせいで、肋骨がまたズレた。口の中は、鉄の味で一杯だ。明日の朝には……まあ、それまで生きていたらのハナシではあるが、次の大便は血が混じってまっ黒だと思う。

 血尿だって出そうだ。爆破の衝撃を浴びたら、腎臓だって一部損傷して、そんなことになる。この負傷に対して、連邦軍は保障をしてくれるのだろうか?……経年の疲労だけじゃなく、新鮮かつ甚大な負傷に対して、連邦軍は特殊部隊のパイロットに手厚かっただろうか?

 ……ルオ商会を、訴えてやりたい気持ちだ。こんなバケモノと戦わせやがって?

 ……二機だけで来るんじゃなかったし、二機だけで参加するようなオーダーを出すんじゃない。全機そろっていれば、もっと……もっと、マシに動けたはずだってのに……っ。

「全員いれば、勝てたはずだよな、シェザール1」

『……そうだ。楽に勝てたハズだ』

「……ああ。クソ……ほんと、泣けてくる。オレは……地球で死ねるなんて、思ってなかった……思ってなかったけど……こんなのは……イヤだああ……っ」

『安心しろ!!まだ、あきらめるな!!』

「あきらめますよ!!……あんな、バケモノに、どうやって、勝てというんだ!!」

『……それは……スマン。何も、思いつかない。だが、せめて、こちらに引き寄せろ。大尉殿と彼の部下が、ビーム・ライフルで一度だけなら援護射撃を行う。オレも、大尉殿のそばにいる。オレたちは、お前を見捨ててはいない』

「……っ!!」

『だから、がんばってくれ、シェザール2。スワンソン、お前をここでは死なせたくないんだよ!!』

「……シェザール1……っ」

『あきらめるな。あのバケモノは……何故か、お前に対してトドメを刺しに来ていない』

「……たしかに……?」

 スワンソン大尉はヒビ割れてしまったモニターに映る、バケモノの姿を見つめた。バケモノは、ウロウロとしている。

 神経質な待ち人みたいに、右に左に……体中に浮かび上がる赤い光は……ますます増えているように見えた。その強さも、場所もだ。

『……あの発光しているのは、サイコフレームの可能性がある』

「サイコフレーム?」

『あの女の僚機は、サイコミュが自分と彼女の機体に搭載されているとは語っていた。彼女の機体には、それ以上のモノが仕込まれていたんだろう。赤い光は、サイコフレーム。強化人間やニュータイプの感応波を拾い、理解不能な領域の力を出す』

「……アクシズさえも、押し返した力か……」

『何でも有りの力だと思え。だが……サイコミュ兵器は、ヒトの精神を蝕む。アレだけの力……長くは使えんハズだ』

「……機体が持てますよ。そうか、幻覚を見ているのは、オレだけじゃない。アイツも、あの女パイロットも……機体に、心を壊され始めている……」

 時間稼ぎは、有効か。ならば……少佐たちの作る罠に、期待してみるのも……っ!?敵影が消える。どこにもいない!?

『スワンソン、ヤツが、また動いているぞ!!』

「……クソ!!また、頭を弄くりやがったのかよ!!」

『……来るのか!!来るっていうのか、また、気持ち悪いヤツがあああああああッ!!なら、コイツから、引き裂いてやるッ!!敵は、敵は、少ない方がいいからな!!』

 ビーム・サーベルがスワンソンの機体の両脚を斬り、残り一つの腕まで斬り捨てる。緊急脱出装置を作動しようとするが、バケモノの脚が、コクピットを踏みつけてきた。

 ……スワンソンは、さすがに死を覚悟した。


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