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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT094    『4対4』




 ダルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!

 ジェガンのバルカン砲がうなり声を上げる!!大尉の最後の策が実行されていた。

 ジェガンの頭部の2門と、そして……大尉が秘密裏に装備させていた胸部のバルカン砲2門、計四つものバルカン砲が弾丸の群れを放っていた。

 奥の手中の奥の手。

 中距離戦では誤魔化しも利くが、接近戦では機体性能で圧倒される。

 脚の調子が悪いジェガンでは、そうなる運命であるし……イアゴ・ハーカナ少佐がジェスタの最高の動きを見せてくれていた。このパイロットは、少佐ほどではないにしろ、十分なエース・パイロットではある。

 格闘戦に持ち込まれたら、圧倒されることは理解していたし―――事実、そうなった。

 そうなるだろうと、イアゴ・ハーカナ少佐にも指摘されていたことである。彼はこちらのジェガンが脚を壊していることに気がついていたのだから。

 何であれ、もしも、正面から押し倒されてしまった時のタメに……イアゴ・ハーカナ少佐はジェスタの弱点を教えてくれていた。

 コックピット・クラッシュ。

 あまり、いい趣味の攻撃法ではない。モビルスーツを撃破するのではなく、乗り手であるパイロットを殺して無力化する方法だ。

 だが、強いモビルスーツと戦うのであれば、それもまた機体性能の差を埋める戦術となる―――ジェスタのデータを少佐から転送された大尉は、新たなカウンター・プログラムを機体に用意させていた。

 ジェスタのコクピットに対して、それが、自機を押し倒して格闘戦による決着をつけて来ようとしたその瞬間に……四つのバルカンによって、コクピットに向けて集中砲火を浴びせるためのプログラムを作ってあったのだ。

 プログラムは今まさに起動して、ありったけの弾丸をコクピットに撃ち込んでいる。

 ジェスタを知り尽くすイアゴ・ハーカナ少佐は、その装甲の素材が、どんな種類の衝撃に脆いのか、あるいは強いのかも心得ている。

 そのデータがあれば、四つのバルカン砲の射撃アルゴリズムを弄ることで、より効果的なコクピット・ブレイクが可能となるのだ。装甲を抉るために適した速度に、回転数。細かな設定を弄ることは、連邦軍のバルカン砲のお家芸である。

 最適な衝撃振動を与えることで、コクピットはバカみたいに揺さぶられることになる。ジェスタの装甲は、硬く、貫通を防ごうとすれば振動へと変化するのだ。全ての物理学的特製に優れた素材など、この世には存在しない。

 ……まあ。とにかく、今は死ぬほどコクピットが揺さぶられているってわけさ。

 そうなっちまうと、ヒトはモビルスーツを操縦していることが出来なくなる。貫くためじゃなく、ボクサーが相手のボディの深くに叩き込む強打のように、衝撃で『中身』を揺さぶり、動きを止める。そういう作戦であり、効果を発揮しているようだ。

 さて。パイロットの動きが、一瞬でも止まったら?百分の一秒単位で意味を持った動きをしているオレたちパイロットからすると、あまりにも致命的な時間となる……。

 いいか?オレは、もう機体にマニューバを入れちまったぞ。

 スラスターと、脚とか腕の動きを使い、『飛び起きる』。

 ジェスタの重量データも入っている。一瞬で対応することは出来ないが、怯んだ相手ならば、馬乗り状態だって跳ね返せるさ。

 それぐらいのシミュレーションはしている。スラスターが壊れるがな……オレは自由を得ることになるぞ。

 バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!

『ぐふう!?』

 組み敷かれていた大尉のジェガンが、ジェスタを下から力で弾く!

 ……コクピットへの攻撃のせいで昏倒しかけているパイロットは、その突然の衝撃にさらに揺さぶられてしまう、強いGを感じながらも、愛機が大地に倒されることも知る。

 反応した、サーベルをブン回した。やぶれかぶれではあったが、大尉のジェガンの頭部を斬り裂いていた。

 だが、頭が無くても、問題はない……大尉は壊れていく愛機に、ライフルを使わせる。

 撃ち殺すことの方がはるかに簡単だったが……欲深い大尉は、欲しいのだ。このジェスタという機体を。

 ライフルの先端を、ジェスタに突き立てていた。その先端は、ぐにゃりと曲がりながらも、穴だらけにされていたジェスタのコクピットを砕くようにしながら押し潰す。パイロットは、その瞬間に死亡した。

 その直後に、大尉のジェガンは大量の煙を吐き出しながら、その出力を停止させていた。ダメージが大きすぎる。これ以上、稼働させれば、機体が熱を帯びて……爆発しかねない。

「……危うく死ぬところだったが……どうにか、ノルマは果たせたぜ。オレ一機で、二機を仕留める……イアゴ・ハーカナ少佐ってのは、人使いが荒いぜ。階級はあっちのが上かもしれんが……脱走兵には関係ないし、そもそも、オレのが年上だと思うんだがなぁ……」

 愚痴っぽいのも、ベテランの証かもしれない。大尉はそんなことを考えながら、ジェガンのコクピットの強制解放レバーを引いていた。

 ジェガンのコクピットが開き……目の前には、大尉が己の腕と知略を使い仕留めたジェスタが転がっていた。

 ニヤリと下品な歪みを、大尉の口は浮かべていく。手に入れるべきだろう?……この機体は、ガンダリウム合金を含有しているのだからな。

 乗り手が死んだぐらいでは、ガンダリウム合金を配合したモビルスーツの値段は下がらない。高く売れる商品を、大尉は愛でるような視線で見つめていた。

「……あとは、死ぬなよ、双子ども……しばらく生き延びていればいいんだ。そうすれば……そろそろ、合流予定時刻になる…………護衛対象サマが、駆けつけてくれたなら、数的不利は逆転するぜ……?」

 5対4になる。今は、どうにか4対4になっているんだ。オレの部下なら、どうにか逃げ回って……生き延びてみやがれよ。

 大尉は……戦場を全速力で逃げ回っている、双子どものジェガンを見つめる……暗がりが濃くなっているせいで、そいつが少しは彼らの逃避に加護を与えてくれているらしい。

 よく動いている。

 良く動いてはいたが……。

 バシュウウウウウウウウウウウウウウウンンンンッ!!

 ……ビーム・ライフルの一撃が、双子機の一体の左脚を撃ち抜いていた。

「……マズいぜ。さすがに、アイツらの悪運も、今日までかもな……4対3になりそうだなあ……腕っこきの護衛対象ちゃんよ。来るなら、早く来て欲しいもんだぜ……まあ、今のオレには何にもしてやれねえから、このジェスタちゃんを漁るとしようかねえ」


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