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半透明

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: いいち
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外出

今日は鶴丸と万屋に行く日。
何故か、いつもよりさらに鶴丸のやる気が凄く、頑張ってくれたおかげで、今日も業務はもう終わっている。

考えてみれば、本丸の外に出るのなんて久々だ。
久しぶりの外出に胸が踊る。

いつもの格好で問題はないのだが、隣に並ぶのは超がつくほどの美男子。
少しくらい、めかしこんだ方がよいだろう。

めったに外出はしないので、そもそもおしゃれに関する道具はほとんど持っていない。
あれこれ悩みつつも、派手になりすぎない程度に化粧をし、髪には薄紫色の花の髪飾りをつけた。

まあ、こんなものだろう…と思い、待ち合わせ場所に向かおうとするも、鶴丸と出かけることを思うと、本当にこの格好で良いのかと非常に不安になった。

ちょこちょこと前髪を何度も直し、自分の身だしなみをチェックする。
いつもは全く気にならないのに…。
部屋を出ようとしては、自分の恰好が気になって、また戻ってしまう。

少しは可愛くなったかな…。

不安で仕方がないが、一応準備ができたので、次元移動装置のある庭まで移動する。
本丸は時間とは切り離された空間であり、どこに行くにもこの装置を介する必要がある。
出陣や遠征で刀剣男士が使用することはあっても、審神者は時の政府から何かしら要請がない限り、滅多に使うことはない。
私も数えるほどしか使ったことがないので、使用時には未だにドキドキする。

「よっ!主、準備は出来たか?」

庭にはもう鶴丸がいた。
私の姿を見つけると、顔をぐいっと近づけてくる。

「…なんだか、今日の主は一段と可愛いな!化粧をしているのか?」

「はい、一応…。」

『可愛い』
この一言に嬉しくなってしまう。
しかも今は、目と目を至近距離で合わせた状態だ。
お世辞と分かっていても、なんだか顔が熱くなってしまった。

「この髪飾りも凄く似合っている。」

髪を触りながら、いつもとの変化を確実に言い当ててくる。
褒め殺すつもりなのだろうか、この刀剣男士は。

「ありがとうございます…。」

褒められ慣れていない私は、この距離と鶴丸の言葉に耐えられない。
もう恥ずかしくなって、次元移動装置の設定を始めた。
少し褒められただけで、こんなに取り乱してしまうのは指揮を執る身として失格だ。
自分にそう言い聞かせる。

設定を終えると
ガチャン!
と音がして次元の移動が開始される。

足元がふわりと浮くような感覚。
慣れない感覚に戸惑う私を落ち着かせるように、鶴丸は私の手をとる。
なんだか少しほっとする…。

キュッと握られた手は今は透けていない。
何故かその事がとても嬉しかった。


気付くと次元の移動は終了していた。
万屋とは、道具屋や茶屋などがある、時の政府監修のショッピングモールみたいな場所だ。
刀剣男士達が過ごしやすいよう、昔の街並みを再現してある。
周りは、他本丸の刀剣男士や審神者で溢れかえっている。

初めて来たので勝手が分からずにいると

「主、こっちだ。」

と鶴丸が手を引き、歩き始めた。

たどり着いたのは、呉服屋。
刀剣男士用の軽装や、審神者のおしゃれ着など、衣類を取り扱うお店だ。

新しい服でも欲しかったのかな?

鶴丸の好きそうなおもしろTシャツも販売しているので、てっきりそちら目当てかと思ったが、鶴丸はそのコーナーを素通りした。

鶴丸が足を止めたのは、小物コーナー。
そこで何やら真剣な表情でものを探し始めた。

「…一体、何を探しているのですか?」

昨日も聞いたがはぐらかされてしまったため、私は何を探せば良いのかもわからない。

曖昧な返事をしながらもしばらく悩み、鶴丸が手に取ったのは、肘ほどまである白い手袋だった。

上質な生地で出来ており、裾部分には金糸で刺繍が施されている。

「はめてみてくれ。」

言われるがままにはめてみると、その着け心地の良いことに驚く。

「これなら手のことを気にする必要も無いだろう?」

その言葉に、私に気遣って、今回の外出を提案してきたのだと気づいた。
気を張っていたことも、不安が募っていたことも鶴丸にバレていたようだ。

「…ありがとうございます。」

周りの目を気にする必要が無くなったことは嬉しい。
だが何より、鶴丸の優しさがとても嬉しい。

「気に入ってもらえたようで良かった!」

にっこり笑った鶴丸が私の頭を撫でる。
その手はまるで小さい子をあやすように優しく動く。
温かい手がとても心地いい。

私は、目を閉じてその感触をじっくり味わっていた。
そのことに、ハッと気付き、顔が一気に熱くなる。

なんだかとても恥ずかしいことをしてしまった気がする…。

見ると、鶴丸の顔も赤くなっていた。

こんな情けない主を見ては恥ずかしくもなるだろう…。
とても申し訳ない気分になる。

「あ、主!せっかくだから、次は茶屋にでも行こう!」

慌てた様子の鶴丸が再び私の手を引く。
よく分からないけれど、その手を離したくなくてキュッと握り返す。
すると、鶴丸も握り返してくれた。
先を往く鶴丸の表情は分からない。
だが、白い髪から覗く耳が真っ赤になっていたのが印象的だった。
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