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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT103    『邪悪』




 久しぶりの強敵―――というか、人生史上、最大の強敵なのかもしれない。スワンソン大尉のモビルスーツ・パイロットとしての経験値が、彼にその事実を悟らせていた。

 装甲の表面に赤い光のラインを輝かせている『ネームレス2』、それを遠目で見ながら、双子の一人が気がついた。

『……大尉!!あれ、アイツに似てるっすよ!!下士官ネットワークで、一瞬だけ流れてさ、すぐに消えちまったー……何たらコーン!!』

『……ユニコーンだろ?……たしかに……あのガンダムも、赤い光を、体中に放っていたように見えたが……同じ理屈か?』

『メイド・イン・連邦軍でしょうから。同じモンかもしれないっすよー』

『……ガンダムは、アナハイム・エレクトロニクスが作ったんじゃないのか……?』

『そうなんすかね?……まあ、ジオン機と一緒にいたとか、そんなこともあったみたいっすけどー』

『下士官ネットワークでも、裏切り者だって盛り上がってましたね。実家特定して、焼き討ちしてやろうとか』

「……野蛮だな。しかし……ユニコーンガンダムと来たか……少佐」

『そういうものになら、我々が巻き込まれる可能性もあるな……ルオ商会も、何に絡んでいるんだか……』

『おしゃべりは、それまでだ。スワンソンくん。ヤツの動きをどうにか止めたまえ。オレも、双子も、一度ぐらいならビーム・ライフルを放てる。君が、オレを信じてくれるのなら、取っ組み合いしてでも止めてくれたら……ヤツを狙撃してみせる』

「……アンタの射撃スキルの高さは、知っているよ。頼むぜ……」

『スワンソン!!動いたぞ!!右に飛べ!!』

「バカな!!」

 ……オレには、動いていないように見える。認識を、脳を、弄られているというのか?スワンソン大尉は愛機を必死に右へと飛ばしていた。

 ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンッッッ!!!

 『ネームレス2』の砲撃が、スワンソン機がいた場所に着弾していた。見えていなかった。止まっていたように見える。

 センサーは……?熱源接近注意と鳴り響いている。いや?いつから鳴っていた?……オレは、今の今まで、こんな警報音を聞き逃していたというのか?

「……ヤベえ。コイツ……オレを幻覚に捕らえるんだ」

『……殺す。殺す。殺す……』

「……ッ!!あの女の……声か……ッ」

 呪詛のようなつぶやきを、スワンソン大尉は聞く。通信からの声だと思うが、他の連中には聞こえていないのかもしれない。そんな可能性だってある。

 脳を、おかしくされてしまう?……認識を歪められる?……こんな戦い、難易度が高すぎるだろうが……っ。

『スワンソン、大丈夫か!?』

「……やるしかないですよ。彼女、殺意全開ですもん」
『殺す!!殺す!!殺す!!……皆を、殺しやがって!!皆を、殺した!!私が守るベき僚機も!!彼には、まだ、幼い子供がいたんだぞおおおおおおおおッッッ!!!』

 『ネームレス2』がそう叫び、常軌を逸したスピードでスワンソン機に迫ってくる。

「速い!!これも、幻覚ですか!?」

『いや、走って来ている!!前傾姿勢で、モビルスーツとは思えんスピードで、脚だけ使って走っている!!』

「スラスター無しで、こんな加速をするのか……ッ!!」

『スペックを超えた動きだ!!……スワンソン、耐えろ!!ヤツの機体が壊れるまで、躱して、身を守り続けろ!!』

「了解です、シェザール1ッ!!」

 ジェスタにマニューバを入力する。とにかく、今は『ネームレス2』の突撃を回避しておきたい。

 それで、戦況が好転するとは思えないが……とにかく、ヤツの異常なペースに付き合えば、一瞬でスクラップにされそうだ。

 ……だが、たしかに。あんな異常なスピードで動くのなら、モビルスーツのフレームがもたない。宇宙の無重力ではないのだ。地球の重力は、高機動過ぎる機体に対して、祝福してくれてはいない。

 正体不明の怪物だとしても、物理現象は等しくモビルスーツを制限する―――はずである。そうでなければ……?……考えたくはないが、全員で死ぬことになる気がする。

 『ネームレス2』のパイロットは、強化人間なのか、それともニュータイプなのか、あるいは、自分の知らない装備のせいで、ああなっているのかは分からないが……オレたちに対して、当然ながら深い殺意を抱いているのは事実なのだから。

 ……僚機のパイロットを殺された。

 その苦しみは、敵を殺しても癒やされることはないが……仲間を殺したヤツらが生きていると思うだけで、口惜しさで体が爆発しそうになるもんな……ッ。

『殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!……こ、殺すから……殺すから……わ、私から……私から、出て行けえええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!』

「……ッ!?」

 スワンソンは直感するのだ、彼女の怒りは、純粋なものではないのだと。『何か』が、彼女の怒りを利用するように……彼女の心の中に入っているのではないか。そうだとすれば……そうだったとしたら……。

「……なんて、ヒデえことをしていやがるんだ!!連邦軍ってのはああああああああああああああッッッ!!!」


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