想い
俺の主には、驚きが足りてない。
初めて主に会った時、何故か違和感を感じた。
なんてことは無い普通の人間の少女。
偉ぶることもしなければ、健康上の問題もなさそう。
ごくごく普通ーー変わったところなどどこにもない。
だというのに、その時は違和感をぬぐえなかった。
なぜそう感じるのか、その時は分からなかったが、暫く様子を見ているとすぐに理由はにわかった。
言動と心がちぐはぐなんだ。
もう審神者となって長いだろうに、本丸内の誰にも頼ろうとせず、当たり障りのない関係を築こうとする。
かと思えば、一人でいるとどこか寂しげな様子を見せる。
誰もいない所でしか、自分に素直になれず、周りには嘘の言葉を紡ぐ、そんな主だった。
それが気に入らなかった。
面白くない。
非常に面白くない。
ならば面白くしてやろうと、毎日主に驚きを提供した。
距離を置かれるなら、自分から追いかけるのみ。
今思えば、刀としての、物としての本能のひとつだったのかもしれない。
主を守りたい、必要とされたい、そんな無意識の欲求だったように思う。
あの時も、特に深くは考えずイタズラを仕掛けた。
だが、主にお茶がかかってしまったのを見て、流石に軽率だったと罰が悪い気持ちになった。
主はどんなイタズラをしても怒らない。
驚きはするものの、それだけだ。
それだけでは足りない。
それは本当の驚きではない。
俺がしたいのは、主の本音を引き出すことだ。
主の反応を見る度に、いつまでも一線を引かれていることを自覚せざるを得なかった。
怪我をさせたい訳では無い。
危ない目に遭わせたい訳でもない。
だから今回の件はやりすぎだったと反省した。
謝りに行こうかと考えていると、ふと庭に歌仙が手入れしているものではなさそうな花が咲いているのを見つけた。
薄紫色の花びらをした小さい花だ。
どこかから種が飛んできたのかもしれない。
俺はその花を1輪つみとり、主の部屋に向かった。
主は花がすきで庭をよく眺めている。
部屋でも花を見れれば喜ぶかと思った。
結局、渡せはしなかったのだが。
早く見せたくて、主の喜ぶ顔が見たくて、ろくにノックもしないまま襖を開けた。
中にいた主は着替え中で、ちらりと見える肌色に心の臓が跳ねる。
だが、身体を隠そうとする主の腕を見て、さらに驚かされた。
指先から手首までが透けている。
そんな、ありえない光景を目にして呆然としていると、主は慌てておれを部屋に引きずり込んだ。
目の前で顔を青くしたり赤くしたり、1人で忙しない主をみて、これは主にとって知られたくない事だったのだと察する。
それでも、詳細を聞こうとするあたり、俺は案外意地悪なのかもしれない。
観念した主は事の顛末を教えてくれた。
不安そうな顔をする主を見て、なんとか力になってやりたいと思うのは付き従うものとして当然のこと。
しかし、協力を申し出ると、主はさらに不安そうな顔になった。
日頃の行いを考えれば、主が俺の行動を不安に感じるのは当たり前のことだが、その時の俺は納得がいかなかった。
童のように意地を張って、近侍の座をもぎ取ってしまったが、少しでも見返してもらえるように努めた。
近侍の仕事は正直退屈だ。
だが、早く仕事を終わらせれば主と過ごす時間が増える。
二人きりで過ごす時間は、いつもと違った良さがあった。
そして、近似になってから、少しずつ、少しずつ、主が俺を頼るようになったことに喜びを感じた。
臣下の独占欲なのだろうか、他の誰よりも自分が主の事を知っている、他の誰よりも主は俺を頼りにしていることが嬉しかった。
主を万事屋に誘ったのも、誰も知らない主の一面をもっと知りたかったからだ。
主が迂闊すぎて心配なのも、もちろんあった。
しかし、もっと主と一緒にいたい、もっと主を知りたいと思う欲が主な理由だった。
主が俺のことを特に苦手に思っているのはわかっている。
だが、自分の気持ちが止められなかった。
主と過ごす時間が増えれば増えるほど、俺の中の欲がどんどん湧き出るのを感じた。
この気持ちは一体何なのだろうかーー。
あまり深くは考えないようにしていた。
理解してはいけないものだと本能で感じ取っていた。
だが、手袋を主に買い、頭を撫でた時、この気持ちを理解してしまったーー。
頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を閉じた主の、手のひらに頭を擦り寄せるような仕草に、身体中の血液が顔に集まる。
心の臓がバクバクと跳ね、止まらない。
今、確実におかしな顔になっている。
主にこんな顔を見せられない。
慌てて顔を背け、誤魔化しながら茶屋へと向かう。
繋いだ手をきゅっと握ってくる主が愛おしくてたまらない。
俺が主に向ける気持ちは、臣下として抱いては行けないものだ。
主にこの気持ちがバレてしまえば、主は今まで以上に俺と距離をとるだろう。
そうなってしまえば、もう2人で過ごすことは叶わない。
俺は茶屋への道すがら、どうか主にこの気持ちがバレないよう、密かに祈っていた――。
初めて主に会った時、何故か違和感を感じた。
