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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
目次

第七問①

「昨日言っていた作戦を実行する」



 翌朝。登校した俺たちに雄二は開口一番にそう告げた。



「作戦? でも、開戦時刻はまだだよ?」


「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ」


「あ、なるほど。それで何をすんの?」


「秀吉にコイツを着てもらう」



 そう言って雄二が鞄から取り出したのはうちの学校の女子の制服。

 赤と黒を基調としたブレザータイプで、他校にもオトナのオトモダチにもかなり人気だと聞いたことがあ
る。



「ところで雄二」


「なんだ?」


「そんなもの、どうやって手に入れたんだ?」


「なに、ちょっとしたコネでな」


「…………」


「……何故、距離をとるんだ? 転校生」


「いや、気にしないで続けてくれ」



 ……雄二、君に何があったんだい?



「それは別に構わんが、ワシが女装してどうするんじゃ?」



 男としては大いに構った方がよさそうな気もするけど、木下だし、まあいいか。

 それにしても、木下が女子用の制服を着て一体どうするのだろう?



「秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」


「……木下優子?」


「Aクラスにいる秀吉の双子のお姉さんだよ」



 隣にいる明久が教えてくれる。木下のお姉さんか、きっと美人なんだろうな。



「と、いうわけで秀吉。用意してくれ」


「う、うむ……」



 雄二から制服を受け取り、その場で生着替えを始める木下。

 くそっ! 相手は男なのに目が離せない!



「……………!! (パシャパシャパシャパシャ!)」



 ムッツリーニは指が擦り切れるんじゃないかというくらいに凄い速さでカメラのシャッターを切っている。

 良かった。ときめいているのは俺だけじゃないみたいだ。



「よし、着替え終わったぞい。ん? 皆どうした?」



 きっと俺たちは皆とても複雑な表情をしていることだろう。



「さぁな? 俺にもよくわからん」


「おかしな連中じゃのう」


 いや、絶対におかしいのは木下の外見だ! どうしてそんなに色っぽいんだよ!



「んじゃ、Cクラスに行くぞ」


「うむ」


 雄二が木下を連れて教室を出て行く。



「あ、僕も行くよ」



 その後を、慌てて明久が追う。

 さて、俺はどうするべきか……なんて、考えるまでも無い。



「俺も行こう」



 きっとそっちのほうが、楽しいだろうから。


 そのまましばらく廊下を歩き、Cクラスを目の前にして立ち止まる俺たち。



「さて、ここからは済まないが一人で頼むぞ、秀吉」



 Aクラスの使者になりすます以上、Fクラスの俺たちが同行するのはまずい。よって、離れた場所から様
子を窺うことになる。



「気が進まんのう……」



 あまり乗り気ではない様子の木下。なら着替えなきゃいいのに。



「そこを何とか頼む」


「むぅ……。仕方ないのう……」


「悪いな。とにかくあいつらを挑発して、Aクラスに敵意を抱くよう仕向けてくれ。お前ならできるはずだ」


「頑張れ、木下。もし襲われそうになっても助けてやるから」


「はぁ……。あまり期待はせんでくれよ……」



 溜息と共に力なくCクラスに向かう木下。



「雄二、秀吉は大丈夫なの? 別の作戦を考えておいた方が……」


「多分大丈夫だろう」


「心配だなぁ……」


「シッ。秀吉が教室に入るぞ」



 雄二が口に手を当てる。ここから声は聞こえたりしないだろうけど、念のため指示に従うことにした。

 ガラガラガラ、と木下がCクラスの扉を開ける音が聞こえてくる。




『静かにしなさい、この薄汚い豚ども!』




 ……わお。




「流石だな、秀吉」


「うん、これ以上はない挑発だね……」


「くそっ! 姫路さん、島田さんが駄目な以上、木下姉が唯一の希望だったのに……っ! 性格良くて美少
女ってのはいないのかっ!?」


「……智也、何言ってるの?」


「気にするな。現実の厳しさを再確認しただけだから」


『な、なによアンタ!』



 この高い声は昨日あったCクラス代表の小山だろう。怒っているのが顔を見なくても伝わってくる。ま、
いきなり豚呼ばわりされたら、一部の変態さん以外は誰だって怒るだろうしねぇ……。



『話しかけないで! 豚臭いわ!』



 自分から来たくせに豚臭いって。もうツッコミどころ満載だ。



『アンタ、Aクラスの木下ね? ちょっと点数が良いからっていい気になってるんじゃないわよ! 何の用
よ!』


『私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの! 貴女達なんて豚小屋で充分だ
わ!』


『なっ! 言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですって!?』



 誰もFクラスとは言ってないぞ。



『手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようかと思うの』



 確か木下は演劇部に所属していたはずだが、演劇部ってここまで出来ないとダメなのだろうか。それとも
、うちの学校が異常なのか?



『ちょうど試召戦争の準備をしているようだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私達が薄汚い貴女達を始
末してあげるから!』



 そう言い残し、靴音をたてながら木下は教室を出てきた。



「これで良かったかのう?」



 どこかスッキリした顔で木下が近寄ってくる。



「ああ。素晴らしい仕事だった」


『Fクラスなんて相手にしてられないわ! Aクラス戦の準備を始めるわよ!』



 Cクラスから小山のヒステリックな叫び声が聞こえてくる。どうやらうまくいったようだ。



「む? どうしたのじゃ智也。そんな浮かない顔をして」


「……いや。現実って厳しいなって」


「? どういう意味じゃ?」


「……気にするな」



 きっと、いつかは俺にも春はやってくるよね?



「作戦もうまくいったことだし、俺達もBクラス戦の準備を始めるぞ」


「あ、うん」


「了解」



 余計なことに気を取られている暇はない。あと十分で試召戦争が始まる。

 俺達は早足でFクラスへと向かった。




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