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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
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第六問⑨

「はぁ、ふぅ……」


「姫路、大丈夫か?」



 廊下を走っていると、姫路さんが遅れだした。運動が得意そうにはとても見えないし、姫路さんは身体が
弱いらしいから、この全力疾走は厳しいだろう。



「あ、あの、さ、先に……行って、ください……」



 息も絶え絶えに姫路さんが言う。このまま彼女を連れていたら確実に追いつかれるだろう。でも、ここで
彼女を失うわけにはいかない。姫路さんがいなくては明日の戦争がどうなるかわからないし、なにより、女
子を見捨てるなんてできるわけがない。


 仕方ない、か……。



「「雄二!」」


「なんだ明久に転校生!」



 と、明久と声が重なる。明久の方を見ると、コクリ、と頷いてきた。どうやら考えていることは同じみた
いだ。



「ここは俺達が引き受ける! 雄二は姫路さんを連れて逃げてくれ!」



 その場に立ち止まり、振り向いて、遅れて走ってくる雄二、姫路さんとすれ違う。

 まさか俺がこんなことを言う日がくるなんて。男らしくて格好良くね?



「よ、吉井君、竜崎君、私のことは、気に、しないで」


「……わかった。明久、ここはお前に任せる。転校生は俺と姫路を教室まで護衛しろ。敵は後ろのやつらだ
けじゃないかもしれないからな」



 姫路さんの言葉を遮り、雄二が応える。さすが雄二だ。感情に流されず、今必要な処置を正しく把握して
いる。



「……わかった」



 あまり納得はいかないが、確かに雄二の言う通りだ。Fクラスにたどり着くまでに敵が待ち伏せていない
とも限らない。



「………… (ピタッ)」


「いや、ムッツリーニも逃げて欲しい。多分明日はムッツリーニが戦争の鍵を握るから」



 一緒に立ち止まったムッツリーニ。明久の言う通り、ムッツリーニには重要な役割がある。ここで失うわ
けにはいかない。



「んじゃ、ウチは残ってもいいのかしら。隊長どの?」



 明久の隣には一緒になって立ち止まった島田さんがいた。



「……頼めるかな?」


「はーいはい。お任せあれっと」



 笑いながら追っ手が来る方向を見つめる島田さん。男らしい。



「………… (グッ)」


「二人とも、任せたぞ」


「うん、任せといて!」



 明久と島田さんに別れを告げ、先を走る雄二と姫路さんを追いかける。


 二人とも、無事だといいんだが……。



.「坂本君、吉井君は、大丈夫、なんですか……?」


「瞬殺されたりしないだろうな?」


「もちろんだ。他のやつならともかく、明久ならなんとかなる」


「でも……」


「確かにアイツは勉強ができない。でもな、学力が低いからといって、全てが決まるわけじゃないだろう?」


「そ、それは、どういう……?」


「あのバカも、伊達に 《観察処分者》 なんて呼ばれてないってコトだ」




                  ☆



 結局、雄二が危惧していた待ち伏せ等もなかったようで、何事もなく教室までたどり着けた。



「ふぅ……。とりあえず、これで安心、かな?」


「多分な」



 雄二のその言葉を聞いて、ようやく一安心。緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んでしまう。

 姫路さんも、体力を使い果たしてしまったのか、その場にへたり込んでいる。



「それで? Cクラスはどうするんだ? さすがにCクラス相手に連戦はつらいぞ?」



 Fクラスと言えども、姫路さんや俺がいる以上、Cクラス相手でも善戦できるはず。でもそれはこちらが万全の状態の場合のみだ。さすがに、Bクラス戦のすぐ後にCクラス戦となると、点数も消費している上、体力的にもかなり厳しい。勝つ可能性は限りなく低いだろう。



「ああ、そのことについては俺に考えがある」


「考え?」


「ま、それは後でのお楽しみだ」



 これで何回目か分からない雄二の不敵な笑み。 雄二に考えがあるなら、まあいいか。



「……なら、俺は飲み物でも買ってくるよ。姫路さん、何か飲みたいものある?」


「は、はい、それじゃ、紅茶をお願いします」



 言って、財布を取り出そうとする姫路さん。



「あ、金はいいぞ? 俺の奢りだ。昨日の弁当の礼も兼ねてな」


「え、でも悪いですそんなの」



 姫路さんは俺達にお昼を作ってきてくれたというのに、ジュースの奢りくらいで悪いなんて。そんなこと
気にする必要なんてどこにもないのに。



「気にするな。人からの好意は、素直に受け取っておくものだぞ?」


「え、っと、その……じゃあ、お願いします」


「ん。OK」


「ああ、俺はコーラで」


「わしは緑茶を頼む」


「…………レモンスカッシュ」


「木下以外は自分で買え!」


「なんで秀吉はいいんだよっ!?」


「それは木下だからだ。木下にだったらいくらでも奢るさ!」


「意味わからんわ!」




 結局、雄二とムッツリーニからは飲み物の金をもらって、一階にある売店に向かう。

 教室を出るときに、木下の顔が赤くなっていた気がしたが、気にしないことにした。

 飲み物を買って教室に戻ると、そこには明久と島田さんの姿が。



「無事だったのか」


「あ、智也。うん、なんとかね」



 買ってきた飲み物を皆に渡しながら、明久に訊ねる。

 明久は、少し疲れたような顔をしてるけど、なにかあったのだろうか?



「島田さんはどれ飲みたい?」



 明久と島田さん用に買ってきておいた烏龍茶、オレンジジュース、ダイエットコーラを見せながら、島田
さんに聞く。



「いいの? じゃあ、烏龍茶もらうわね」


「ほいほーい」



 島田さんに烏龍茶を、隣にいた明久にはダイエットコーラをそれぞれ手渡す。



「ありがと、竜崎」


「ちょっと待って! なんで僕はダイエットコーラなの!?」


「ん? いらんなら返せ」


「いや、いるけどさ。でも僕はオレンジジュースがいいな」


「お前の希望なんて知らん」


「じゃあなんで島……美波には聞いたのさっ?」


「女子だからだろ?」


「男女差別はんたーい! 僕にカロリーをよこせ!」


「ったく、わかったよ。ほら」



 仕方なしに、明久のダイエットコーラと俺のオレンジジュースを交換する。好きじゃないんだけどな、こ
れ。



「それより……ずいぶん仲良くなったんだな」


「え? コレで?」



 理由は分からないけど、島田さんの事を 『美波』 って名前で呼ぶようになったのは、島田さんからし
てみればかなりの進展だろう。……姫路さんからしてみれば、あまり喜ばしくないだろうけど。



「さて、お前ら」



 その場に残る全員を見回して雄二が告げる。



「こうなった以上、Cクラスも敵だ。同盟戦がない以上は連戦という形になるだろうが、正直Bクラス戦の
直後にCクラス戦はきつい」


「それならどうしようか? このままじゃ勝ってもCクラスの餌食だよ?」


「そうじゃな……」


「心配するな」



 頭を悩ます俺達に雄二が野性味たっぷりの活き活きとした顔で告げる。



「向こうがそう来るなら、こっちにだって考えがある」


「考え?」


「ああ。明日の朝に実行する。目には目を、だ」



 この日はこれで解散となり、続きは翌日へと持ち越しとなった。
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