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半透明

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: いいち
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秘密

「わっ!」

縁側に座り庭の薄紫色の花を眺めていると、いきなり目の前が真っ白になった。
業務もいったん落ち着き、一息ついていた私は完全に油断していた。
いきなりのことに驚き、私の体は大きく跳ねる。

「ひゃっ!」

手に持っていたお茶は湯のみから零れ、私の装束に盛大にかかってしまう。
生ぬるい感触が衣類越しに伝わり、気持ちが悪い。
相手にかからなかったことだけがせめてもの救いか。

「鶴丸様…そのようなイタズラは困ります…。」

いまだバクバクと脈打つ心臓をなだめつつ、改めて目の前の白い彼を見ると、なぜかバンジージャンプのように足を縄で括り、宙吊りになっていた。
イタズラが成功したことが嬉しいのか、目は爛々と輝き、無邪気な笑顔をこちらに向けている。

「相変わらず主はいい反応をするなぁ。」

私が反応しすぎるのがいけないのか、彼はよく私を標的にイタズラを仕掛けてくる。
最初は後ろから驚かす程度であったというのに、最近はインパクト勝負なのか派手なイタズラが多くなってきた。

この間なんて、にっかり青江と協力して夜中に幽霊のまねをして短刀たちを怖がらせていたのだ。
もちろん、私も巻き込まれたのは言うまでもない。
仕掛けられるこちらとしてはたまったものでは無いが、相手は神様。
力を貸してもらっている身としては、無碍な対応もできない。
ただ、毎日何度も何度もイタズラをするのは本丸内の風紀的にも良くはないのではないだろうか。
主に被害をこうむるのは自分だが、彼が顕現してから3ヶ月。
本丸内の雰囲気はいい方向にも、悪い方向にも変わったように思う。

一応、控えめに注意はしているが、威厳の無い私が言っても彼には痛くもかゆくもないのであろう。
なかなか抑えられないのが現状だ。

「それと、いつも言っているだろう?鶴丸と呼んでくれ!」

宙吊りのまま、しかも反動で左右に揺れている状態をものともせず、そんな恐れ多いことまで要求してくるものだから、なんと反応したらいいのか分からなくなる。

「それはできません…。貴方は神様なんですよ?」

「神であろうがなかろうが、本人が呼んでくれと言っているのだからいいじゃないか!鶴丸と呼んでくれないと返事しないからな!」

「それは困ります…。」

暖簾に腕押しとはこのこと。
適度な距離感を保ちたい私の気持ちなどつゆ知らず、子供のような笑顔のまま、反応を伺ってくる彼にどうしたものかと考えあぐねていると

「その辺にしときなよ、鶴さん。」

横から優しげな声が聞こえた。
声の方向に目をやると、そこには呆れた顔をした燭台切光忠がいた。
思わず現れた救世主に、私はほっと一息漏らしてしまう。

「光忠様…、ありがとうございます。」

「光坊、そんな言い方はないだろう。まるで俺が主を虐めているみたいじゃないか。」

「困らせていることには変わりないよ。」

「困らせてなどいない!なあ、主!」

同意を求められても、正直困っているのだから返事がし辛い。
曖昧な笑顔を返していると

「ごめんね、主。鶴さんは僕が何とかするから、はやく着替えておいで。」

と光忠が助け舟を出してくれる。
この本丸内でも古株である光忠は、困った時にいつもさりげなく助けてくれる頼れる存在だ。

「ありがとうございます…では…。」

「あっ、おい!主ぃ!」

置き去りにすることに罪悪感を覚えたが、今この場を離れないともっと困る事になるのは分かっている。
私は、後ろから聞こえる声を聞こえないことにしてそそくさとその場を離れた。




誰もいない静かな執務室へ戻ると、口から長い吐息が漏れる。
考えるのは悪戯好きの彼のこと。
正直に言うと苦手なタイプだ。
あまり他者と関わるのは得意ではない自分にとって、パーソナルスペースにズケズケと押し入ってくる彼は対応しきれない。
ただ、イタズラといっても相手を傷つけるようなことはしないよう配慮しているのは分かるし、なんなら遠征ついでにお土産を買ってきたり、他の男士達の中ではムードメーカー的な役割を果たしたりしている。

「悪い人ではないんだけどなぁ…。」


再び、長い溜息をつき、ふと自分の手を見ると…


私の手は『透けていた』。


この現象は、ここ1ヶ月よく見られるようになった。
しばらくすれば元に戻る。
時の政府担当職員に報告はしたが、原因は不明らしい。
他にも数名報告されているらしく、原因究明を急いでいるがいつまで掛かるかわからないと言われてしまった。
混乱を招かないよう、このことは他本丸にはもちろん自分の本丸内でも誰にもバレてはいけない。
このこともあって、いつ奇襲を仕掛けてくるかわからない彼は私の悩みの種なのだ。


しばらくぼーっと掌を眺めた後、うっかりまだ着替えをしていないことに気づく。
考え事を始めるとほかのことを忘れてしまうのは私の悪い癖だ。

さっさと着替えなければ…
そう思いながら衣を脱いだその瞬間

「主ー!これを見てくれ!さっき庭で…」

スパーンと音を立てて障子が開けられる。
そこに居たのは着替える原因を作った彼。

「こいつは…驚いたぜ…。」

彼の視線は私の手に注がれていた。

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