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知らない天井、いつもの天井、あなたの微笑み

原作: ラブライブ! 作者: 桔梗
目次

第一話:知らない天井

「ねー、夏休みもうすぐ終わっちゃうし最後にもう一回だけ海行こうよー…」
 穂乃果ちゃんの言葉でストレッチしていた各々が視線をそっちへ向けた。
「海未なら私ですが…」
「そういうお決まりもういらないにゃ…」
「凛…」
「合宿の時散々遊んだじゃない、まーだ足りないってー?」
「足りない!全然足りない!!」
「でも次まであまり時間も無いし…」
「えー!行きたい行きたい!皆で最後に海行きたいよー!」
「ええんちゃうかな?もうこうなっちゃったら練習どころやないんと違う?」
「の、希…」
「流石希ちゃん!じゃあ水着持ってまた集合しよー!」

 あれよあれよという間に気付いたら海に行く事が決まってしまった。

 海かぁ…ウチ最近寝れて無いんやけど大丈夫かな…なんてその時はあまりちょっと気にする程度で、まさかあんな大事になるなんて思いもしなかった。



 今までえりちの水着姿なんていっぱい見てきた…それに学校指定のじゃ全然違うのかもしれないけど。
 そ、それに修学旅行!一緒に大浴場も入ったやん…そりゃじろじろ見ちゃ悪いと思ってあんなの見た内に入んないけど…兎に角もう裸だって見てるんよ?

「だったらどうして今更ドキドキなんか…」

 高校生になって、えりちに出会った瞬間から始まった片思い。一緒に居すぎて、もう、拗らせてしまった報われない恋——

「あー!希ちゃん危ない!!」
「えっ…!?」
「希…!?」

 パンパンに膨らんだビーチボールがウチの顔面に直撃。ちょっと痛いだけやったんやけど、事態はそれだけで収まらなくて…

「ちょっと、希!?」
 ウチは足が縺れて海に転倒。
「希!希!?大丈夫なの!?」
 えりちの声がちょっと高い声から聞こえてくる。けどなんやその声はどんどん遠ざかっていく。そんな心配せんでもウチは大丈夫やって早く伝えてあげたいのに身体が言うことを聞いてくれない。

 そうしてる間にウチは気を失ってしまったみたい。



 重い瞼をゆっくり開くと身体に上手く力が入らない。背中に硬い感覚があるからどうやらウチは横になってる状態なんやろうけど、どうしてこんなに身体が重たいん…。

「希!」
「あ、えりち…?」

 知らない天井を遮るように視界に入るえりちの顔に思わず力が抜けてく気がした。

 にしても、えりちなんでそんな泣きそうな顔してるん…

「はぁ、良かった…どこか痛い所とかない?」
「痛くはないけど、身体がめっちゃ重くて…」
「倒れたのだもの、当然よ…」

 呆れたよう吐き捨てるみたいに言うえりちの声に、胸をナイフで一突きされたような気分になった。

「寝不足と栄養不足みたいね。夏バテかしら…思い当たる節あるでしょ?」

 緩く巻かれた赤い髪…いつも会ってる女の子が大きくなったらきっとこんな美人さんになるんやろうなぁって感じの女性が白衣を着てパソコンや救護箱が置かれた机に向かっている。
 幾つかキーボードのキーを長くて綺麗な指がカタカタタン!と軽やかな音を立てる。

 やっぱりこの人……

「いつも真姫ちゃんがお世話になっています、東條希さん。」
「えぇっ!?」
「真姫のお母さまよ。」
「でも真姫ちゃんのお母さんが何でここに…」
「この時期になると海水浴場にうちの病院から看護師を常駐させるのだけれど、その看護師が熱中症で倒れてしまって…私はその代理なの。」

 なるほどなぁ…さっきキーボード打ってる指とかその姿が誰かと似てるなぁって思ったんやけど、流石親子やんね。

「それにしても、寝不足や栄養不足で倒れるなんて感心しないわ。そんなに練習ってハードな…」
「違うんです!これはウチの体調管理が…!」
「希っ、安静にしてなきゃ…!」

 そんなに大変なら真姫ちゃんにそんなことさせられない、なんやそう言われてまう気がして慌ててウチは弁解しようとしたんやけど。

「ふふ、わかっているのなら…もう大丈夫そうね?」
「へ?」
 ウチの心配に反して返ってきたのは優しくも柔らかい笑顔だった。
「詳しい話を聞かせてくれないからどんな活動をしているのか不安だったけれど、あなた達みたいな上級生が居てくれたら大丈夫そうね。」

 その微笑みは母親のものであり、また人生の先輩でもある、そんな安心のできるものだった。

「ママ!タクシー着いたわよ…って、希気が付いたのね。動けそう?」
 唯一話題の中にいなかった真姫ちゃんが部屋に入ってくる。
 暫くウチら三人からの注目の的になった真姫ちゃんは、なんや居心地悪そう。三者面談でお母さんと一緒にいるとこを友達に見られた、みたいな…事情は違うけど似たようなものやんなぁ。ウチもお母さんと一緒におるの見られたらなんや恥ずかしいし。

「な、何よ…三人してこっち見て…。」
「ふふっ、なんでもないんよ。あ、ウチは大丈夫。タクシー呼んでくれてありがとう、真姫ちゃん。」
「いいわよそれぐらい。」
「ゆっくり休んでたらなんとなく落ち着いてきたし、帰ろっかなぁ。」
 よいしょ、ってベッドから起き上がろうとしたら自分が思ったより体は回復してないみたいでふらついてしまう。
「危ないわよ希……私も一緒に付き添うわ。」
「えっ、えりちそれは申し訳ないから…」
「何遠慮してるのよ、こんな状態の希を一人返すわけにはいかないわ。」
「そうね、付き添って貰えば?」
 結局ウチ以外の三人の言葉で家まで送って貰う事になった。


(二話に続く)
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