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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
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第五問⑤

「お弁当美味しかったよ。ご馳走様」


「うむ、大変良い腕じゃ」


「これなら、いいお嫁さんになれるな」


「お、お嫁さんだなんて……。でも、早いですね。もう食べちゃったんですか?」



 古典的な手にひっかかって今まで明後日の方向を向いてた姫路さん。どうやら雄二の口に弁当を詰め込ん
だのはばれてないらしい。それよりも、俺には 『お……お嫁さん』 って顔を赤くしながら明久の顔をち
らちらと見ているのが気になるんだけど……。



「うん。特に雄二が 『美味しい美味しい』 って凄い勢いで」



 視界の端で倒れている雄二が、力なく首をフルフルと振る。そこまでの威力なのか……姫路さんの弁当。



「そうですかー。嬉しいですっ」


「いやいや、こちらこそありがとう。ね、雄二?」


「う……うぅ……あ、ありがとうな、姫路……」



 ヤバい。目が虚ろだ。



「そういえば、美味しいと言えば駅前に新しい喫茶店が──」



 話題を逸らしにかかる明久。姫路さんには悪いけど、確かに 『それじゃ、また作ってきますね』 なん
てことになったら困る。命がいくつあっても足りない。



「ああ、あの店じゃな。確かに評判が良いな」


「え? そんなお店があるんですか?」


「うん。今度今日のお礼に雄二がおごってくれるってさ」


「てめ、勝手なこと言うなっての」



 とりあえず、危機は去ったようだ。取りとめのない会話が続く、ほのぼのとした時間が過ぎる。




 ――そう……思っていた。




「あ、そうでした」



 姫路さんがポン、と手を打った。



「実はですね――」



 ごそごそ、と鞄を探る。



「デザートもあるんです」



 そう言った姫路さんの顔は、まるで俺を迎えにきた天使の様に、美しいものだった……。



「ああっ! 姫路さんアレなんだ!?」


「明久! 次は俺でもきっと死ぬ!」



 すぐさま明久がそれを対処しようと動いたが、雄二によって阻止される。



(明久! 俺を殺す気か!?)


(仕方がないんだよ! こんな任務は雄二にしかできない! ここは任せたぜっ)


(馬鹿を言うな! そんな少年漫画みたいな笑顔で言われてもできんものはできん!)


(この意気地なしっ!)


(このロリコンっ!)


(誰がロリコンだっ! そこまで言うならお前らにやらせてやる!)


(なっ! その構えは何!? 僕等をどうする気!?)


(ジャンケンだよな!? そうだよな!?)


(いいや、拳をキサマらの鳩尾に打ち込んだ後で存分に詰め込んでくれる! 歯を食いしばれ!)


(いやぁー! 殺人鬼――!)


(ちくしょう! 殺るなら福原先生を殺れ!)


(何でだよっ!?)



 雄二が拳を握り、あわや肉弾戦というところで、木下がすっと立ち上がった。


(……ワシがいこう)


(秀吉!? 無茶だよ、死んじゃうよ!)


(俺のことは率先して犠牲にしたよな!?)



 それは当然だ。見た目美少女の木下の方が、雄二より遥かに重要度は高いんだから。



(大丈夫じゃ。ワシの胃袋はかなりの強度を誇る。せいぜい消化不良程度じゃろう)


「どうかしましたか?」


「あ、いや! なんでもない!」


「あ、もしかして……」



 姫路さんが顔を曇らせる。

 もしかして、バレたか?



「ごめんなさいっ。スプーンを教室に忘れちゃいましたっ」



 言われてみれば、容器の中身はデザートはヨーグルトとフルーツのミックス (らしきもの) だった。スプ
ーンなしでは食べにくいだろう。



「取ってきますね」



 スカートを翻し、階下へと消える姫路さん。チャンスだ。




.
「では、この間に頂いておくとするかの」



 これから死地に赴く戦士のように、木下が容器を手に取る。でも、木下一人を死なせはしない!



「……木下、俺も半分食べよう。少しはましになるかもしれない」



 そう言って、木下から容器を受け取ると、自分の鞄から紙コップを取り出し、半分をその中に移す。



「智也……」


「秀吉、転校生……っ! ……すまん。恩に着る」


「ごめん、ありがとう」



 申し訳なさそうに俯く二人に、フッと軽く笑いかけ、木下は言った。



「別に死ぬわけではあるまい。そう気にするでない」



 本当にそうだろうか……。



「そ、それもそうだね!」


「ああ! 秀吉、転校生、頼んだぞ!」


「うむ。任せておけ。頂きます」


「……神様。どうかご加護を……」



 紙コップを傾け、一気にかきこむ。

 ……ん? 普通に美味い?



「むぐむぐ。なんじゃ、以外に普通じゃとゴばぁっ!?」


「もぐもぐ。ああ、普通にうまゴヴぉばぁっ!?」




 目が……霞む……。

 パトラッシュ、俺はもう疲れたよ……。




「……雄二」


「……なんだ?」


「……さっきは無理矢理食べさせてゴメン」


「……わかってもらえたならいい」



 意識が朦朧としていく中、どこからか、そんな会話が聞こえてきた。
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