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アブサン

原作: 名探偵コナン 作者: takasu
目次

1

彼女は突然現れた。

突然ジンからの呼び出しで港近くの倉庫に集められた時だった。
いつものように集まったがそこには見慣れない人物がいた。

メンバーが次々と集まるのにもかかわらずこちらを気にする様子もなく、ただ真っ直ぐと倉庫の扉の先に見える黒い海を真っ直ぐに見つめていた。

そうして凛と佇む姿はとても美しく、組織の色である黒を基調とした膝丈のワンピースの裾から覗く細長く白い手足をより一層際立たせていた。

齢20代後半くらいだろうか。集まったメンバーは男女問わず、彼女に一瞬でも目を奪われてしまった。
「やっと揃っ…」

ジンがそう言いかけて全員の視線がジンに集まった時、彼女は「ネズミ…」と一言つぶやいて静かに銃を撃った。

銃口の先にいたのは見るも無残なネズミの死骸で、NOCの事ではないと安心したのもつかの間、彼女の表情があまりに冷酷に見えてNOCのメンバー達は背筋が凍る思いだった。

ジンはそんな彼女を一瞥するとチッと舌打ちをしたがまたいつものように今度起こす大規模な爆発事件について話し始めた。

その間も彼女は話を聞いているのかまるでわからない様子で、じっと扉の外を見据えていた。

そしてジンが一通りの話を終えると彼女は何も言わずにそそくさと出て行ってしまい、すぐに車のエンジン音が聞こえてきた。帰ってしまったのだろう。

「先程いた彼女、初めて見ましたけど。一体誰なんです?」
バーボンは隣に立っていたベルモットにそっと耳打ちをして問うた。

「アブサン。昨日組織に入ったメンバーよ。」
やれやれと言わんばかりにため息をつきながらそう説明したベルモットは少々悩ましげな顔をしていた。

「昨日…ですか…?」
驚愕の表情を浮かべながらもバーボンは新たに現れたメンバーに対して恐怖を抱き始めていた。

「そう。入ってすぐの仕事であの方に気に入られたらしいわ。」

「一体どんな仕事を…?」
バーボンがそう尋ねるとベルモットは首を横に振った。

「何も聞いてないわ。彼女、一言も話さないから。それに、ラムがジンに彼女のことを紹介するように言ってたけどジンがそんなことする筈ないわ。私も彼女についてあの方から名前以外聞かされてないし。調べるなら勝手にして頂戴。」

そう言ったベルモットはもうこれ以上の質問は受け付けないと言わんばかりにその場を去ってしまった。

彼女は一体何者なんだ…?

そう思いバーボンは同じくNOCであるキールにちらりと視線を移すと彼女も同じように考え込んでいる表情をしていた。

あれから降谷は"アブサン"という人物について調べてみたが警察庁の情報網を使っても一切の情報が出てこず、彼女について分かることは何一つなかった。

黒の組織に本格的に染まっている敵なのか、或いは同じNOCで味方なのか、油断ならない毎日が続いた。

さり気無くベルモットに探りを入れてみるがベルモットでさえ彼女についてほとんど理解していないようだった。しかし、ベルモットからは彼女についてあまり嗅ぎ回るなと忠告を受けたところを見ると彼女は敵側なのかもしれない、と降谷は警戒を強めた。

そんな中、降谷はいつも通りにポアロのバイトに向かった。

相変わらず店は大忙しで。つい最近殺人未遂事件が起こったというのにこの街ではあまり気にしていられないのか、店のランチタイム客で溢れかえっていた。

…カランカラン…

「2人なんですけど、空いてますか?」
男性の声が聞こえるとすぐに梓が対応していた。
「すみません、今満席で…」
バタバタと走り回っていた足を止めて梓は申し訳なさそうに新規の客を丁重にお断りしているところだった。

普段ならさほど気にしない安室だが、その客を見て慌てて厨房を飛び出し梓の前に立った。

「少しお待ちいただければすぐにご案内致しますよ。…お久しぶりですね。」
安室はそう言って挑発的に男の隣に立つ人物に目を向けた。

あの時とはまた違う、黒を基調とした服装の彼女…"アブサン"

「…」
安室と目があった彼女は黙ったまま待ち客用の椅子に腰を下ろした。

「あーっと…待つみたいです」
そう言った男は無愛想ですみません。と一言付け加えながら頭をぽりぽりとかいて軽く会釈をすると彼女の隣に立った。

男の方は随分と若く見えた。まだ10代だろうか。長身細身で手足が長く、どこぞのアイドルのように整った容姿をしていた。

安室はそれを確認し厨房に戻り、梓になるべく早く席を空けるように言った。

厨房から作業をしながら時折彼らの方を見ると彼らは目も合わせず何やらよくわからぬ言葉で会話をしていた。

日本語でも、英語でも、他の国の言葉でもない彼らだけの言葉。

少し話すと彼らはまるで他人かのようにお互いに干渉することはなかった。
喧嘩した様子がある訳でもないが知り合いと言うには不自然な程だった。

10分程経つと丁度カウンターの2席が空いた。二人の関係ならばカウンターでいいだろう。

安室は彼らをじっくり観察する為、梓に案内をしてもらうことにした。

「お待たせしてすみません!こちらへどうぞ!」
明るく屈託のない笑顔で接客をする梓はいつも通りで、彼らの不自然な様子に全く気がついていないようだった。



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