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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT083    『虹を見た日    その三』




 ジェガンの壊れた腕を、アクシズに叩きつける。真っ赤に燃えるアクシズの、その鮮やかなまでの色合いがオレにも移っている。全てが赤く見えた。アクシズは、さっきよりも地球に向かって落ちている。

 あちこちで煉獄の暴風に煽られて、力を失ったモビルスーツたちが宇宙へと還っていく。砕けながら旋回し、バラバラにながら燃えていくんだ。派手な最期だ。オレたちに相応しい。

 でも、あきらめない。

 そう強いられたからじゃない。ただ、オレがそうすべきだと判断していた。

 今まで色々な戦いを、何故だか運良く生き延びて来たのは、これをするためだと確信する。

 オレは死んでいったヤツの代表選手だ。あいつらの代わりにも、まだ戦うんだ。オレが死んで、あいつらが生きていたら、同じようにしただろうからな。

 ……とはいえ、潮時も近いことは分かる。スラスターを全力で噴射しているんだ。燃料がすぐにでも底を尽くはずだ。HUDにも情報は表示されない。色々とぶっ壊れて、回線が焼け焦げてしまっているんだろうから。

 だが、体感的には―――パイロットのセンスで語らせてもらえれば、あと20秒以下ってところだ。

 その後は……ギラ・ドーガと同じ運命を辿る。アクシズの圧力に呑まれて、横へと弾き飛ばされる。

 何十回となく、アクシズの外壁に打ちつけられながら、壊れながら回転していき、砕けて散って……オレもあいつと同じ場所に還るんだ。

「……よくやった方だと……褒めてくれ……よ。オレは……精一杯はしてきた……もっと……上手くやれることは、出来たのかもしれないが……与えられた状況には、必死になって応えて来た……そういう生きざまをして来たよ…………」

 誰に語っているのか、分からない。モビルスーツの回線だけじゃなく、オレの脳のなかにある神経の接続部位まで燃えているのかもしれない。

 長くはないから、どんなに体が壊れてもいいんだが……最期には、何か、素敵なことを考えながら砕けて燃え尽きてやりたいものだな……。

 ……ああ。地球を墓標にするのは、とても誇らしいことだ……とかかな?

「…………いい終わりだ」

 疲れ切った顔で笑いながら、推力が切れるのを感じる。終わりが始まる、アクシズの外壁にぶつかって――――――?

 ……オレは、虹を見ていた。

 緑色とかときおり青い色にもかがやく美しい光が、燃えていくアクシズを包んでいく。

 アクシズだけじゃなく……オレの機体も、それはやさしく、労るように包んでくれた……体感したことのない感覚だった。

 機体が、どうしてかアクシズから離れて行く、機体の破片はバラバラに散っていくが……イヤの衝撃も振動も感じることはない。

 アクシズが……星が動くのを……オレは目撃する。

 その圧倒的な質量は、煉獄の焔をその身から消し去りながら……地表に辿り着くよりも先に燃え尽きそうな、小さな欠片を振りまきながらも、まるで意志でももった巨大な生き物みたいに……まるで、クジラみたいに……ゆっくりと、雄大かつやさしく動き、その軌道を地球から離して行く。

 ……どうなっているのかは、分からなかった。

 だが、アクシズは敵意を放つこともなく、ゆっくりと離れて行く……オレのジェガンも上昇しているのが分かった。

 宇宙の女神さまの巨大な腕に、抱きしめられて、そのまま宇宙にすくい上げられていくようだ。

 大きな安心感が心に去来する。理解するのは難しいが、感じることは出来た。

 思考の及ばない領域の現象ではあるが、怯えることも、戸惑うこともなかった……全てのモビルスーツがアクシズから離れて行くなかで……オレは、想像していた通りの光景に出会うんだよ。

 赤く燃え尽きていくνガンダムは、アムロ・レイは今でもアクシズと一緒だった。

 大いなる虹を呼び寄せながら、アクシズにその圧倒的で、神秘的な力を導きながら……νガンダムと、アムロ・レイ……そして、シャア・アズナブルが星に乗って、軌道を変えていくのが見えた。

 いや、モニターなんてほとんどマトモに動いちゃいなかったけれど、それでも認識することは可能だったのさ。

 ……地球を包むほどに大きな虹に、オレのジェガンも浮かびながら―――宇宙の果てを目指すみたいに、アクシズは去って行きやがる。

 アムロ・レイの祈りか、シャア・アズナブルの渇望か……それとも……あの二人を許容し、受容してくれる、もっと大きな心に導かれるようにして、人類の業のカタマリみたいに燃え盛っていたアクシズは、やさしげな輝きと共に虚空へと向かう。

 ……蒸し風呂状態から、どんどん冷やされていくノーマルスーツ内で……オレは……遠ざかる星を見送っていた。

 νガンダムは、アムロ・レイは……やはり英雄だった。地球を救ってくれたのだ。

 おそらく、攻撃性とは、全く別の感情に根差すものにより……いつもは、生き残ったことを後悔するのだが、そのときは、後悔しなかった。

 ……いつか。生き残ったこの命を使う日が来るような気がしたから。

 アムロ・レイにはなれやしないが……アムロ・レイが去ったこの世界を、オレは少しでも守ろうと考えている。

 パイロットとして、軍に残り……業深い任務をこなしながら……オレは、この命を使うべき瞬間のために、生きるコトにするぞと…………あのギラ・ドーガの若造に、告げたんだ。

 星と宇宙と虹を見ながら、あまりにも消耗しすぎていたオレは、そのまま意識を失ったよ――――。


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