癒し
あの子のことを忘れたりした訳では無いが、あれから私は、なんとか前向きに考えることができるようになった。
彼女のことは今後一生忘れることなどできないだろう。
それほどのことを私はしてしまったと思っている。
しかし、彼女と向き合う辛さに甘え、死を選ぶことなど許されない。
私がすべきなのはそんな事ではなく、もう二度と同じことが起きないように、力をつけること。
そのために、自分に出来ることを精一杯頑張りたいと思えるようになったのだ。
しかし…
「集中できない…。」
「ん?」
目の前の鶴丸が不思議そうな顔をしてこちらを見る。
相も変わらず、鶴丸が近似を務め、一日のほとんどを共に過ごしているのだが…
「どうしたんだ、主?」
「い、いえ、なんでもないです…。」
落ち着いて考えられるようになってからは、あの口付けのことが気になって仕方がない。
いや、鶴丸に他意がないのはわかっている。
取り乱した私を落ち着かせるためにしたに過ぎない。
ちゃんとわかっている、わかっているのだけれどもーー。
初めてだったんだものーー。
至近距離で見た鶴丸の睫毛や唇の感触、爽やかな香りまで詳細に思い出しては、顔が熱くなる。
はしたないとは思いつつ、何度も何度も思い出してしまう。
こんな状態で、どうやって顔を合わせればいいのか…。
毎日頭を悩ませる事となった。
悩みながらも業務にいそんでいる最中、端末からピロンッとメールの着信音が響いた。
確認すると、そのメールは時の政府からで、あの事件についての報告業務と面会希望者がいるために、政府に出向いて欲しいという内容だった。
「…面会希望者?」
近侍をしていた鶴丸が眉を顰める。
いつの間にやら、後ろから覗かれていたようだ。
「…明日にでも時の政府に出向きます。」
「俺も行こう。」
「いえ、護衛の必要は無いですし、一人で来るよう明記されているので大丈夫です。」
普段は護衛として刀剣男士を連れていくのだが、今回は業務に秘匿性があるため一人で来るよう指定されていた。
「…。」
不満げな顔をしている鶴丸を見ない振りをする。
どうしようもないのだから許してほしい。
せめてもの備えとして簡易結界の札を作っていると…
ぽすっ!
肩に軽い衝撃と重みを感じた。
横目にチラリと見やると、視界に入るのは白い毛髪。
なんと、鶴丸が私の肩に頭を乗せているようだ。
「…つ、鶴丸様?」
返事はない。
一息遅れて聞こえたのは、穏やかな寝息だった。
退屈過ぎて寝てしまったのかしら――。
確認すると札を作り始めてから、それなりの時間が経過していた。
最近、色んな事が起きすぎて疲れたのだろうと、私は鶴丸の頭を膝に移動させる。
顔にかかる髪が気になり、避けてみるとその柔らかさに驚く。
き、気持ちいい…。
柔らかく細い髪でありながらも、サラサラとした手触りに夢中になり、私は頭を撫で続ける。
ひとしきり撫でた後、ふと鶴丸の顔を見ると、普段とは違うあどけない表情をしている。
その顔を見ながら、今までのことを思い出す。
どれほど彼に救われてきたことだろう。
感謝してもしきれない。
最初はあんなに敬遠していたというのに不思議なもので、今となっては共にいてくれる事がこんなに心強い。
鶴丸のことを考えていると、なんだか心が暖かくなる。
「ありがとうございます…鶴丸様…。」
すやすやと眠る彼にそっと呟く。
心も体も私より数倍強い彼が、私にこうして甘えてきてくれるのが、何故だかとても嬉しい。
思わずふふふと笑みがこぼれる。
願わくば、こんな時間がいつまでもいつまでも続きますように…。
そう願いながら、私は鶴丸の頭を撫で続けていたーー。
ドサドサドサ!!
