ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT055    『やさしいヒトの遺言』




 それからジュナ・バシュタ少尉は訓練を中止した。

 サイコスーツも異常な発熱を起こして、中にいるジュナを蒸し焼き寸前には温めてしまっていたから、それ以上の訓練続行は中止とするしないのである。

 しかし……収穫は大きい。

 あのアムロ・レイとνガンダムを出し抜く戦術的な行動を取れたし、必敗が予想されていたνガンダムとの『一騎討ち』で、競り合いまで持っていくことが出来たのだから。

 ジュナはある程度、満足し……スタッフは大喜びであった。

 シミュレーションでのこととはいえ、本物のニュータイプ、あるいは強化人間のポテンシャルに近しい能力を発揮することが出来たのだから―――。

「―――ニュータイプ能力は、やはり、後天的なものなのでしょうかね」

 ブリック・テクラートは端末越しに己の女主人に語りかけていた。

 ミシェル・ルオの賢い頭と……オーガスタ研究所での実体験から来る考察には、ブリック・テクラートは正誤の判断をつけることは今まで出来なかったが……。

 ジュナ・バシュタ少尉の『成長』を目撃した今となっては、己の主の考察にも納得することが出来そうだった。

「……曰く、ニュータイプは感染する」

『……ええ。その可能性はあると思うわ。一年戦争や、グリプス戦役、第一次ネオ・ジオン抗争。強力な才能を発揮したニュータイプ・パイロットと、その周囲にいた比較的年少の子供たちには……不思議な感性が伝搬していったという報告があるもの』

「……増えていくわけですね、後天的に」

『先天的な能力。もしも、進化だったとするのなら、そんなことは起きないでしょ?……そもそも、脳や遺伝子を調べても、器質的な変化がどこにも見られないんだもの。それって、生物としての進化じゃないかもって、思わない?』

「……専門家ではありませんから、何とも。ですが……たしかに、ジュナ・バシュタ少尉は、その能力を覚醒させつつあるようです。実戦ではなく、高度に再現されたシミュレーターでのことですが……その……」

『強化人間の製造過程にそっくりね。彼らも、ほとんど『工場内』で作られるような存在だもの。改造され、シミュレーターで調整を施される。薬物とか、脳を器質的に弄くることで。ジュナには、そこまで過酷な行為をしちゃいないけれど。彼女は、私と同じようにリタに『コツ』を教えられているからね』

「……『予言』。あるいは……時間や空間を越えた観測能力」

『脳がそれを覚えている。あれは視覚だけじゃなく、嗅覚や聴覚、あとは触感や……おそらく五感以上の『センス/感覚』を強制的に稼働させられたカンジだったわ。ヒトの魂が壊れる感覚―――死まで、伝わって来た。私が死をやたらと恐れる原因は、アレだと思う』

 おいたわしい。その同情的な言葉を、主は嫌うだろうことを熟知している有能なブリック・テクラートは無言を選ぶ。

 無言のままの同意。ただ自分の愚痴を拒絶も否定も肯定もすることなく聞いてくれる存在。それが、ミシェル・ルオには必要なのだと、彼は理解していた。

 わがままな妹の愚痴を聞いてやる存在。身近な年上の男。お前は、忠実で執事のような兄を演れ。

 ルオ・ウーミン会長の言葉を思い出す。それが、あの子には必要なのだよ。

 会長は、やはりお優しくもあるお方ですね……。

「……それで、ミシェルさま」

『なに?』

「ジュナ・バシュタ少尉のためのミッションが、見つかりました」

『……実戦を経験させるってヤツね。どんなミッション?……何なら、うちの部隊に襲わせるけど?』

「援護するのは、連邦軍の特殊部隊ですよ。名前はシェザール隊。『不死鳥狩り』の、連邦軍側のメイン・キャストです」

『……凄腕ぞろいなのね?』

「はい。上の中のパイロットか、それ以上しかいない。そういう評価を受けた部隊です。6人編成のチームで、誰もが何らかのエキスパート」

『うちの隊長と戦わせてみたくなるわね』

「……荒事は最小限に。ステファニーさまは、この作戦を気に入ってはおられません」

『……分かってるわよ。お姉さまのことは、言わないで!!』

「もうしわけありません」

『……ふう。いいわ。許してあげるわよ。本当のことなんだから……で?どんなミッションなの?』

「地球連邦軍の裏切り者たちへの処刑ですね。『袖付き』に対して、軍用品を横流ししていた人物たちです。失脚した大臣の息がかかっていた補給部隊ですよ。腕は良く、装備もいい。彼らは……宇宙への逃亡を試みて、アフリカからオーストラリアにやって来ています」

『……良さそうなヤツらね。ジュナにも、『殺し』を覚えさせて。繊細な子だから、シミュレーターからだって色々と感じるでしょうけど。やはり、その手を実際に血で穢さないと、真の戦士とは、言えないものね』

「……会長のお言葉ですね」

『そうよ。穢れて、女は強くなるもの。彼女には、殺しが必要よ。そうでないと、リタとの戦いで、殺されかねないもの』


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。