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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT059    『ニューホンコンの野望』




 ジュナ・バシュタの訓練は順調に経過していった。それは、ある意味では強化人間を育成するプログラムではあるものの、薬物の投与は避けられている。

 ジュナが拒絶したのではない。むしろ、ジュナは薬物の投与を持ちかけられたなら、反対することもなく受け入れていたであろう。

 今の彼女にとっては、後々の健康よりも『不死鳥狩り』を成功させられるかどうかの方に興味があった……。

 だが、それはこのプロジェクトのリーダーである、ミシェル・ルオが頑なに許すことはない。

 ミシェルはジュナを苦しめるつもりはないのだ。そして、ジュナであれば必ずや『不死鳥狩り』を成功させられるという確信もあった。

 中の上というパイロットとしての能力に、ニュータイプに近い能力。罪悪感が生精神力と―――何よりも、リタ・ベルナルならば、ジュナに対して心を開くという確信があった。

 そもそもだが……亜光速で飛び回ることだって可能な、ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』。

 そんな機体に対して近づける存在は、こちらでは選べない。たとえ、アムロ・レイだろうがシャア・アズナブルだろうが……他のユニコーンガンダムであろうが、光速の不死鳥に追いすがることは不可能である。

 リタに選ばれた者だけが、しばらくの間、『フェネクス』と並んで宇宙を飛ぶことが可能になるだけのことだ。

 そもそも、ジュナ・バシュタか……ミシェル・ルオにしか、『フェネクス』と接触する可能性を持った者などいないのである。

 ……ニューホンコンに帰還したミシェル・ルオは、端末に送られて来た様々な情報に目を通している。

 ルオ商会の『巫女』……相談役としての仕事も並行しているのだ。会社に損害を与えるつもりはない。

 そんなことをすれば、ステファニーお姉さまが黙ってはいない。

 『シンギュラリティ・ワン』を入手しようというプロジェクトに対して、そもそも否定的なのだ。何か口実を与えれば、強権を振るってくるかもしれない……。

「……それだけは、させるつもりはありませんからね、ステファニーお姉さま」

 ……ルオ商会の『会長』は、今もってルオ・ウーミンのままであるが―――彼は冷凍睡眠の最中にある。実質的なリーダーは、すでにステファニー・ルオの手に移っているのだ。

 だからこそ、一部の者のなかには不満も出ている。

 会長が代替わりしたわけでもなく、ステファニーが実権を掌握している現状を不満に思う者も少なからずいるのだ。

 ルオ商会の深部に君臨する古い幹部たちは、ルオ・ウーミンに忠誠を誓っているのであって、その娘のステファニー・ルオに対しての忠誠は、形式上のものでしかない。

 彼らのなかには、神秘的な能力を使うカリスマを推す者たちさえいるのだ。

 そう、ミシェル・ルオ……『奇跡の子供たち』の一人であり、25才ながらにしてルオ商会の相談役。

 その人脈の広さと、そして『深さ』は姉のステファニーのそれをすでに超越している。

 あくまでも表社会を生きる正道のみのステファニーと、裏社会とさえコネクションを築いているミシェル・ルオは、ルオ・ウーミンの思惑通りに二極化してルオ商会を支える存在になろうとしていた。

 ……『袖付き』が倒されて、アナハイム・エレクトロニクスの政治力も揺らいでいる今、ルオ商会に仕える存在たちは二つの可能性を見ている。

 ステファニーの行う堅実な経営のまま、地球経済の支配をより強固にしていくべきなのか―――異質なるカリスマ指導者になる可能性を秘めた、ルオ商会の『巫女』を新たな当主に据えて、ルオ商会に革命的な躍進を与えるのか……。

 アナハイムをも淘汰して、地球圏最大の新軍閥を作り上げる。そんな夢を持つ者さえ出始めていた。ニューホンコンを『首都』として、地球連邦内部に新たな『自治国家』を創るという野心さえあるのだ。

 それは決して夢物語ではない。

 元より高い自治性があり、ジオンの攻撃に晒されなかったこのニューホンコンには、世界で最も古い伝統が息づいていもいる。

 自分たちの文化と、世界最大の経済力に……カリスマの指導者。食客として囲っているモビルスーツ・パイロットたちも、地球連邦軍のOBは元より、ジオン系の元・エース級さえもいるのだ。

 シチュエーション次第では、アムロ・レイを倒せると語る、あの隊長もそんな一人であったが……。

 すでに、あるのだ。国家と呼べるほどの莫大な経済力が。

 すでに、いるのだ。国防さえも担える、強力な戦士たちの集団が。

 あとは……病に倒れ、冷凍睡眠に入った、かつてのカリスマに変わる存在がいれば。

 『革新的なカリスマ指導者』さえいれば、ニューホンコンを中心に『巨大なる帝国』を創り上げることは、決して、誇大な夢などではないのである―――。

「―――オレは、もしもの時には、ミシェルさまを推しますぜ」

 アムロ・レイを倒せると豪語する男は、ヤスリで爪を磨きながら、ニューホンコンにある、まるで城みたいに巨大なレストランの最上階で、そう語る。

 酒、女、望むのであれば麻薬……全てがそろう、この背徳の城のなかで、彼はルオ商会の古株の幹部の一人に、そう語った。

「……皆さんの考え次第では、オレにステファニーさまの暗殺をご依頼下さい。よろこんで、彼女の首を獲り、皆さまのもとに差し出しますよ」

「……滅多なことを言うモノではないぞ」

「ああ、そうですなあ。今のは、聞き流しておいて下さい。忘れられないのなら、そのうち、またどこかでお話しするというのも、有りでしょうな」

「ステファニーを殺せば、それはルオ・ウーミンへの裏切りになるのだぞ?」

「……大恩あるお方の娘を殺すのはしのびないことですがねえ。まあ……オレは傭兵っすから。自分の仕事と居心地のいい場所を守りたいだけだ。ミシェルさまなら、ステファニーさまよりも、オレたちを満足させてくれる世の中をお作りになられると、確信しているだけですよ」

 そのためなら、大恩ある会長の娘だって、オレは眉一つ動かさずに殺しますけどね。


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