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桃太郎物語

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: ハラミ
目次

### 03

 鬼退治の旅に出て二日目のこと。
「す、すみません。な、何か食べるものを……」
 沿岸部へ出る一本道を歩いていたところ、突然道のど真ん中に倒れ込んでいる娘を発見。どうやら、立ち上がることができないほどの空腹に襲われているようだ。
「だ、大丈夫か!?」
 当然ほうってはおけない桃太郎。道を急いではいたが、目の前で飢え死にしそうなものを見過ごしてはいられない。
「そうだ!」
 おばあさんからもらったきびだんごがあったのを思い出す、急いで一個取り出すと、倒れ込んでいる娘に渡してやる。
「おぉ、しんふぇつなおふぁた!かたじふぇない!」
 行儀など気にしてもいられぬようで、食べながらお礼を言う娘。
「水筒の水は……」
「おぉ、それも頂きます!」
 そう言うと、娘は桃太郎の手から水筒をもぎ取り行儀悪く一気飲みする。
「ぷはー!おかげで生き返りました、ありがたやありがたや!」
 急に元気になった娘は、額を地に擦りつけんばかりに何度もお礼を言う。
「お礼は良いのだ、しかしお主はなぜこのようなところに倒れていたのだ?」
「えぇ。話せば長くなるのですが……」

 聞けばこの娘は、先日鬼に襲われた沿岸部の住人の一人で名前を「雉」というらしい。彼女は伊賀の忍びの里の抜け忍で、追っ手から逃れこの島に逃げ込んできた。沿岸の住民たちは彼女に優しくしてくれ、いっときは平穏な時を過ごしていたが、鬼は突然襲ってきたという。
「あいつらは夜更けにやってきました。抵抗するものはころされ、他のものは連れて行かれ、村の物資も奪われました」
「主も戦ったのか?」
「もちろんです!だけど多勢に無勢で……」
 雉はそこまで話すと、目に涙を浮かべながら悔しそうに唇を噛み締める。
「追い詰められた私は、連れて行かれる村のものたちを置いてここまで逃げてきたんです。卑怯者です……」
「それは、さぞ無念だったことだろうな」
 桃太郎は、無念さを噛み締めるかのように顔を俯ける雉を前に、次の言葉を言うか言うまいか迷ったが、やはりいうことにした。
「その無念、晴らしては見ないか?」
「……?」
「申し遅れた。俺は新右衛門が師範を務める道場の門下生で、名を桃太郎という。今鬼を退治しに向かう途中だ」
「鬼を退治に……!」
 その言葉を聞いた途端に雉の目が輝く。
「ぜひ連れて行ってください!今度はあの時のような不覚は取りません!村のものたちの敵を討ちたいです!」
「付いてきてくだされるか!俺も、鬼と戦ったことのあるものがいると心強い、頼むぞ!雉!」
「はい!」
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