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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
目次

最終問題

「三対二でAクラスの勝利です」



 視聴覚室になだれこんだ俺らに対する高橋先生の締めの台詞。



「……雄二、私の勝ち」


「……殺せ」


「良い覚悟だ、殺してやる! 歯を食い縛れ!」


「全裸で校庭を引きずり回してやる!」


「吉井君、落ち着いてください!」


「落ち着くのじゃ智也!」



 姫路さんが明久に、木下が俺に後ろから抱きつく。

 男だと分かっているのに興奮するのは何故だろう。



「だいたい、53点ってなんだよ! 0点なら名前の書き忘れとかも考えられるのに、この点数だと──」


「いかにも俺の全力だ」


「「この阿呆がぁーっ!」」


「アキ、落ち着きなさい! 竜崎はともかく、アンタだったら30点も取れないでしょうが!」


「それについて否定はしない!」


「それなら、坂本君を責めちゃダメですっ!」


「くっ! なぜ止めるんだ姫路さんに美波! この馬鹿には喉笛を引き裂くという体罰が必要なのに!」


「それって体罰じゃなくて処刑です!」


「なら俺がぶっ殺してやんよ!」


「やめるのじゃ智也!」



 木下が身体を張って必死に俺を止める。

 ちっ。木下の優しさに救われたな。



「……でも危なかった。雄二が所詮小学生の問題だと油断していなければ負けてた」


「言い訳はしねぇ」



 ってことは図星だな、このクソ野郎。



「……ところで、約束」



 あ。

 そう言えば、負けたら何でも言うことを聞くんだったな。

 近くで撮影の準備をしているムッツリーニには、後で撮ったものを見せてもらうことにしよう。



「わかっている。何でも言え」


「……それじゃ──」



 霧島が姫路さんに一度視線を送り、再び雄二に戻す。

 そして、小さく息を吸って、



「……雄二、私と付き合って」




 言い放った。





 ……おう?



「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか」


「……私は諦めない。ずっと、雄二のことが好き」



 ……何なんだ、この状況は?

 何故霧島は雄二に交際を迫ってるんだ? 霧島が好きなのは女の子じゃないのか?



「その話は何度も断っただろ? 他の男と付き合う気はないのか?」


「……私には雄二しかいない。他のひとなんて、興味ない」



 つまり――霧島が好きなのは女の子だっていう噂は、ずっと雄二を一途に思っていた結果ということか?

 霧島が姫路さんを見ていたのは、雄二の傍にいる異性が気になったからなのか?



「拒否権は?」


「……ない。約束だから。今からデートに行く」


「ぐぁっ! 放せ! やっぱこの約束はなかったことに──」



 ぐいっ つかつかつか 



 霧島は雄二の首根っこを掴み、教室を出て行った。 



「…………」


「…………」


「…………」



 教室にしばしの沈黙が訪れる。

 あまりの出来事に言葉が出ない。



「さて、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ」



 呆然としている俺たちの耳に野太い声がかかる。

 声のした方を見ると、そこには生活指導の西村先生の姿が。



「あれ? 西村先生。僕らに何か用ですか?」


「ああ。今から我がFクラスの補習についての説明をしようと思ってな」



 ん? 我がFクラス?



「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死
に物狂いで勉強できるぞ」


『なにぃっ!?』



 俺を含めた、Fクラス全員の絶叫が響き渡った。



 転校してきて間もない俺でさえも聞いたことがある、西村先生こと鉄人の噂。

 生活指導の鉄人と言えば、『鬼』の二つ名を持つほどの厳しい教育をする先生らしい。今回の試召戦争で
も、補習室の管理もしていたし。



「いいか。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまでくるとは正直思わなかった。でもな、いくら 
『学力が全てではない』 と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないか
らといって、ないがしろにしていいものじゃない」



 ふむ。正論だな。



「吉井。お前と坂本は特に念入りに監視してやる。なにせ、開校以来初の≪観察処分者≫とA級戦犯だからな」


「そうはいきませんよ! なんとしても監視の目をかいくぐって、今まで通りの楽しい学園生活を過ごして
みせます!」



 ……こいつには悔い改めるという発想はないらしい。



「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう」



 そんな西――鉄人の台詞に、俺は溜め息をついた。

 その補習を受ける奴には、当然俺も含まれているのだろう。そんなのゴメンだ。

 と、どうやって鉄人の補習から逃れるかを考えていると、鳳が綺麗な金色の髪を揺らしながら歩み寄って
きて、こう言った。



「さて、約束を守ってもらうぞ? 竜崎智也」


「あん? 約束?」


「……貴様は本当に昔から変わらないな。フンッ! まあいいさ。とりあえず、今日はディナーだけで許し
てやろう」


「いや、なんで俺がお前に夕食を奢ってやることになってるんだよ?」


「当たり前だろう? 貴様は私に負けたのだぞ?」


「や、負けたけどさ」



 それだけで奢らせるなんて、酷くない?



「ちょっと待って欲しいな」


「む? ……なんだ、木下か」



 不意に、後ろから声が。振り向くと、鳳の言う通り、そこには木下姉の姿があった。



「……何の用だ? 私は忙しいのだが」


「鳳さんに用はないよ。私が用があるのは――」



 ちらり、と俺の方を見る木下姉。なんだろうか?



「――竜崎君だからね」


「俺に? ……ああ」



 そう言えばと、Aクラスに一騎打ちの交渉をしに行ったときのことを思い出す。



「思い出した? それじゃあ、クレープでも食べに行かない?」


「ちょっと待て木下優子! コイツは……智也は私と一緒にディナーに行くんだ!」


「クレープかぁ……いいな。よし、行くか」


「っておい! ちょっと待て貴様! 私との約束はどうしたっ!?」


「本当? なら、駅前の 『ラ・ペディス』 に行こうよ」


「ああ」


「無視するなぁーーっ!!」



 こうして、この俺、竜崎智也の初めての試召戦争は幕を閉じた。

 打倒Aクラスという目標は達成できなかったものの、この数日間は充実したものだった。多分、これから
もそれは続くのだろう。

 とりあえず、今俺がすべきこと。それは、



「許さんぞ竜崎智也! 貴様の本気女装写真、校内中にばら撒いてやる!」


「それだけは勘弁してくれ!」



 この金髪チビの機嫌を、どうやって直すか、ということだった。


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