ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT053    『瞬殺』




『一瞬で、斬り裂かれると思います。あるいは、撃ち抜かれてしまうのでしょうか……勝率は、間違いなくゼロでしょう』

「……あっちよりも、機体もパイロットも下だもんね。腹が立つけれど、その予想は正しいものだと思うわ。戦争なら、彼を出し抜いて作戦を遂行することは可能だけど……一対一の決闘なんて……あまりにも無謀なことよね……?」

『それでも、なさるのですか?……勝利のイメージがあるまま、訓練を終えることで、サイコフレームにもナラティブの経験値に対しても、ポジティブなデータを蓄積するだけで済むんです。それは……サイコスーツ経由で、ナラティブを動かすとき、より速く機動させる可能性がありますよ』

「そうね。でも、やらせてもらうわ」

『……何か、計算があるんですか?シミュレーターは、リアルに作られてはいますけど、体力を消耗したりしませんよ。こちらの方が、不利な条件が増えています』

「計算は、あるわよ。ガンダムとの本気の戦いに慣れていないと……『フェネクス』と対峙した時に、怯んでしまうかもしれないでしょ?……アムロ・レイを相手にするのなら、『フェネクス』の模擬戦には、丁度いい」

『……たしかに、ユニコーン・タイプは、νガンダムの開発データも使われているでしょうけどね。アムロ・レイの……ニュータイプか、強化人間の専用機体じゃありますから』

「『フェネクス』のお兄さんなわけね。似ているのなら、丁度いいわ」

『……傷つかないで下さいね』

「ええ。機体の消耗をリセットして、相対距離10000メートル。一対一の設定をして」

『了解』

 シミュレーターの映像が停止する。

 数秒後には宙域にあれほど蠢いていたモビルスーツの光は全て消え去り、何もない真空の虚無が広がり……はるか前方に片翼の天使みたいな白いモビルスーツだけが浮かび上がる。

 νガンダム。

 そのパイロットは、アムロ・レイ。

 身震いする。明らかに自分よりも強者の敵……アムロ・レイが私の敵となって目の前に現れることは、現実には無いはずだけど……こちらの認識のせいなのか、とてつもないプレッシャーを受けてしまう。

 私の臆病さだけが、生んだプレッシャーかしらね、ナラティブ?……そうじゃない気もするよ。何だかんだ言っても、全てのモビルスーツ・パイロットからすれば、アムロ・レイという存在は、あまりにも大きいのだ。巨大な山にケンカ売るようなものよね……。

 モニタリングされているバイタルに、何か変調が現れていたのかもしれない。エンジニアの声が、コクピットに響いて来る。

『……やめときますか?……まだ、間に合いますけれど?』

「いいや。やる。お前、ちょっとしつこいぞ。持論を曲げようとしないのは、エンジニアらしいような気もするが、パイロットの勘ってのも信頼しろ。私たちはチームだろ」

『……了解。一対一の条件での戦闘開始まで、10、9、8、7、6―――』

 ―――心配してもらっているのは、十分に理解してはいるんだけど。ちょっとは、自信ってのものが生まれているのよね。

 この数日……私はナラティブのためだけに生きて来た。この子とコンビを組み、強くなるためだけに、全ての瞬間を捧げて来たんだから……。

 ……さすがに勝てるだなんて、思っちゃいないけれど。少しは実力をつけられた。一瞬で負けるつもりはない。見せ場の一つぐらいは、作ってみせるわよ、ナラティブ……?

『―――3、2……ミッション、スタート』

「……来る!」

 νガンダムが動き始めていた。片翼の天使のようで、アンバランス。でも、どこか美しさがある機体。遠距離での火力はこちらが上だ。

 そして、推進力もこちらが上。アムロ・レイは間合いを詰めて戦おうとしている。極めて普通の戦い方だ。

 ならば、こちらもオーソドックスに頼ろうじゃないか。

「ナラティブ!ミサイル、放てええええええええッ!!」

 シュドドドドドドドドッ!!……ナラティブの追加装備であるミサイルポッドが、連続して十発のミサイルの雨をνガンダムに向けて撃ち放つ。

 高速で飛来するミサイルの雨をνガンダムは右に機動しながら回避を試みつつ―――ビームライフルと頭部バルカンを使って、自分に接近して来るミサイルを撃墜していく。

「うそっ!?……後ろに下がりながらじゃなくても、そんなことが出来るっていうの!?」

 自分でもミサイルは撃ち落とせる。ただし、後退することでミサイルの速度を打ち消すことを使うことでだが……。

 しかし、アムロ・レイの技量と反射速度ならば、そんなことをするまでもなく、ミサイルを撃墜することが可能であるらしい……。

「バケモノねッ!!」

『……アレをニュータイプの能力ではなく、ただのパイロットのテクニックとしてやっているんです。アムロ・レイっていうのは、ニュータイプである前に、超一流のパイロットということですよ』

「……そんなことは、相対している私の方が、知っているわよ!!私だって、パイロットなんだからな!!」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。