なんてことは無い普通の人間の少女。
偉ぶることもしなければ、健康上の問題もなさそう。
ごくごく普通ーー変わったところなどどこにもない。
だというのに、その時は違和感をぬぐえなかった。
なぜそう感じるのか、その時は分からなかったが、暫く様子を見ているとすぐに理由はにわかった。
言動と心がちぐはぐなんだ。
もう審神者となって長いだろうに、本丸内の誰にも頼ろうとせず、当たり障りのない関係を築こうとする。
かと思えば、一人でいるとどこか寂しげな様子を見せる。
誰もいない所でしか、自分に素直になれず、周りには嘘の言葉を紡ぐ、そんな主だった。
それが気に入らなかった。
面白くない。
非常に面白くない。
ならば面白くしてやろうと、毎日主に驚きを提供した。
距離を置かれるなら、自分から追いかけるのみ。
今思えば、刀としての、物としての本能のひとつだったのかもしれない。
主を守りたい、必要とされたい、そんな無意識の欲求だったように思う。
あの時も、特に深くは考えずイタズラを仕掛けた。
だが、主にお茶がかかってしまったのを見て、流石に軽率だったと罰が悪い気持ちになった。
主はどんなイタズラをしても怒らない。
驚きはするものの、それだけだ。
それだけでは足りない。
それは本当の驚きではない。
俺がしたいのは、主の本音を引き出すことだ。
主の反応を見る度に、いつまでも一線を引かれていることを自覚せざるを得なかった。
怪我をさせたい訳では無い。
危ない目に遭わせたい訳でもない。
だから今回の件はやりすぎだったと反省した。
謝りに行こうかと考えていると、ふと庭に歌仙が手入れしているものではなさそうな花が咲いているのを見つけた。
薄紫色の花びらをした小さい花だ。
どこかから種が飛んできたのかもしれない。
俺はその花を1輪つみとり、主の部屋に向かった。
主は花がすきで庭をよく眺めている。
部屋でも花を見れれば喜ぶかと思った。
結局、渡せはしなかったのだが。
早く見せたくて、主の喜ぶ顔が見たくて、ろくにノックもしないまま襖を開けた。
中にいた主は着替え中で、ちらりと見える肌色に心の臓が跳ねる。
だが、身体を隠そうとする主の腕を見て、さらに驚かされた。
指先から手首までが透けている。
そんな、ありえない光景を目にして呆然としていると、主は慌てておれを部屋に引きずり込んだ。
目の前で顔を青くしたり赤くしたり、1人で忙しない主をみて、これは主にとって知られたくない事だったのだと察する。
それでも、詳細を聞こうとするあたり、俺は案外意地悪なのかもしれない。
観念した主は事の顛末を教えてくれた。
不安そうな顔をする主を見て、なんとか力になってやりたいと思うのは付き従うものとして当然のこと。
しかし、協力を申し出ると、主はさらに不安そうな顔になった。
日頃の行いを考えれば、主が俺の行動を不安に感じるのは当たり前のことだが、その時の俺は納得がいかなかった。
童のように意地を張って、近侍の座をもぎ取ってしまったが、少しでも見返してもらえるように努めた。
近侍の仕事は正直退屈だ。
だが、早く仕事を終わらせれば主と過ごす時間が増える。
二人きりで過ごす時間は、いつもと違った良さがあった。
そして、近似になってから、少しずつ、少しずつ、主が俺を頼るようになったことに喜びを感じた。
臣下の独占欲なのだろうか、他の誰よりも自分が主の事を知っている、他の誰よりも主は俺を頼りにしていることが嬉しかった。
主を万事屋に誘ったのも、誰も知らない主の一面をもっと知りたかったからだ。
主が迂闊すぎて心配なのも、もちろんあった。
しかし、もっと主と一緒にいたい、もっと主を知りたいと思う欲が主な理由だった。
主が俺のことを特に苦手に思っているのはわかっている。
だが、自分の気持ちが止められなかった。
主と過ごす時間が増えれば増えるほど、俺の中の欲がどんどん湧き出るのを感じた。
この気持ちは一体何なのだろうかーー。
あまり深くは考えないようにしていた。
理解してはいけないものだと本能で感じ取っていた。
だが、手袋を主に買い、頭を撫でた時、この気持ちを理解してしまったーー。
頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を閉じた主の、手のひらに頭を擦り寄せるような仕草に、身体中の血液が顔に集まる。
心の臓がバクバクと跳ね、止まらない。
今、確実におかしな顔になっている。
主にこんな顔を見せられない。
慌てて顔を背け、誤魔化しながら茶屋へと向かう。
繋いだ手をきゅっと握ってくる主が愛おしくてたまらない。
俺が主に向ける気持ちは、臣下として抱いては行けないものだ。
主にこの気持ちがバレてしまえば、主は今まで以上に俺と距離をとるだろう。
そうなってしまえば、もう2人で過ごすことは叶わない。
俺は茶屋への道すがら、どうか主にこの気持ちがバレないよう、密かに祈っていた――。
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