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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT101    『魔女が遺した災禍』




 オーガスタ研究所での人体実験は惨状を極めたものの、ニュータイプである根拠を、脳内にある器質的な変異として見つけることは出来なかった。

 強化人間も創ることが出来たが、けっきょくのところ、元々の資質に頼るところが大きい……遺伝子を改造しても、子供の神経発達を薬剤で促して作っても、時間はかかるし、誰しもを強化人間にすることは出来ない。だからこそ、量産が進まない。

 ……ニュータイプの根拠を見つけるためには、けっきょくのところ、その資質を持つ者から、ニュータイプで無い部分を削ぎ落として、特定するしかない。

 どこまで削ぎ落とせばニュータイプでなくなるのか。

 どこまで残存していればニュータイプでいられるのか。

 それを見つける、ことが出来れば、ニュータイプに必要な脳の部位は特定することが出来る。

 多くの実験を与え、数多の間違った予測を淘汰し……正しい仕組みを解明していかなければならない。

 脳の『どこ』が、ニュータイプ能力に必要な脳内部位なのかを特定さえ出来れば、それをシステム的に再現することは、それほど困難ではない気がする。

 ……そもそも、ニュータイプとしての『ヒト』が欲しいわけじゃない。ニュータイプとしての『能力だけ』がティターンズにはいるのだから。英雄じゃなく、『道具』。

 それを作るだけでいいのなら、もっと効率的に研究すべきだ。

「やはり、手も脚も、骨も筋肉も、内臓も、ぜんぶ、いらないわ。そんなところに、かまっている場合じゃないもの。探さなきゃならない。もっと、被検体たちから削ぎ落として、どこがニュータイプにはいるのか、いらないのか、特定しなくちゃ」

 オルガ上級研究員は、そんな病んだ信念を抱くようになっていた。彼女は、被験体に対する肉体の排除を熱望し、責任者であるエスコラ・ゲッダ大佐もそれを容認するサインを渋々ながら書くことになる。

 ……だが、オルガの望みを全て叶えてやることは出来なかった。オルガ以上に研究成果を出している研究者たちも、ニュータイプ能力を持つ可能性を秘めた子供たちは、貴重なモルモットであったからだ。

 オルガは子供たちから肉体を削ぎ落とす計画を、同僚からも非難されたこともあったが、信念は変わらなかった。彼女は、誰よりも研究者であり、人間性が少なかった人物である。

 ニュータイプ能力の根拠となる、脳内部位の特定こそが自分の使命だとも考えるようになっていた。

 神秘の能力の解明……研究者にとって、それがどれほどの名誉となるのか。そして、その解明が、彼女の知的好奇心をどれほどに満足させることか。

 ……彼女は、まさに戦争犯罪人であった。戦時という状況を利用して、己の研究欲を満たそうとしていただけ、その評価も間違ってはいないのだから。

 野心は大きいが、オルガに回って来るのは少ない数である―――貴重品なのだ、ニュータイプかもしれない脳は。

 ならば。

 彼女は、かつて採取した脳に頼るしかなかったのだ。ニュータイプだったかもしれない者たちの脳は、いくらでもあるのだ。手術で切り取った、新鮮な脳の部位……それらは適切な処置が施されて、保存されている。

 あらゆる部位がある―――そこに、マルガは歓喜した。マルガには、子供たちの脳の欠片など、機械の部品と同じようにしか見えなかった。それに、彼女の説に対して、要らない部分は、そられからとっくの昔に削ぎ落とされていたのだから。

 その『部品』を。

 機械を用いて、つなぎ合わせてみたらどうだろうか?

 そうすることで、強化人間的な才能を再現することは出来たら?

 ……いくらでも量産することが可能になるのかもしれない。だって!子供の脳みそなんて、そこら中を走り回っているじゃないの!!

 やがて、裁判官に『魔女』と断じられることになるマルガ上級研究員は、オーガスタの被害者である死者たちの脳まで利用していた。

 彼女は、全くの罪悪感を抱くことはなく、熱心な研究態度で、それの実験を進めていく……。

 脳の欠片を鋼に繋ぎ、薬物と電気信号と、特殊なオペレーション・システムでソフトとして使うのだ。腐敗してはいない脳の神経繊維の一部たちは、特別な培養液のなかで信号の伝達を行うだけでなく、神経伝達物質だって吐き出してみせた。

「強化人間の『脳だけなら』、作れるわ!!それを、繋げばいいだけじゃない!!モビルスーツにつないで、こちらの制御の通りに動き、ニュータイプ的な能力を発揮させることが出来たなら!!……私の研究は、とてもよく進むじゃないの」

 戦争犯罪人として極刑を言い渡される人物は、そんな主張を眉一つ動かすことなく裁判の場で語った。

「私は、熱心な地球連邦軍の研究者であり、それ以外の何者でもありません」

 その言葉は、彼女の裁判記録からは末梢されることになる。ティターンズ的な存在の典型として、彼女は糾弾され、処刑されることになったが―――彼女の研究まで、焼却処分を施すことを、地球連邦軍は選ぶことはない。

 マルガ上級研究員は死んだが、彼女の遺産は『ネームレス2』の中に組み込まれている。戦犯の罪は、まだ稼働しているのだ。断罪したはずの、地球連邦軍の名において―――。


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