何かを落とすような物音で目が覚める。
いつの間にか寝ちゃってたのか…。
回らない頭でそんなことを思う。
物音のした方を見ると、光忠が恐ろしい顔をしてこちらを見下ろしていた。
口角は緩やかに持ち上がり、目尻は弧を描く。
完璧な笑顔だと言うのに、何故こうも迫力を感じるのだろう…。
「鶴さん?」
にこやかに笑いながらもその背後に見えるオーラは恐ろしい。
握られた拳には血管が浮き出ている。
いつの間にやら目を覚ました鶴丸は、光忠の形相に顔が青くなる。
「み、光坊…。これは誤解…。」
「問答無用!!」
首根っこを掴まれたかと思うと、鶴丸は抵抗するまもなく、そのまま引きづられて行ってしまった。
この後、彼がどんな目に遭うのかは考えないようにしよう…。
「さてと…今のうちに時の政府に赴きましょうか…。」
鬼の居ぬ間になんとやら…
私は誰にも見つからないように、ひとりでこっそり次元移動装置を起動したーー。
彼女のことは今後一生忘れることなどできないだろう。
それほどのことを私はしてしまったと思っている。
しかし、彼女と向き合う辛さに甘え、死を選ぶことなど許されない。
私がすべきなのはそんな事ではなく、もう二度と同じことが起きないように、力をつけること。
そのために、自分に出来ることを精一杯頑張りたいと思えるようになったのだ。
しかし…
「集中できない…。」
「ん?」
目の前の鶴丸が不思議そうな顔をしてこちらを見る。
相も変わらず、鶴丸が近似を務め、一日のほとんどを共に過ごしているのだが…
「どうしたんだ、主?」
「い、いえ、なんでもないです…。」
落ち着いて考えられるようになってからは、あの口付けのことが気になって仕方がない。
いや、鶴丸に他意がないのはわかっている。
取り乱した私を落ち着かせるためにしたに過ぎない。
ちゃんとわかっている、わかっているのだけれどもーー。
初めてだったんだものーー。
至近距離で見た鶴丸の睫毛や唇の感触、爽やかな香りまで詳細に思い出しては、顔が熱くなる。
はしたないとは思いつつ、何度も何度も思い出してしまう。
こんな状態で、どうやって顔を合わせればいいのか…。
毎日頭を悩ませる事となった。
悩みながらも業務にいそんでいる最中、端末からピロンッとメールの着信音が響いた。
確認すると、そのメールは時の政府からで、あの事件についての報告業務と面会希望者がいるために、政府に出向いて欲しいという内容だった。
「…面会希望者?」
近侍をしていた鶴丸が眉を顰める。
いつの間にやら、後ろから覗かれていたようだ。
「…明日にでも時の政府に出向きます。」
「俺も行こう。」
「いえ、護衛の必要は無いですし、一人で来るよう明記されているので大丈夫です。」
普段は護衛として刀剣男士を連れていくのだが、今回は業務に秘匿性があるため一人で来るよう指定されていた。
「…。」
不満げな顔をしている鶴丸を見ない振りをする。
どうしようもないのだから許してほしい。
せめてもの備えとして簡易結界の札を作っていると…
ぽすっ!
肩に軽い衝撃と重みを感じた。
横目にチラリと見やると、視界に入るのは白い毛髪。
なんと、鶴丸が私の肩に頭を乗せているようだ。
「…つ、鶴丸様?」
返事はない。
一息遅れて聞こえたのは、穏やかな寝息だった。
退屈過ぎて寝てしまったのかしら――。
確認すると札を作り始めてから、それなりの時間が経過していた。
最近、色んな事が起きすぎて疲れたのだろうと、私は鶴丸の頭を膝に移動させる。
顔にかかる髪が気になり、避けてみるとその柔らかさに驚く。
き、気持ちいい…。
柔らかく細い髪でありながらも、サラサラとした手触りに夢中になり、私は頭を撫で続ける。
ひとしきり撫でた後、ふと鶴丸の顔を見ると、普段とは違うあどけない表情をしている。
その顔を見ながら、今までのことを思い出す。
どれほど彼に救われてきたことだろう。
感謝してもしきれない。
最初はあんなに敬遠していたというのに不思議なもので、今となっては共にいてくれる事がこんなに心強い。
鶴丸のことを考えていると、なんだか心が暖かくなる。
「ありがとうございます…鶴丸様…。」
すやすやと眠る彼にそっと呟く。
心も体も私より数倍強い彼が、私にこうして甘えてきてくれるのが、何故だかとても嬉しい。
思わずふふふと笑みがこぼれる。
願わくば、こんな時間がいつまでもいつまでも続きますように…。
そう願いながら、私は鶴丸の頭を撫で続けていたーー。
ドサドサドサ!!
何かを落とすような物音で目が覚める。
いつの間にか寝ちゃってたのか…。
回らない頭でそんなことを思う。
物音のした方を見ると、光忠が恐ろしい顔をしてこちらを見下ろしていた。
口角は緩やかに持ち上がり、目尻は弧を描く。
完璧な笑顔だと言うのに、何故こうも迫力を感じるのだろう…。
「鶴さん?」
にこやかに笑いながらもその背後に見えるオーラは恐ろしい。
握られた拳には血管が浮き出ている。
いつの間にやら目を覚ました鶴丸は、光忠の形相に顔が青くなる。
「み、光坊…。これは誤解…。」
「問答無用!!」
首根っこを掴まれたかと思うと、鶴丸は抵抗するまもなく、そのまま引きづられて行ってしまった。
この後、彼がどんな目に遭うのかは考えないようにしよう…。
「さてと…今のうちに時の政府に赴きましょうか…。」
鬼の居ぬ間になんとやら…
私は誰にも見つからないように、ひとりでこっそり次元移動装置を起動したーー。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。