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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT065    『ナラティブの偽装』




 朝食を済ませたジュナ・バシュタ少尉を待ち構えていたのは、分厚い装甲を身にまとった、見知らぬシルエットのモビルスーツであった。

 あの実験棟の外には、ずいぶんと太めの装甲を身につけたモビルスーツがいた……。

 そのモビルスーツを、じーっと見つめていたジュナは近づいて来たブリック・テクラートに対して、文句を述べておくことにした。

「……おい、ブリック・テクラート。私のナラティブガンダムに、妙な追加装甲を着せるんじゃねえよ。これじゃ、ニュージーランドの羊並みだぞ」

「……申し訳ありません。ガンダムタイプのまま、地上を移動するわけにはいきませんからね。それと―――」

「―――それと?」

「ナラティブガンダムは、あくまでもアナハイム・エレクトロニクス社からのレンタル品です。我々は、実験のために、その機体を借り受けただけに過ぎません……」

「……私のために、部品のほとんど全てを交換したというのにか?」

「……ええ。そうだっとしても、ナラティブは、あくまでもアナハイム・エレクトロニクス社の備品です」

「そういうコトにしておかないと、バレた時、危ないのか?」

 ガンダムを勝手に製造することは、政治的な対立を招きかねない。そして、ガンダムは連邦軍の象徴でもある。

 連邦軍以外が作ることは、厳しく禁じられている―――むろん、連邦軍の依頼を受けた企業であれば問題はないが、今回のナラティブの組み立てについては、ルオ商会が連邦軍の許可を取っているとは、これっぽっちも思えなかった。

「……念には念をということですよ。我々には、慎重であるべき理由は、あまりにも多いのですから」

「……どんなことをしているんだろうね、お前のご主人さまは」

「目下、作戦遂行のために、全力を尽くしながら……日常的な業務もこなしているでしょう」

 ……穢らわしい行為とも言えますが……会長からの指示であるのならば、全くもって問題はない。処女の血?……アジアの神秘は、どこか野蛮な気がしますがね……。

「……お前にそんな顔をさせるなんてな。ミシェルの日常ってのは、ずいぶんと邪悪さがありそうだ」

「いつか、思い知らされる日も来るかもしれませんよ」

 ……その言葉に、ジュナ・バシュタ少尉は得体の知れぬ恐怖を覚えていた。気持ちの悪い冷や汗が全身から噴き出している。

「……どういうことだ?」

「いえ。何でもありません。そんなことより」

「そんなことって……」

「……任務を優先しましょう。この作戦には、相手さまがいます。それも二組ほど」

「ん。そうだったな。獲物と……」

「……貴方と組むべき、特殊部隊ですよ。モビルスーツ戦の達人たちから構成されたチームであり、『不死鳥狩り』を公式に実行しているのは、彼らになります」

「……連邦軍の特殊部隊か」

「ええ。『シェザール隊』。それが、貴方の合流するチームになります」

「シェザール隊ね。聞いたコトがない」

「そうでしょうね」

「……どういうことだ?」

「秘密であることを絶対とするチームです。存在がバレると、政治的にややこしくなりかねません。そんな組織です」

「……ミネバ・ザビでも暗殺したがっているのか?」

「……滅多なことは言わないように。彼女は、ビスト財団に身を寄せています。連邦とコロニー側の架け橋となられるために」

「へいへい。小娘には興味があるけど、政治的な存在には萎えちまう」

「政治にも気を使って頂きたい。貴方も、この任務のリスクは、命の危険だけではないということを、理解しておいででしょう?」

「……まあな。だけど……そんなことにまで、気を回してはいられない。私は、今夜、初陣だ。哨戒任務はしていたがな、船舶相手がもっぱらだ。モビルスーツ戦なんて大げさなこと、一般の兵士は、戦時でもなければ、そう経験することはない」

「……そうでしょうね。裏社会では、また事情が異なりますが」

「マフィアと一緒にするなよ。堅気の仕事には、そう殺し合いなんてことは、ないもんだよ」

「……たしかに。私も、一般常識に欠くところがあるようです」

「朱に交わっているから、そうなるんだろうな。とにかく……いいか、ブリック・テクラートよ?」

「なんでしょうか、ジュナ・バシュタ少尉?」

「私は、それなりに緊張しているんだ。政治的なうんぬんについてなど、気にしていられる余裕はない」

「……了解しました。そのあたりの気配りは、私が努力いたしましょう」

「気が利いているな。ミシェルには迷惑をかけられっぱなしで、鍛えられたか」

「……否定はしません。あの方の人生は、かなり厳しいものでしたから。少尉と同じか、ある意味では、それ以上に、『自由』はなかったかもしれません。享楽は、あったでしょうが」

「……不自由で快楽に溺れているのか?……マフィアらしいな」


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