第九問②
「では、両名共準備は良いですか?」
今日は、ここ数日の試召戦争で何度もお世話になっている、Aクラス担任かつ学年主任の高橋先生が務め
る。
知的な眼鏡とタイトスカートから伸びる脚がとても魅力的だ。
「ああ」
「……問題ない」
一騎打ち会場はAクラス。腐った畳のFクラスでは締まらないからな。
「それでは一人目の方、どうぞ」
「アタシから行くよっ」
Aクラスからは木下姉。
対するこちらは、
「ワシがやろう」
その弟の木下秀吉だ。
実の姉、しかも双子なのだから、木下姉の苦手科目や、集中力の乱し方を知っているはず。少しは勝てる
可能性があるはずだ。
「ところでさ、秀吉」
「なんじゃ? 姉上」
「Cクラスの小山さんって知ってる?」
「はて、誰じゃ?」
ん? なんかマズいことが起きている気がする。
Cクラスの小山って、確か……
「じゃーいいや。その代わり、ちょっとこっちに来てくれる?」
「うん? ワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ姉上?」
……確か、この前木下が罵倒しまくっていた奴だったはずだが……。
『姉上、勝負は──どうしてワシの腕を掴む?』
『アンタ、Cクラスで何してくれたのかしら? どうしてアタシがCクラスの人達を豚呼ばわりしているこ
とになっているのかなぁ?』
『はっはっは。それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して──あ、姉上っ! ちがっ……! その関
節はそっちには曲がらなっ……!』
ガラガラガラ
扉を開けて木下姉が戻ってくる。
「秀吉は急用ができたから帰るってさっ。代わりの人を出してくれる?」
「……転校生、行って来い」
「……だが断る!」
「……だろうな。……ウチの不戦敗で良い」
にこやかに笑いかけながらハンカチで返り血を拭う木下姉。さすがの雄二も何も言えないみたいだ。
「そうですか。それではまずAクラスが一勝、と」
高橋先生がノートパソコンを操作すると、壁一面の大きなディスプレイに結果が表示された。
生命活動
Aクラス木下優子
WIN
VS
Fクラス木下秀吉
DEAD
まだ生きてますよ、とは言えなかった。
「では、次の方どうぞ」
「………… (スック)」
隣にいたムッツリーニが立ち上がった。
Aクラスとの交渉で手に入れた、科目選択権がここで初めて活きてくる。
何故なら、ムッツリーニは総合科目の点数の内、実に80%を保険体育で獲得する猛者。その単発勝負な
ら、ムッツリーニは負けることはない。
「じゃ、ボクが行こうかな」
Aクラスからは色の薄い髪をショートカットにした、ボーイッシュな女子が出てきた。
「一年の終わりに転校してきた工藤愛子です。よろしくね」
身体の凹凸が少なく、パッと見少年のようだ。
「教科は何にしますか?」
「…………保健体育」
ムッツリーニの唯一にして最強の武器が選択される。
「土屋くんだっけ? 随分と保健体育が得意みたいだね?」
随分と余裕そうだ。もしかして、ムッツリーニの実力を知らないのだろうか?
「でも、ボクだってかなり得意なんだよ? ……キミとは違って、実技で、ね♪」
「フォーーーーーーッ!!!」
凄い問題発言だ。俺は今、猛烈に興奮している!
「そっちのキミ、吉井君だっけ? 勉強苦手そうだし、保健体育で良かったら良かったらボクが教えてあげ
ようか? もちろん実技で」
「フッ。望むところ──」
「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育の勉強なんて要らないのよ!」
「そうです! 永遠に必要ありません!」
「…………」
「島田に姫路。明久が死ぬほど哀しそうな顔をしているんだが」
「……気にすんな、明久。案外、機会は近いうちに来るかもしれないぜ?」
「……ほんと?」
「嘘だ。お前にそんな機会は永遠に来ない」
「ひ、酷いっ!」
こんな美少女二人に好かれてる野郎を慰めるわけがない。
「あらら、振られちゃった。じゃあ、そっちのキミ、竜崎君だっけ? 勉強得意みたいだけど、保健体育は
どうかな? 良かったらボクが教えてあげようか? もちろん、実技でね♪」
「む、俺か? よし、体育倉庫に行こう」
「何を言っとるのじゃおぬしはっ!」
「いてっ!? ……木下? いつの間に帰ってきたんだ? ってか、何で殴るんだよ!」
「む、むぅ……い、いろいろと理由があるんじゃ! ……それと、戻ってきたのはついさっきじゃ。今回は
姉上が手加減してくれたからの」
「手加減?」
今回は、ってことは、いつもやられてるのか?
