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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT061    『ミシェル・ルオの狂気』




 ニューホンコンの裏側に潜む勢力は、危険なまでの野心を持ちつつあるし……ミシェル・ルオもそれには気がついていた。そのことを、ある意味では当然の流れではあると彼女は解釈してもいる。

「……お父さまは、私たち姉妹に力を分けて与え過ぎたものね……ステファニーお姉さまのことは好きだけど―――今後は、どうなることか分かったものじゃないわ」

 恩義は感じているし、しばらくは忠実ではあるだろう。それに自分にはそこまでの野心は無いのだが、『流れ』は自分に有利な形を取ろうともしている。

 姉にはないカリスマ的な魅力……姉はオカルトだと嫌うかもしれないが、非科学的にさえ見える実力をミシェル・ルオは持っているのだ。

 姉妹で殺し合いをしたとすれば。あくまでも常識的でしかないステファニー・ルオに負けるような気がしなかった。

 それぞれの兵隊は、かなり系色が違っているのだから。ステファニーの護衛と、自分に集まる戦士たち……血で血を争う闘いを繰り広げられたら、勝利することは難しくない。

 それに、そんなことをしなくとも、ある日、姉がいきなり死ねば?……ルオ商会のリーダーの座は転がり込んでくるだろう。

 ルオ商会の長老たちの半分は、ミシェルの顧客でもある。八卦を頼り、彼らはそのコロニーが変えるほどの莫大な資産を運用しているのだ。

 その利益をもたらすことは、ステファニーは出来ず、自分には可能となることだった。

「……『シンギュラリティ・ワン』を手にしたあかつきには、私の力と、『シンギュラリティ・ワン』をお姉さまは恐れて、連邦軍に通報するかもしれません……でも。そうなった時。お姉さまは、私がどれだけ連邦軍とお仕事をして来ていたのかを思い知るでしょう。私は、探していたんですよ?……常に、ジュナと……リタのことを。秘匿された『フェネクス』の謎さえ、私は見つけたんです。お姉さまなら、その意味を、もうすぐ悟ります」

 ……だからこそ、『シンギュラリティ・ワン』というオカルトに触れることを、ステファニーお姉さまはイヤがっているのでしょうね。私が、より大きな力を手にしてしまうことに対して、恐怖を持っている。

 私のカリスマは、そのオカルトが支えているわけだものね?……より強く、しかも能力を持ったオカルトを、私が所有すれば、お姉さまは恐くてしかたがなくなるのでしょう。

 ……私は、そこまで欲深くはないのだけれど。生きるためには、ステファニーお姉さまと戦うことも……そして、殺すことも、出来るようになると思いますもの。

「……最近は、八卦の腕も不思議と上がっているのです。情報や頭脳や、策謀に頼らなくとも、ヒトの欲望や行動を、八卦だけでも当てられることがあるんですよ、ステファニーお姉さま……きっと、ジュナやリタを感じているから……私も研がれて来ているんです」

 ジュナがニュータイプもどきとしての力を得ているように、私も、ニュータイプもどきになりつつある。この十年間。モビルスーツには乗らなかったけれど……お父さまはオカルトを私に教えて下さった。

 アレはアレで、私にヒトの妄執だとか……神秘なる者に対して、どれだけのヒトが危険なまでに憧れてしまうのかを、私は知ることが出来ました。ステファニーお姉さまにはない、陰の力です。

 ルオ商会は……陽の力だけで作られてはいません。ステファニーお姉さまの理解が及ばない妄執も、抱えている。この力を統べることが出来たのは、お父さまと―――陰の側面を継がされた私だけ。

 ……理想を言えば。

 陰と陽が、それぞれの道でバランスをよくルオ商会を導き、支えて行くことが最良なのは明白なのですが。

 私の支持者と、ステファニーお姉さまの支持者は、かなり対立が激しくなって来ているのが、最近の私には分かるのです。

 ……知識と経験と……そして、ジュナとリタが、くれている力。私も、ニュータイプ的な力を、本当に獲得する日が来るのかもしれない。リタが刻を見せてくれたから、私はそのコツを理解していた。

 モビルスーツでの戦いを識って、私も感性を拡張することが出来たように思います。これから、リタを追いかけて『フェネクス』とも逢う……進化したサイコフレームを手にすれば、私は、ニュータイプになれるかもしれません……。

「……欲深く生きようとは、考えて来なかったけれど。ステファニーお姉さまが、私を愛して下さらないのであれば……自衛の策を練らなければなりません。お父さま。もしも、そんな状況になったら……ステファニーお姉さまを殺すことを、お許し下さい」

 でも。安心してください。『シンギュラリティ・ワン』を手に入れたら、サイコフレームに魂を保存し、時空と生死の壁を越える術を手に入れることが出来たなら、ステファニーお姉さまも、お父さまも……やがては、私も。

 全ては一つになり……永遠を生きることになるのですから。

「死を克服する力を、手にするのよ。そうであれば……罪深さは、全て許される。裏切りも、殺しも……全て、許されるのよ」

 ……ああ。自分が狂っていくのが、分かる。常識的なステファニーお姉さまからは、理解することの出来ないオカルトな存在に、自分はより変貌していく。

 八卦で地球の経済と権力に介入する、謎の女は……ニュータイプの力と……サイコフレームの秘奥まで手にする。

「そんなもの魔女みたい。怪物よね。リタはともかく、ジュナは……私を受け入れてくれるのかしらね……?会うのが、ちょっと恐くなる。愛しているのよ、ジュナ。オーガスタで、あなたと同じベッドのなかで、リタと一緒に慰めてもらったあのときからね……」

 だから。今夜の『生け贄』は趣向をこらしているの。

 もうすぐ、あなたと再会するのだから……こうでもして、免疫をつけておかないと。

 衝動的に、モノにしようとするかもしれないからね……。

「浮気じゃないよ、ジュナ。これって……あなたをムチャクチャにしないための、保険なんだからね。秘密にしておくけれど、もしも、バレたとしても……今より、私を嫌いにならないで」

 ミシェルは端末に表示しているジュナ・バシュタの写真を見つめた後で……その画像を指でスライドさせる。

 そこに映っていたのは、赤い髪の少女だった。それが、今夜の彼女の『生け贄』である―――。


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