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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT070    『蛇の道は蛇』




 大尉はジェガンを走らせて、古びた電波中継施設へと向ける。この周囲の地図はすでに入手済み。

 アフリカから逃げて来るときに、下調べはしていたのだ。彼はあまり頭が悪いわけではない。ただ、真っ当な人生を送るために必要な倫理観が、いくつか欠落しているだけだった。

 有能なパイロットではある大尉は、中継施設に近づくと、モビルスーツから降りて、その施設に不法侵入する。

 ドアは拳銃で鍵を壊して開けた。双子たちも面白がって、ドアを蹴り飛ばし、大尉のための道を作ってくれる。デカくてバカなガキの保護者になった気持ちだが、イライラはしない。コイツらがバカなことは、ずいぶん前から理解しているのだから。

 大尉は早速仕事に取りかかるのだ。

 中継施設に配置されたサーバーの一つに、泥棒仲間が作ってくれた特殊な端末をコードで接続する。

 端末の画面に、愛らしいマスコットに抱かれたテンキーが表示されると、大尉の指が手慣れた動きでキーを叩いていく。

「はえー。猫踏んじゃったとか、弾いてるみたいすねー」

「大尉は器用だ。悪事にかけちゃ、何事も」

「……はあ、お前ら、見張りに戻れ。ジェスタを警戒するんだ。通信施設の電波にこちらの機体が放つ信号をカムフラージュさせておけよ?」

「了解っすー」

「やってますよ。さっき、言われた通りには」

「……じゃあ、今、言われたこともやりにいけ。見張ってろ。不意に遭遇した敵に奇襲されるってことも、十分にありえるんだからな」

「ラジャー」

「分かりました」

 そっくりな顔と脳みそに生まれてしまったバカな双子どもは、大尉の命令には忠実だ。

 『アレら』を育て上げた母親は、本当に苦労しただろう。不発弾でサッカーを始めるようなバカどもに、上司の命令を聞けるほどの知性を与えたもうた。

「女神のような行いだ。あるいは、暴力を伴う露骨な躾けでもしていたのかもしれないな……地球には素晴らしい女性が五万といるもんだよ」

 無駄口を叩きながらも、指は動いていた。『彼』に連絡を入れる―――かつての敵、かてつの友、今は……何だろうか?

 ……友人だったこともあるし、殺し合ったこともあるから……親友だな!!

『―――オレだ。誰だ?』

 バカみたいな返事が端末から聞こえて来た。そんな受け答えなんて、まともなビジネスマンとしては失格モンだが……まあ、素早くこの暗号通信に出てくれたことは感謝したいもんだ。

 ヤツは、何だかんだ言っても、ジオン軍の暗号を忘れちゃいない。少しは未練があるのだろうか、ジオニズムに?

 まあ、今はそんなことはどうでも良かった。必要なのは、ヤツの政治観についての議論じゃなくて、単純な手助けだ。

「……オレよ、オレ」

『……アホみたいな返事をしやがる』

「ハハハ!……お互いサマだ。まあ、オレが誰かなんてことは、想像ぐらいついているだろ?」

『アフリカのアホか』

「そうだよ、ニューホンコンのマヌケ」

『死ね』

「いつかな。ヒトは死亡率100%の生き物なんだってこと、知ってるか?」

『……それを乗り越えるヤツも、科学は生み出すかもしれんぞ』

「ハハハ。マジかよ。お前も冗談を覚えたんだな」

『……地球人はユーモアあふれるヤツが多くてな。貴様のように見ているだけで笑える男も少なくない』

「そいつは良かったじゃないか。良き出会いにあふれる日々を過ごしているようで、本当に嬉しいよ、親友」

『誰と誰がだ』

「お前とオレだろ?……楽しかっただろ、オレと殺し合っていたの。陸戦型ガンダムを壊した時、背筋に快感が走ったんじゃないか?」

『ガンダムもどきを壊したぐらいでは、大した感動を得られんな。その直後に、オレは愛機をどこかのバカの罠にハメられて失った』

「素敵な思い出だな。セピア色の青春ってヤツ?ヒロインはいないが、モビルスーツと厳ついパイロットで一杯。ほんと、サイテーの場所だぜ、戦場ってのはよ?」

『……そろそろ切っていいか。オレは忙しいんだ』

「おいおい、待てよ。オレだって、忙しいんだよ」

『ふん。今度は、一体、何をやらかしたんだ』

「いい勘しているなー。オレちゃんみたいな善良な男が、トラブルに巻き込まれているって分かるなんて?強化人間にでもされちまったのかい、ホンコン人に?」

『……トラブルに巻き込まれなければ、オレになど連絡を入れたりはしないだろう』

 ああ、なんとも友だちの少なそうなヤツの発想だな。モビルスーツで殺し合うのが大好きっていう、奇特な性癖のオッサンが、豊かな社交性を持っているわけないか。当然のことだな。

『何故、黙る』

「……ちょっと、お前の私生活を想像して、笑えて来てな―――」

 ―――通信が途絶した。

 ヤツめ、ちょっとしたユーモアを理解しないヤツだ。再び、通信を試みる。今度は一分ぐらいかかって、通信は再び両者をつないだ。

『……何だ?殺されたいのか?』

「お前にならな。でも、オレみたいな腕のいいパイロットを、他のヤツに殺されたくないだろ?オレとお前なら、アムロ・レイも殺せるぐらいには、腕がいいだろ?」

『……どういう状況だ』

「アフリカでの小遣い稼ぎがバレちまってな。オーストラリアに逃げたんだよ」

『夜逃げか。クズ野郎だな』

「マフィアの襲撃部隊なんてやっている男に言われたくはないぞ?」

『ルオ商会は一流企業だ。地球の支配者だよ。社会の広範に経済的な豊かさと、秩序を与えている』

「……そうかもしれないが……」

『オレはちゃんとした上流階級で、責任ある仕事をしている。お前みたいな夜逃げ野郎とは、天と地の差だな』

「うるせえ!!いいか?お前みたいな殺人鬼に、オレのちょっとした小遣い稼ぎを非難される覚えはないからな!!」

『……切るぞ』

「ああああ、ちょっと待て!?……まったく、お前が絡んでくるから、ついつい無駄口叩いちまう」

『オレのせいではない。お前がバカで愚かで、おしゃべりクソ野郎なのはな……』

「たしかになー……って、いい加減、ハナシが進まねえだろ?」

『……用件を言え』


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