「うむ。実は――」
『わかってるわよね~秀吉?』
「…………。……うむ、何でもないぞ、智也」
少し離れたところから木下姉の声が聞こえてくると、木下は黙ってしまった。実は、の後は何だったんだ
ろう?
「そろそろ召喚を開始して下さい」
「はーい。試獣召喚っと」
「…………試獣召喚」
二人に似た召喚獣が、武器を手に持ってその場に出現する。
ムッツリーニは小太刀の二刀流。対する工藤は、
「なんだあの巨大な斧は!?」
「すごく……大きいです」
見るからに破壊力抜群そうな巨大な斧。加えて、特殊能力を使えることを示す腕輪までしている。……こ
れは、かなり手ごわいかもしれない。
「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ」
工藤が艶っぽく笑いかけるのと同時に、腕輪を光らせながら召喚獣が動いた。
巨大な斧に雷光をまとわせ、かなりのスピードでムッツリーニの召喚獣に詰め寄る。
「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん」
「ムッツリーニっ!」
斧が召喚獣を両断する──
「…………加速」
と思った直後、ムッツリーニの腕輪が輝き、召喚獣の姿がブレた。
「……え?」
「…………加速、終了」
ボソリと、ムッツリーニがつぶやく。
一呼吸置いて、工藤の召喚獣が全身から血を噴き出して倒れた。
保健体育
Aクラス工藤愛子
446点
VS
Fクラス土屋康太
572点
つ、強い! 下手したら、明久の総合科目並みの点数なんじゃないか?
「そ、そんな……! この、ボクが……!」
工藤が床に膝をつく。相当ショックみたいだ。
今日は、ここ数日の試召戦争で何度もお世話になっている、Aクラス担任かつ学年主任の高橋先生が務め
る。
知的な眼鏡とタイトスカートから伸びる脚がとても魅力的だ。
「ああ」
「……問題ない」
一騎打ち会場はAクラス。腐った畳のFクラスでは締まらないからな。
「それでは一人目の方、どうぞ」
「アタシから行くよっ」
Aクラスからは木下姉。
対するこちらは、
「ワシがやろう」
その弟の木下秀吉だ。
実の姉、しかも双子なのだから、木下姉の苦手科目や、集中力の乱し方を知っているはず。少しは勝てる
可能性があるはずだ。
「ところでさ、秀吉」
「なんじゃ? 姉上」
「Cクラスの小山さんって知ってる?」
「はて、誰じゃ?」
ん? なんかマズいことが起きている気がする。
Cクラスの小山って、確か……
「じゃーいいや。その代わり、ちょっとこっちに来てくれる?」
「うん? ワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ姉上?」
……確か、この前木下が罵倒しまくっていた奴だったはずだが……。
『姉上、勝負は──どうしてワシの腕を掴む?』
『アンタ、Cクラスで何してくれたのかしら? どうしてアタシがCクラスの人達を豚呼ばわりしているこ
とになっているのかなぁ?』
『はっはっは。それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して──あ、姉上っ! ちがっ……! その関
節はそっちには曲がらなっ……!』
ガラガラガラ
扉を開けて木下姉が戻ってくる。
「秀吉は急用ができたから帰るってさっ。代わりの人を出してくれる?」
「……転校生、行って来い」
「……だが断る!」
「……だろうな。……ウチの不戦敗で良い」
にこやかに笑いかけながらハンカチで返り血を拭う木下姉。さすがの雄二も何も言えないみたいだ。
「そうですか。それではまずAクラスが一勝、と」
高橋先生がノートパソコンを操作すると、壁一面の大きなディスプレイに結果が表示された。
生命活動
Aクラス木下優子
WIN
VS
Fクラス木下秀吉
DEAD
まだ生きてますよ、とは言えなかった。
「では、次の方どうぞ」
「………… (スック)」
隣にいたムッツリーニが立ち上がった。
Aクラスとの交渉で手に入れた、科目選択権がここで初めて活きてくる。
何故なら、ムッツリーニは総合科目の点数の内、実に80%を保険体育で獲得する猛者。その単発勝負な
ら、ムッツリーニは負けることはない。
「じゃ、ボクが行こうかな」
Aクラスからは色の薄い髪をショートカットにした、ボーイッシュな女子が出てきた。
「一年の終わりに転校してきた工藤愛子です。よろしくね」
身体の凹凸が少なく、パッと見少年のようだ。
「教科は何にしますか?」
「…………保健体育」
ムッツリーニの唯一にして最強の武器が選択される。
「土屋くんだっけ? 随分と保健体育が得意みたいだね?」
随分と余裕そうだ。もしかして、ムッツリーニの実力を知らないのだろうか?
