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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT057    『シェザール01』




 シェザール隊。歴戦のパイロットたちのみで構成された、地球連邦軍の特殊部隊。

 その主な任務はモビルスーツを運用し、相手側のモビルスーツを撃破するという簡単なお仕事だ。

 イアゴ・ハーカナ少佐は、自分たちの役割をそういうものだと信じている。

 機密事項に抵触する作戦を多く行って来てはいるが、あくまでも自分たちは一般のモビルスーツ・パイロットに過ぎない。

 戦場を選ぶこともない。理由を問うこともない。用意された任務に、軍人として応える。それに全力を尽くすことが、パイロットとしての正道だと信じているのだ。

「……オレは基本的に、軍の任務に対して疑問を抱かないようにしている。軍人とは、古来よりそういう存在でいいはずだと考えているからだ。間違っているか、フランソン?」

「……いいえ。正しいと思います。我々は、軍隊にとっては部品ですからね。命令が下れば、それに従うだけでいいっすよ……たとえ、それがヨゴレ仕事だったとしても、オレたち個人の罪は、問われることはないでしょうしね」

「……ヨゴレ仕事だと思うワケか?」

「まあ、何らかの後始末だと思いますよ。マーサ・ビスト・カーバインが失脚して、彼女らアナハイム・エレクトロニクスのダーティーなネットワークがバレてしまいました」

「ジオン共和国ならばともかく、武装集団であるネオ・ジオン……そして、その中でも急先鋒で、テロ集団だった『袖付き』。連中にまでモビルスーツを提供していたわけだ。戦火が収まらなかったことも、頷ける」

「……我々のしていた戦争は、世界一の大企業サマと、それにぶら下がって既得権益を啜る、政治屋どもの欲望が原因だったワケですな」

「頭が痛くなるハナシだ。宇宙世紀で行われて来た、一年戦争以来の戦乱とは、一体、何だったのだろうかな……」

 多くの戦友たちが死んでいったというのに。フタを開けてみれば、アナハイム・エレクトロニクスがモビルスーツを安定的に供給するためだけに、モビルスーツを用いた紛争を『企画』していた……。

「オレの戦友たちの何人が、アナハイム・エレクトロニクスの用意した戦闘で死んじまったのか……少なくは、ないんだろうがな」

「ええ。少なくはない数なんでしょうね。戦争なんてものは、権力と金のためにしか起きないってことは知っていましたが……連邦の敵である『袖付き』にまで、アナハイムがモビルスーツを提供していたとは……」

「マーサ・ビスト・カーバインの悪行は、色々とバレすぎているな。誰かが流しているのだろうか……?本来なら、地球連邦政府も連邦軍も、もっと火消しに走るはずなんだがな」

「タカ派が消えちまっていますからね。ティターンズみたいな、軍隊の我を優先してくれるような組織は、暴力的っすが……火消しには持って来いだった」

「……オレは、ティターンズは嫌いだったよ」

「ええ。オレもですよ。でも、彼らのうようなパワータイプがいなくなったら、ゴリ押しで問題を消してくれるヤツもいないって、言いたいだけです。まあ、それでいいんだと思いますけどね」

「……たしかにな。悪いコトだとは思わんよ。悪人どもが、それなりの罰を受けるのは当然のことだ。アナハイムのような企業に、軍隊が操縦されるっていう事実は、皆が知り、問題とすべきことだ」

「そうっすね……それで」

「ああ。今回の任務だが……渡されたデータが虫食いだらけだ。どうなっていると思う?」

「……作戦名は、『不死鳥狩り』……何て言うか、詩的な響きがある名前ですよね」

「内容が読めん。不死鳥というのは、何のことだと思う?」

「……さあ。情報通の連中から、色々と聞き出してはいるんですが……これに関しちゃ情報が出て来ません」

「機密情報か」

「バレたら首が飛ぶヒトが何人もいるってことでしょうね。その割りには、何故か外部の力を借りるというのも、変ですよね……」

「助っ人に、民間企業が入ってくれるとはな。ルオ商会……地球の経済的な支配者の一つが、どうしてオレたちに技術協力と、戦力の提供を申し出てくるんだ……?」

「軍の命令には、疑問を持たないポリシーだったんじゃないんですか?」

「そうだ。しかし、状況が大きく変化している。巷では、アナハイムの悪行の詳細が流れている。我々の敵であり、テロリストである『袖付き』に戦力と技術を提供していた?……戦いを、モビルスーツを売るためのデモンストレーションとして利用していたことが公になっているんだ。ルオ商会についてだって、怪しんだって当然だろ?」

「業者は儲けるためにありますからねえ……自分のところの利益になるから、この作戦に介入してくるんでしょうね……あるいは……」

「あるいは、何だという、フランソワ?」

「メリットのためでないとすれば、デメリットを打ち消すためとか……?」

「……『不死鳥狩り』という作戦をしなければならない理由に、ルオ商会は絡んでいる?」

「……『不死鳥狩り』の作戦宙域は、ムチャクチャに広大ですが、宇宙空間です。アナハイムのテリトリーで、ルオ商会の力は弱い……ですが、昨今の様々な悪事が露見してしまった事情で、アナハイムは動けない」

「……アナハイムが起こした事件を、ルオ商会が代わりにもみ消そうとしている?」

「そうかもしれないっすね。ルオ商会と、アナハイムも……表向きには連邦支持で同じ方向を見ています。アナハイムのために、ルオ商会が動くことだって、あるんじゃないですかね?……創業以来の危機にさらされているアナハイムの代わりに、ルオ商会が動く。なにせ、アナハイムの大株主の一つは、ルオ商会なんすから……」

「……これ以上、アナハイムの失態が明らかになれば、株価がより下がるか」

「……連邦軍にモビルスーツを供給するという契約が、打ち切られるかもしれません。そうなれば、アナハイムだって倒産しかねませんよ」

「そうなれば、その大株主のルオ商会も大損するわけか……」

「そういうシナリオだって、考えられるってことです。星の数より多そうな、お金が絡んでいますからね」

「星の数より多いと来たか……」

「……隊長、この任務、オレたちも後年になって責任を追及されないように……軍の正式な命令で動いたっていう証拠を、集めておきましょう」



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