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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT060    『ステファニー・ルオ暗殺計画』




 ジオン軍として地球に降下した日もあれば、再び宇宙に上がり連邦側の傭兵としてネオ・ジオンの勢力と戦ったこともある。

 誰とでも戦った。最初は政治家どもの掲げたイデオロギーのために、やがてはただ生き抜くため。今では、己の衝動を充たすために戦っている。命を戦いに掲げるのは、たまらなく好きだ。

 自分という男は、かつて持っていた信念ってものを忘れてしまった男であるが、だからこそ自由に生きる力を手に入れることが出来た。

 自分は、自由だ。誰よりも自由な存在。それこそが、人類最古の職業ともよばれる『傭兵』ってものだ。隊長はそう考えている。

「……ステファニーさまの創るルオ商会は、堅実すぎる。それは、どうにもオレの居場所としては狭っこくてねえ。ミシェルさまの方を推したいわけですよ」

「……そんなことを聞かされて、私はどうすれば良いのだね?……最も古い友人の娘の一人を暗殺する。そう聞かされたなら、どうすればいい?」

 ニューホンコンの長老と呼ばれる者の一人は、表情の読めぬ貌のまま、大げさに両肩を上げながら問いかけてくる。爪ヤスリをしまいながら、隊長は呑気な表情で受け止める。

「気に入らないなら、オレをルオ商会から追い出したり、暗殺しようとしてもいい。暗殺は、ルオ商会の得意業務の一つだろ?……オレを消すなんてこと、アンタには簡単なことじゃないか」

「……元・ジオンのエース・パイロットだ。お前の命を失うのは、あまりにも惜しい」

「ハハハ。お褒めにあずかり、光栄でございますな」

「……どうして、そこまで、ミシェル・ルオに惚れ込んでいるのだ?」

「カリスマ性に惹かれちまいましてね。アレは、まるで女王陛下のように誇り高い。悲惨な生まれかもしれませんがねえ、だからこそ評価が出来る。どんな屈辱や苦しみに耐えることも出来るカリスマ……そんなヤツは、ザビ家にだっていやしませんよ」

「お前は、いつかミネバ・ザビの元に向かうと考えておったのだがな。古き哲学に生きる戦士だ。あのような娘も、嫌いではあるまい?」

「潔癖すぎる人物に、たやすく惚れるような年齢は、とっくの昔に過ぎちまいましたよ。それに、彼女は政治的に死んでいる。ネオ・ジオンと『袖付き』がリーダーに担ごうとしたが、彼女は地球連邦軍に投降した……カリスマは、あの時に死んじまったんですよ」

 『袖付き』を……いや、ネオ・ジオンを率いて立ち上がる気概があるというのならば、オレの心も惹かれていたんですがねえ。

「あのお嬢さまは、平和を求めてしまった。スペースノイドの独立の夢は、その瞬間に砕け散ったんですよ。ザビ家の求心力があれば、ジオン共和国とネオ・ジオンも一つになれたかもしれない。幾つかの、反地球連邦的なコロニーも、その反乱について来てくれたかもしれませんがね」

「だが、現実は違った」

「……彼女は、スペースノイドの独立など、夢のまた夢だと気づいていたんでしょう」

 女ってのは、合理的な生き物だから。男よりも野心のために死ぬことをバカだと理解している。

「戦火を回避するとは聞こえがいい。それを悪いことだとは言わない。だが、それは理想をドブに棄てることと同じだ。あんなことをしてしまえば、彼女を担いで戦えるホンモノの戦士は……どこにもいなくなる。彼女の親衛隊は、それでも忠節を払うでしょうがね。野心を持たない方には、扱えない力も多いもんです」

「……ずいぶんとボロクソに言うのだね」

「思ったままのことを述べたままです。彼女は、合理的で、実にステファニーさまのようなお方だ。ミシェルさまのような強い野心の炎を持つ人物と比べると、オレにはどうにもか弱く見えるんですよ」

 『袖付き』を巻き込んだ戦いを起こして、『ラプラス事変』などという何にもならない争いを起こした。いや、彼女がお嫌いな『袖付き』を滅ぼすということには作用した。

 それもいいのでしょう。スペースノイドから牙を抜き去った。コロニーは今後も地球連邦軍の実質的な支配下に置かれることになる……。

「木星にでも行こうかと考えていたんですがね。何なら、火星でもいいんですが。あそこらにも開拓者は到達している。ヤツらはかつてのジオンのように、強い独立心と技術力を持っている。やがては……武装蜂起するでしょうから」

「火星や木星が地球圏と戦うことになると?」

「なりますな。人類というのは学ばない。いつの時代だって、必ず同じことをします。だからこそ、売春婦と同じくサイコの職業である、オレたち傭兵の仕事は尽きることはない。我々は、人類が絶滅するその日まで、消滅しない仕事の一つですよ」

 火星も木星も、有能な連中が集まり、新たな世界を開拓しようという熱量がある。

 あんな熱量は、必ず国を生み、国は軍事力を求める。軍事力という暴力を持たなければ、地球連邦政府から『領土』を奪うことなど不可能だからだ。

「……傭兵の言葉か。誰よりも戦争屋の言葉ならば、重たく受け止めたい。そんな君が、理想郷を他の惑星ではなく、ミシェル・ルオのいる地球に求めるのかね?」

「……彼女には、オレをここにいたいとカンジさせる力があるんですよ。そいつは、ミシェルさまにあって、ステファニーさまには無い力だ」

「……だから、暗殺したいと?ミシェル・ルオのために、ステファニー・ルオを?」

「依頼があれば、いつでも受けると言ったまでのことですよ。長老たちの助力があった方がいい。ミシェルさまが新たな会長になった時、統治がスムーズになりますからな」

「……お前の言うことは分かった。ステファニー暗殺の件。覚えておいてやろう。今夜は家に戻るがいい」

「ええ。そうしておきますよ。オレなら、彼女に帝国を与えられます。モビルスーツに乗ったオレを潰せるヤツは、この世にそういるもんじゃないですからね。荒事は、得意ですよ、誰よりも」


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