「でも、ボクだってかなり得意なんだよ? ……キミとは違って、実技で、ね♪」
「フォーーーーーーッ!!!」
凄い問題発言だ。俺は今、猛烈に興奮している!
「そっちのキミ、吉井君だっけ? 勉強苦手そうだし、保健体育で良かったら良かったらボクが教えてあげ
ようか? もちろん実技で」
「フッ。望むところ──」
「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育の勉強なんて要らないのよ!」
「そうです! 永遠に必要ありません!」
「…………」
「島田に姫路。明久が死ぬほど哀しそうな顔をしているんだが」
「……気にすんな、明久。案外、機会は近いうちに来るかもしれないぜ?」
「……ほんと?」
「嘘だ。お前にそんな機会は永遠に来ない」
「ひ、酷いっ!」
こんな美少女二人に好かれてる野郎を慰めるわけがない。
「あらら、振られちゃった。じゃあ、そっちのキミ、竜崎君だっけ? 勉強得意みたいだけど、保健体育は
どうかな? 良かったらボクが教えてあげようか? もちろん、実技でね♪」
「む、俺か? よし、体育倉庫に行こう」
「何を言っとるのじゃおぬしはっ!」
「いてっ!? ……木下? いつの間に帰ってきたんだ? ってか、何で殴るんだよ!」
「む、むぅ……い、いろいろと理由があるんじゃ! ……それと、戻ってきたのはついさっきじゃ。今回は
姉上が手加減してくれたからの」
「手加減?」
今回は、ってことは、いつもやられてるのか?
「うむ。実は――」
『わかってるわよね~秀吉?』
「…………。……うむ、何でもないぞ、智也」
少し離れたところから木下姉の声が聞こえてくると、木下は黙ってしまった。実は、の後は何だったんだ
ろう?
「そろそろ召喚を開始して下さい」
「はーい。試獣召喚っと」
「…………試獣召喚」
二人に似た召喚獣が、武器を手に持ってその場に出現する。
ムッツリーニは小太刀の二刀流。対する工藤は、
「なんだあの巨大な斧は!?」
「すごく……大きいです」
見るからに破壊力抜群そうな巨大な斧。加えて、特殊能力を使えることを示す腕輪までしている。……こ
れは、かなり手ごわいかもしれない。
「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ」
工藤が艶っぽく笑いかけるのと同時に、腕輪を光らせながら召喚獣が動いた。
巨大な斧に雷光をまとわせ、かなりのスピードでムッツリーニの召喚獣に詰め寄る。
「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん」
「ムッツリーニっ!」
斧が召喚獣を両断する──
「…………加速」
と思った直後、ムッツリーニの腕輪が輝き、召喚獣の姿がブレた。
「……え?」
「…………加速、終了」
ボソリと、ムッツリーニがつぶやく。
一呼吸置いて、工藤の召喚獣が全身から血を噴き出して倒れた。
保健体育
Aクラス工藤愛子
446点
VS
Fクラス土屋康太
572点
つ、強い! 下手したら、明久の総合科目並みの点数なんじゃないか?
「そ、そんな……! この、ボクが……!」
工藤が床に膝をつく。相当ショックみたいだ。
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