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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT075    『地獄へと向かう』




 ジュナ・バシュタ少尉は『昼食』もナラティブガンダムのコクピットで食べていた。チューブ入りの、地球連邦軍印の完全栄養食品だ。

 歯磨き粉みたいな形質をしているし、味もマズいがチョコの風味はお気に入りだった。これなら、消化と吸収が早いために、訓練でゲロとなって吐かずに済むこともある。

 なかなかに優れた歯磨き粉タイプの昼食ではあるのだ。

『……ジュナ・バシュタ少尉』

「なんだ、ブリック・テクラート?……私は昼食中だぞ」

『ミシェルさまから任務の更新が告げられました』

「……ほう?」

『合流する護衛機が増えます。ジェガンが三機。オーストラリアの連邦軍基地から派遣された機体のようですね』

「シェザール隊のジェスタ2機と合流ってことじゃなかったのか?」

『……どうやら、私の仕入れていた情報が違っていたのかもしれません』

「……敵の数の読み間違いか」

『相変わらず、勘の良い女性ですね。その通りです、我々は、3機のジェガンと戦う予定だったのですが―――どうやら、敵は6機のジェスタのようですね』

「二倍になったか。そして、モビルスーツの性能も、上位機種へとチェンジ……ジェスタってのは、連邦軍の中でもそれなりに権威がある機体だってことを、ブリックは知っているか?」

『……浅学の身。恥ずかしながら、理解が及びません。どういう存在なのでしょうか?』

「ジェガンに乗っていたら、凡人。ジェスタに乗っていたら、エリートってことだ」

『……なるほど。エースの証となるモビルスーツなわけですね』

「ああ。ジェガンの上位版であり、貴重なガンダリウム合金まで使われている。モビルスーツ・パイロットたちの中からも、選ばれたエリートだけが乗れる豪華な機体だ」

『それが6機……』

「ロンド・ベルの主要戦艦の護衛部隊か、シェザール隊みたいな特殊部隊ぐらいにしか、そんな高性能機が大量に配備されるはずもない。今回の敵ってのは、ネオ・ジオンに亡命でも企むエース部隊か?」

『ありえないでしょうね。ラプラス事変のダメージで、ネオ・ジオンは戦力を更に失っています。今このとき、彼らに寝返るとは考えにくい』

「私もそう思うぜ。じゃあ、コイツらは何だ?……地球にいられなくなったほどの大罪人が、どうにかしてジェスタを6機も盗んだ?……考えにくいな」

『……ええ。このジェスタは……正規軍でしょう』

「そうだろうな。地球連邦軍のお偉いさんの誰かが、自分の配下のモビルスーツ特殊部隊を派遣した。私たちを消すためにだ」

『……正確には、『不死鳥狩り』を頓挫させるためにでしょうね』

「どこの誰の仕業だと思う?」

『…………』

 ジュナ・バシュタ少尉は、沈黙するブリック・テクラートの態度から、その持ち前の勘の良さを発揮する―――ニュータイプもどきの能力ではなくとも、分かることは幾つかあった。

「……雄弁なる沈黙だな。ブリックは、言いにくい情報を抱えていると、そういう態度を取るわけだ」

『……私を推し量ろうとはしないでくれませんか、ジュナ・バシュタ少尉』

「……推し量るまでもないさ。知恵なんていらない。お前の態度は分かりやすい。お前は知っているんだ。気づいている。この状況を作った人物について、心あたりがあるってことだろ」

『……沈黙は、何も語ってはいない』

「そうだが、それでも分かることもある」

『貴方が、ニュータイプだからですか?』

「いいや。ただの女の勘ってヤツかもしれないがな。でも、外れてはいないんだろう?」

『…………』

「……そうか。なら、この場でバラしちまうのも手だぜ?」

『……そんなことは、出来ませんよ』

「なるほど。バラせない敵か。地球連邦軍に働きかける力を持つ存在。しかも、『不死鳥狩り』の詳細を、おそらく私よりも知っている人物―――そいつは、どうにも『身近』に潜んでいそうだよな……」

 さらに無言が続くので、ジュナ・バシュタ少尉は確信を手にしていた。

 言いにくいというのならば、その沈黙を許してやることにする。しかし、自前の言葉は言わせてもらうことにしよう。

 これは、チームの全員が共有している無線だとうことを、彼女は承知しているのだ。

「……ルオ商会の内部に、ミシェルの『敵』がいるんだな。そいつは、つまり―――」

『―――おそらく、ミシェルさまの姉上であられる、ステファニー・ルオさまでしょう』

 隠すことが出来ないと判断したのだろう。ジュナ・バシュタでも気がつけることならば、このチームの全員が気がつく。

 ルオ商会の研究職として暮らして来た人材たちだ。ルオ商会の内情には、ジュナよりもはるかに詳しい当事者たちなのだから。

「……そうかい。ステファニー・ルオか。そいつが、私たちを消そうとした女の名前なわけだ」

『……ルオ商会の実質的なリーダーです。元より、彼女は、『不死鳥狩り』には消極的な方でした』

「そうか。色んなことをヒトは考えるものだから、そんなヤツだっているだろう。でも、特殊部隊をヒットマンにしようって考えは、理解に困るぜ……」


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