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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
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第七問②

「ドアと壁をうまく使うんじゃ! 戦線を拡大させるでないぞ!」



 木下の指示が飛ぶ。

 あの後午前九時よりBクラス戦が開始され、俺たちは昨日中断されたBクラス前という位置から進軍を開
始した。

 雄二曰く、『敵を教室内に閉じ込めろ』 とのこと。

 そんなわけで指示を遂行しようと戦争をしているんだが、ここで一つ問題があった。


 姫路さんの様子がおかしい。


 本来は総司令官であるはずの彼女だけど、今日は一向に指示を出す気配がない。それどころか何にも参加
しないようにしているように見える。何かあったんだろうか?



「勝負は極力単教科で挑むのじゃ! 補給も念入りに行え!」



 そんなわけで今指揮をとっているのは副司令官の木下。ここ数時間は雄二の指示通りうまくやれている。



「左側出入り口、押し戻されています!」


「古典の戦力が足りない! 援軍を頼む!」



 押し戻された左の出入り口にいるのは、たしか古典の竹中教諭だ。

 まずいな。見ている限り、Bクラス生徒は文系が多いようなので、強力な個人戦力で流れを変えないと一
気に突破される恐れがある



「姫路さん、左側に援護を!」



 同じようなことを思ったのか、明久が姫路さんに指示を出す。

 雄二の作戦では午後に姫路さんが担う重要な役割があるらしいので、そうそう頼るわけにはいかないんだ
が……こうなれば仕方ない。



「あ、そ、そのっ……」



 その肝心な姫路さんが、戦線に加わらず泣きそうな顔をしてオロオロしている。マズい! 突破される!



「だあぁっ!」



 そんな中、明久が人込みを掻き分け、左側の出入り口にダッシュ。そして立会人をやっている竹中教諭の
耳元で何かをささやく。



「少々席を外します!」



 頭を押さえながら周囲を見回し、駆け足で立ち去る。確証はないが、きっと竹中教諭にはどうしても隠し
通したいものがあったのだろう。……頭頂部とか。

 ともかく、これで少しの間ができた。



「古典の点数か残ってる奴は左側の出入り口へ! 消耗した奴は補給に回るんだ!」



 応急処置だが、これで少しは持ち直すはずだ。それに、いざとなったら俺が行けばいい。古典の点数はそ
れほど悪くはないから、少しは押し返せるはず。……面倒だからピンチのときしか行かないけど。

 と、そんなことより。



「姫路さん、どうかしたの?」



 姫路さんに声をかける。明久も姫路さんの様子がおかしいことに気付いていたようで、駆け寄ってきた。



「そ、その、なんでもないですっ」



 ブルブルと大きく首を振る姫路さん。長い髪がその動きに合わせて左右に広がる。あまりに大きな動きで
、本当は何かあるのが見え見えだ。



「そうは見えないよ。何かあったなら話してくれないかな。それ次第では作戦も大きく変わるだろうし」


「明久の言うとおりだ。きつい言い方かもしれないけど、姫路さん一人の都合で負けるわけにはいかないん
だ。それに、もしかしたら姫路さんの悩みも、俺たちで解決できるかもしれないだろ?」


「ほ、本当になんでもないんです!」



 そうは言うけど、泣きそうな顔は相変わらずだ。絶対におかしい。



「右側出入り口、教科が現国に変更されました!」



 と、そこで伝令が俺たちの下へ駆けてきた。



「なっ! 数学教師はどうした!」


「クラス内に拉致された模様!」



 右側までもBクラスの得意とする文系科目に切り替えられるとは。結構ピンチだ。



「私が行きますっ!」



 そう言って姫路さんが戦線に加わろうと駆け出した。だが、



「あ……」



 急にその動きを止めてうつむいてしまった。
 どうしたんだろう。何かを見て動けなくなったようだが――。

 姫路さんが見ていた方を目で追ってみる。

 その先には窓際で腕を組んでこちらを見下ろす外道――根本の姿があった。

 姫路さんと根本、二人の間で何かあったのだろうか? 

 ここからでは見えにくいし、あまり見たくないものではあるが、目を凝らして観察する。特に何もないよ
うに見えるが――



「……ん?」



 よく見てみると、根本の手には何の変哲もない封筒が握られていた。

 姫路さんが戦えない理由。それが、あの封筒にあるのだろう。



「……そういうことか」



 昨日の協定、あんな対等な条件の提案をしてきた時から、おかしいとは思っていた。

 だが、あの時既に姫路さんを無力化できる算段が立っていたんなら、あの協定もうなずける。姫路さんが
参加できないのなら、あの協定はBクラスが圧倒的有利な条件なのだから。

 上手い方法だ。合理的で、失うものもリスクもない。



「……なるほどね。そういうことか」



 隣で、同じく根本の姿を確認した明久が呟く。

 ……仕方ない。姫路さんにとってのヒーローは、俺ではなく明久の方がいい。



「……明久。お前邪魔だから一旦退け。ここは俺だけで充分だ」


「智也……わかった。任せたよ!」


「貸し八だからな」


「うん――って多いよ!」


「さっさと行け馬鹿」



 俺の言葉を受け、明久は廊下を駆け出した。



「それから、姫路さん」


「は、はい……?」


「具合が悪そうだからあまり戦線に加わらなくていい。Bクラス戦は、あくまでも通過点だからな。Aクラ
ス戦がある以上、体調管理にも気をつけてもらわないと」


「……はい」


「じゃ、Bクラスの雑魚共を片付けてくるから」



 言って、現代国語に教科が変更された右側出入り口へと向かう。姫路さんは何か言いたげだったけど、そ
れを最初に聞くのは、俺じゃない。



「ったく、また姫路さんの中で明久の評価が大きく上がっちまうじゃないか。全部根本の野郎のせいだ」



 思わずそんな台詞が口からこぼれる。


 あの野郎、ブチ殺す。


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