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理解者

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 渚
目次

理解者

私は、極端に周りからの目を気にしすぎる。
自分では気にしていないと口にするけれど、本当に気にしていないかと言われると嘘になる。でも、出来るだけ気にしないようにしている。
友達は、少ない方だ。というか、友達と呼べる人は一人も居ない。もちろん、男性とはまともに会話すらしたことがない。
だって、知らない男の人は向かい合うだけで頭の中が真っ白になっちゃうし、無意識に酷い事を言ってしまう。だから、誰も私に話しかけようとすらしなくなった。自分でもどうしたら良いのかわからない。
これって、治す方法とかあるのかな?

こんな私ですが、たった一人だけまともに会話が出来る人が一人だけいる。昔、少しの間だけ一緒に過ごしただけだったけど、時々した会うことが出来なかったけど、男の子との時間は不思議なくらい楽しい時間だった。
でも、顔もよく知らないその男の子も、気づいたらいなくなっていた。
なぜだろう・・・
彼だけが私の唯一の理解者だと思っていたのに。
彼と会わなくなってから、私は声を出すことも忘れるくらいの真っ暗な世界で生きている。誰かと会話することなく、ただ一人でずっと・・・
最近は苦手が酷くなってる気がする。誰かと一緒にいるだけ、胸が苦しくなって息が出来ない。だから一人でいる時間が増えた。

「一人は寂しいでしょ?私がセッティングしてあげるから。大丈夫だって。ちょっとかっこいい人と話したらすぐ治るって。なんとかなるからちゃんと来てね。」

時々、こんな私を心配してくれる人が、私に声をかけてくる時もある。でも、そんな優しさにもまともに話す事が出来ない。心配してくれるのはわかるけど、やっぱダメ・・・
もちろん彼氏が欲しいとか、手を繋ぎたいとか、キスだって・・・。私にだって年頃の悩みがないこともない。けど、それどころじゃない。人が居るってだけで私には無理。
私の事をなんとかしようと思って協力してくれてるのかも知れないけど、どうしても無理。話す事はもちろん、知らない人と向かい合うだけで息が出来なくなる。
だから、逃げてしまった。
私は、優しさから、逃げてしまった。
気分が落ちて、泣きそうになりながらうつむいて歩いてたら、突然腕をつかまれた。

「待って。」
「はっ!いやっ!やだっ!はなしっ・・・!!
いやーーーーーー!!」

突然の出来事で驚いた私は、その場でうずくまってしまった。
この感覚は、男の人の手だ!
それだけはわかった。混乱していた私は、訳もわからずつい大声をあげてしまった。
また、やってしまった。

ブーーー!!プップーーーー!!
プーーーー!!

小さくうずくまって震えていた私の周りろ、鳴り止まない騒音が取り囲んでいた。激しくならされている車のクラクションと、私に対する罵声が飛び交う中、私は一人怯えて小さくうずくまる事しか出来なかった。そんなクラクションと罵声が混ざった騒音が私を襲ってくる。誰か助けて・・・

「あんた大丈夫?赤信号なのに、急に飛び出したら危ないだろ。とりあえず、周りの迷惑になってるからせめて車が通れるくらいにはどいてやらないと。」

「・・・・・・」

「立てるか?」

「・・・ダメ・・・です・・・」

「そうか、なら掴まれ。」

聞き覚えのある優しい声が私を包むように聞こえてきた。
どうやら、私は赤信号を無視してそのまま歩き出してしまったらしい。だから車のクラクションと私への罵声で囲まれている。状況がなんとなくわかってきた。
どう考えても私が悪い・・・
私は、ごめんなさいとすみませんの気持ちでいっぱいになった。でも、驚きと恐怖に囲まれた状態に腰が抜けてしまった私は、その場に座り込んで動けなくなっていた。
いつもみたいに逃げ去りたいのに、足に力が入らない。
混乱して、どうしていいのかわからない。
手の暖かさとぬくもりの感覚でなんとなくわかる。私を抱えるように立ち上がらせてくれたのは、さっき私の手を掴んだ男の人だ。
恥ずかしさと恐怖でいっぱいの私を優しく歩道まで連れて来てくれたのに、男性をまともに見ることが出来ない。顔を背け、拒否するように男性の腕に小さく掴まることが精一杯。
いろいろごめんなさいという気持ちでいっぱいになっていても、顔をあげたらきっといつもみたいに逃げてしまう。そんな恐怖から、私は男性とまともに向き合う事が出来なかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいの私が出来る精一杯は、うつむいたまま謝ることだった。
本当に、今はそれが精一杯。

「ごめん・・なさい・・・・ありがとう・・ございます・・・」

「俺は大丈夫だけど、あんたこそこんなとこで何してるんだ?
久々に見かけたから声でもかけようとしたら危ないことしているし。
久々に会ったってのに、俺の顔も見れなくなったか?あんま変わらないな。」

そっと耳元に聞こえてくるその優しい声は、私の聞き覚えのある声だった。
でも、うまく思い出せない。
誰?
私は、残り少ない勇気を振り絞ってその場から逃げだそうとしたけど、男性の手は私の腕を放さなかった。こんな事、昔にもあった気がする。

「俺だって。忘れちゃった?久々だもんな。声だけじゃわかんないかな。」

聞き覚えのある声。私の酷い態度にも憶さない態度。少し強引に私を引っ張ってくれる優しい手。私は、この感覚を覚えてる。
彼だ・・・
優しく微笑むように私に話しかけてくれる男性は、間違いなく彼と同じ。やっぱり、あの時の男の子だ。
彼と会うのが久しぶりすぎて、雰囲気が変わっている彼の手に気が付かなかった。当たり前のことかもしれないけど、彼は男の子から男性になっていた。でも、不思議と嫌じゃなかった。そんな彼の些細な違いを思い出しながら接している私自身に、私は一番驚いた。
会話、出来てる。
向かい合っても、顔を向けても、手を握られていても、不思議と私は彼から逃げたいと思わなかった。
私を助ける為に力強く引っ張った感触がまだ残ってる。でも、嫌じゃなかった。

私は、目が見えない。生まれてからずっと。目が見えないからといって優しくしてくれる人たちは、みんな私を可愛そうという目線で接してくる。
それが私は嫌だった。
だから私は声も失うことにした。聞こえてくる優しさから遠くに行きたかった。
でも、彼はそんな私を理解してくれた。
不思議と、彼とは近くに居ても嫌じゃなかった。
私の事を少し遠くに見ながら、優しく話しかけてくれる彼の優しさが嬉しかった。

私は、彼の名前を、今日初めて知った。
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