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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT074    『ステファニー・ルオの介入』




 隊長の言わんとする意図を、ミシェル・ルオは把握していた。どう考えても、ステファニー・ルオに邪魔されている。

「……6機のジェスタ……ジュナの護衛を依頼したシェザール隊は、元々が6機。そしてジェスタを配備されているのよね……シェザール隊に偽装して、ジュナとナラティブを消すつもりだった。こちらが用意していたのは、ジェガン3機の脱走兵……隊長の『お友だち』こそが、ブリックの手配したジュナ用の獲物だった―――」

 ―――シェザール隊ともども、消すつもりだったのかもしれない。

 『フェネクス』を、『シンギュラリティ・ワン』の回収を、ステファニーお姉さまは望んではいない。地球連邦軍の作戦まで妨害したかったのかしら……?

 ……地球連邦軍にも、色々といるのでしょうけれど。アフリカ司令部のバーミエル中将と、コロニー警備軍のギャリソン中将……同期でライバル。

 ギャリソンの出世の邪魔をしたいのかもしれないバーミエルと、地球の経済圏をより深く掌握したがっているステファニーお姉さま。意見の一致があったのかもしれない。

「どこの組織も、一枚岩じゃないということね……軍人同士でも、足を引っ張り合っているのか……ジュナは、よくあんな組織にいられるわね……リタと再会するには、連邦軍にいた方が、良いって考えていたのかもしれない―――」

 ―――恋愛は上手くいかないものだ。最愛のジュナは、いつもリタばかりを追いかけている。私の価値観を力尽くで変えて、レズビアンにしたのはジュナのくせに……。

 ……まあ、二人のことは、今はいい。私の恋愛について苦悩している場合ではない。ステファニーお姉さまが、仕掛けて来た。『不死鳥狩り』について、呆れ顔で静観するつもりでいてくれたならば、何もすべきでないと考えていたのに……。

「……マーサ・ビスト・カーバインの身柄を、私が確保したこともバレているのかしら。私が、アナハイム・エレクトロニクスに接近し過ぎていると、考えているのかもしれないわね……私の築いたコネクションが、ステファニーお姉さまの脅威になりつつある。そう判断なされたのかもしれない」

 それも当然の反応なのかもしれない。私は、すでにルオ商会の『巫女』という立場以上になりつつある。

 地球連邦軍とも独自のコネクションを築いているし、隊長以下、裏の仕事を行う傭兵部隊の支持を強く受けている。

 隊長は、長老たちにも、いつだってステファニーお姉さまを殺すと語って回っているみたいだし、私にも何度もそう言って来ているもの……。

 次の当主を巡る戦いは、私の考えている以上に進んでいる。

 『死』を克服するために、『シンギュラリティ・ワン』を回収する任務……それだけのハズが、時代の流れと、ルオ商会を取り巻く人々の意志や願望により、私の『不死鳥狩り』は歪み始めている。

 ……私を暗殺しようとして来ないのは、ステファニーお姉さまなりの慈悲ってことなのかしら?……それとも、『妹殺し』の汚名を背負いたくないから?……そうかもしれない。

 ステファニーお姉さまは、潔癖症だもの。穢れることで強くなるって意味を、理解しちゃいないんだわ……。

 ……尊敬していた。

 愛そうと頑張っていた。だって、私とステファニーお姉さまは『家族』なんだし、同じお父さまの娘なんですもの。私は養子で、ステファニーお姉さまは実子だけれど。

 ……ねえ、ステファニーお姉さま。私のことを、愛していますか?―――いいえ、バカな質問です。

 穢れて壊れている、強化人間もどきの『妹』なんて、貴方ほどの潔癖な女が愛情を抱けるハズがありませんものね……?

 私を、お父さまの……ルオ・ウーミンの持っているオカルト趣味を満足するためだけの生きた人形ぐらいにしか、きっとステファニーお姉さまは認識してはいません。

 分かっています。

 分かっていました。

 それでも、私は『家族』を失った女なんです。ジオンのコロニー落としで、私の本当の家族はいなくなった。私は、それからずっと、『家族』というものに憧れていた。それを再生したかったんです。

 それが、どんな感情なのか、分かりますか?

 ……お父さまの子を妊娠したいと媚びたのも、身の安全を確保するためではあるけれど、それだけじゃない。

 自分と血のつながった存在を、欲しいと思っていた。

 お父さまの子なら、産めるもの……真の孤独と、死に対する底無しの恐怖。それらを共に理解する者として、私とお父さまは理解し合えていたから……。

 でも。

 二人は『家族』をくれなかった。お父さまは愛してくれたけど、病に倒れて冷凍睡眠を選び……私を妊娠させて子供を産ませてもくれなかった。ステファニーお姉さまは、お金も仕事もくれたけれど、愛をくれたことは一度だってなかった……。

 私は……『家族』が欲しいのに、二人はくれなかったのよね……。

「……だったら、そろそろ、いらないのかもしれない。私にとって、いちばん大切なものをくれもしない、偽りの『家族』なら……そろそろ、捨てる時期なのかもしれないわ」

 ミシェル・ルオは、その表情を険しくしていく。獣のように恐ろしい貌だ。まるで、怒りに狂う強化人間のように、彼女の瞳は殺意に煌めいている……。

 ミシェルの足下に座り込み、ミシェルの足の爪にマニキュアを塗っていたアミは、恐怖を感じると同時に……不思議な期待に小さな胸を疼かせる。ミシェルの貌には攻撃性と、欲望が同居しているからだ。

 昨夜、教え込まれてしまったことを……またされるのかもしれない。

 そう考えると、妖しい興奮が心も体も支配してしまう……ミシェル・ルオの魔性は、日を追う毎に強まっていく。ミシェルは、それを自覚しつつ、邪悪さで自分を穢し、その穢れを強さに変えようとしていた。

「……ルオ商会、そろそろ、私のモノにしてやるわ……」


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