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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT054    『お前は英雄なんかじゃない』




 さらに接近して来るνガンダムに対して、ジュナは虎の子のハイメガキャノンを撃ち放つ!!

 戦艦さえも焼き尽くすほどの、高エネルギーの奔流が……それがνガンダムへと襲いかかる!!

 νガンダムは、それを躱す。鋭い機動で左に……そこまでは予想済み。こちらもビーム兵器でそこを狙うッ!?

 左にマニューバを入れたと思った矢先、ジュナとナラティブがビームを放った瞬間、νガンダムは右に切り返していた。

 フェイントだった。こちらの反応速度を予測して、それを利用された形だ―――。

 ビームが外れ、接近される。まったくの牽制になることなく、虚空を走ったビームの軌跡に、νガンダムが入り込んでくる。

 ビームを打たれる。追加された巨大な腕を動かして防ぐが、命中したのは装甲の関節部分!?腕が、爆発した。追加された巨体は、片腕を失い。νガンダムはさらに近づいてくる。逃げ道がない……ッ。

 百分の一秒で判断していた。至近距離から、ナラティブを狙われることは避けたい。

 追加装甲を撃ち抜かれて、基本的に貧弱なナラティブを撃破されるというシナリオは回避したかった。

 負けたくない。

 負けたくない!!

 でも、この流れは完全にアムロ・レイのものだ。だから……ムチャをする。

 手足を使った正統な操縦ではなく―――やや反則気味ではあるが、サイコスーツ越しに高速機動装備の巨体へマニューバを伝達する。

 νガンダムに向けて、ナラティブは追加装備をまとった巨体のまま、体当たりを実行していた。爆発した右腕の残骸が漂う場所での急加速に、体当たり……勝算はある。

 アムロ・レイが……いや、νガンダムが通常の操縦システムを実行してくれているのなら、サイコフレーム越しで操縦が可能なナラティブの方が、機体へパイロットの意志を反映させる時間は短くて済む。

「つまり、早撃ち勝負なら、負けないのよ!!」

 ドガアアアアアアアアアアアアアンンンンンッ!!!

 ナラティブの巨体に体当たりを受けて、νガンダムの射撃が狂う。それでも、ナラティブの追加ブースターには命中させて来て、ブースターが爆発していた。

 爆風に吹き飛ばされる。体当たりの衝撃で、機体制御を失っている、ナラティブも……そしてνガンダムも。

『サイコ・キャプチャーを!!』

「分かっているわよ!!」

 『フェネクス』との戦いにおける、最大の兵装。サイコ・キャプチャー。相手モビルスーツを拘束する能力のある、サイコフィールド兵器。

「『ナラティブ』を拘束出来るのなら……旧式のνガンダムだって、出来るハズよ!!」

 サイコスーツが真紅の輝きを放ち、残存する左腕が青い光りを放ちながらνガンダムに向けて伸びていく―――三又に別れた巨大な爪が、衝突と爆風に動きを呑まれているνガンダムへ迫る。

『やれる!!』

 エンジニアが早合点する。しかし、攻撃を実行させたジュナ・バシュタ少尉は、舌打ちしていた。

 アムロ・レイは……νガンダム本体の操縦システムは手動に頼っている。

 それでも彼なら十分にサイコミュ兵器よりも速くて精確だからだ―――でも、アレだけは違っていたんだ。

 当然だ。ミノフスキー粒子下の戦場でも、遠隔操作が可能ということは……彼の感応波に即応して機動する兵器だってことに決まっているものね……ッ!!

 νガンダムの片翼が消失していた。サイコキャプチャーが迫る背中に、νガンダムの最も有名かつ凶悪な兵器……フィンファンネルがいなかった。

 バカげた速度で展開していたのである。衝突され、爆風に影響されながらも……感応波を送り、ファンネルを放った!?

 速さ勝負でも、有利だったわけじゃない。しかも、私はファンネルの動きを完全に見失っている。負けた。乾杯だ。技術と読み合い、どちらでも負けた。

「それなら!!先に、アンタを捕まえてやるんだッ!!」

 アムロ・レイ―――その英雄に対する、怒りが心の底から解き放たれる。

 コイツがいなければ、私も、リタも、ミシェルも……オーガスタにいた、あの哀れな子供たちも、いなかったはずだ!!

 お前がいたから……お前が、一年戦争で、その強さと異能を証明したから!!

 お前の模造品を作ろうと、渡したが消費された!!クズどもに!!ティターンズどもに、私たちは人生も、心も、体も、狂わされたんだ!!

 お前の代わりをするために、お前の代わりなんかになるために―――どれだけの子供が、どれだけの私たちが、苦しんだと思っているんだッ!!

 サイコ・キャプチャーの輝きが増す。

 サイコスーツから送られてくる感応波が、許容限界近くまで上昇しているのだ。本物のニュータイプ、あるいは、強化人間にしか出せないレベルに、その能力は高まっていることを、エンジニアは知る。

 シミュレーターは、そのデータを反映し、νガンダムに最高出力の捕獲フィールドを展開し―――アムロ・レイの乗るモビルスーツを、捕らえていた。

『スゴい!!あ、アムロ・レイを、捕まえたッ!?』

「捕まえただけじゃムリだ、殺さないとッ!!沈めないとッ!!……握りつぶせよ、ナラティブ!!」

 ギリギリとキャプチャーの『爪』に力を込めて、νガンダムに粉砕の力を加えていく。

 νガンダムを壊さないと……撃墜しないと……もう、ファンネルはどこかに放たれて!?

 ギュイイイイイイイインンンッッッ!!!

「ぐうっ!?なんだよ、この音っ!?」

『さ、サイコ・キャプチャーのフィールドが、干渉を受けて中和されているんだッ』

 そうだ。ファンネルはそこにいた。νガンダムを守るように、本体の周囲に密やかに展開し……サイコ・フィールドを発生させる。

 捕獲と、バリア。攻撃と守備。2種類の相反する哲学を帯びたフィールドが衝突し合い、おかしな音を立てていたのだ。

 拮抗する。力が拮抗して……ジュナ・バシュタは、アムロ・レイの声を聞く。

「……ゴメンよ。ボクたち大人が、だらしなかったから……君たちの世代を、助けてやれることが出来なかったんだ」

 サイコ・キャプチャーのなかでこちらを見つめる、νガンダムが……いや、データ化されたアムロ・レイの声を……ジュナは幻聴として聞いている。他の誰にも聞こえない、超常現象的な感覚だった。

 それが本物のアムロ・レイの言葉だったのか。それとも、ジュナ・バシュタ自身の願望を反映した声だったのかは、分からない。

 だが……ジュナの翡翠色の瞳からは涙があふれている。それと同時に、彼女は叫んでいた。

「中止しろ!!……サイコスーツの熱量が、上がりすぎている!!シミュレーションで、私の精神を使い切るわけには、いかんだろうが!!」


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