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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

三十章 本物の帝王

 さすが真の帝王しか知らない秘密の隠し通路だけのことはあった。

 蜘蛛の巣だらけの中を通ってきたふたりは、ホコリと蜘蛛の巣だらけ。

 その姿を見たダジュールは一気に酔いが冷めるほど、笑い転げたのだった。

「ちょっと、笑う前にいうことがあるでしよう? よくがんばったとか、よく無事でとか」

「あ? ああ、そうだ、そうだな。おかえり、ふたりとも。よく無事で。とにかくさっさと湯浴みをすませて来い。そのままだと激励の抱擁もままならないな」

 するとタリアも、

「それはそうですわね。さあ、湯あみをしてしまいしまょう」

 と、ダジュールの態度に不満顔のクラウディアを宥めながら、湯あみをしにいきましょうと誘う。



※※※



 湯浴みを終えるとタリアは席を外すといい出て行く。

 ダジュールから偽帝王の様子を聞き、今なら問題なくリモコンを戻せるかもしれないと判断したからだった。

 もし疑われたとしたら、知らないと言い張るように言われる。

 実際そうなったら、ダジュールはそうするだろうがクラウディアはしないだろう。

 くれぐれもクラウディアだけは無事に逃がしてほしいと念を押されたが、それはタリアに言われるまでもなかった。

「タリア、遠慮したのかしら?」

「さあ、どうだろうな。それで、本物の帝王はどういう人物だった?」

「そうね。見た目は物乞いみたいだったけど、でも持っているものは違うって感じだったかな。声がね、とても心地いいの。優しいっていうか、発する言葉に魂が宿っているみたい。ああいうのが生まれながらの……っていうのかも」

「それでは、俺は生まれながらの王ではないみたいにも聞こえるが?」

「うは言ってないよ? 強いて言うなら、背負っているものが違うって言うか。ダジュールもいろんなものを背負っているけど、それは多分、平和の中でのことで、停戦へ導こうとした指導者の重みっていうか。とにかく、あの人をみたら今いるのが小者に見えてしまうような感じ」

「……にわかに信じられないな。二十年前の帝王は確かに停戦へと導いてはいたが、戦乱の中での世代交代だったと聞いている。武力こそが正義の国が世代が変わったたった一代で変わるだろうか」

「ん~、そういうのも本人に聞けば?」

「おまえな、簡単に言うなよ」

「ごめん。そっちはどうだったの?」

「ああ、こっちは大盛り上がりだったよ。酔ったふりかどうかくらいは俺でも判別ができる。あれはそれなりに酔っていた。だからだろうな、普段聞けない話も向こうからしてきた」

「たとえば?」

「実はそれより前にいろいろにおわされてさ」

「ああ、アーノルドさんのことね」

「そう、それな。祖父が父暗殺に荷担しているのもほぼ決定なんだが、祖父はもういない。だが、祖父だってひとりでやれたわけじゃないだろう。味方、あるいは内通者。その辺がわかればな。さすがにその辺は口が堅い。ちょっとカマ掛けてみたが引っかからなかった」

「だけど、暗殺にしろクーデターにしろ、相手に気づかれたら終わりだよね」

「そうだな」

「知られずに準備するのって、今のタリアみたいにどちら側にも顔が利く人がいないと無理だよね」

「ああ、それは俺も思う。カーラにはカーラ国内に、レイバラルにはレイバラル国内に内通者がいたってことだろうな。それが誰かってことが重要だよな」

「その内通者がアーノルドさんのお父上ってことはないの?」

「おまえ、けっこうきついことをさらっと言うな」

「ごめん」

「いや、いい。俺だったら、絶対に思いたくない人選だ。そうか、それもあるか。じゃあ、カーラ側は?」

「実はレイバラル出身だけど、偽に協力してクーデターに参加した褒美として、経歴を書き換え生まれも育ちもカーラになった……とか? たとえば、ロナウドさんとか」

「歳を考えるとないな。彼、二十代後半、もう少しいっていたとしても三十代そこそこだろう。五歳前後にそんな芸当ができるとは思えない。その親ならあるかもな。とも思ったが、彼のあの髪の色はカーラ独特だ。カーラの貴族は金色が多い。たぶん、王族も同じだと思う、とするなら、偽の帝王の髪の色は純粋な金色でないような気がする」

「……あ! あの人、とてもきれいな金髪だったわ」

「救い出した本物の帝王? じゃあ、たぶんそうなんだろう。王族も金色の髪。だからロナウドはありえない。レイバラルの民の九割は黒髪だ」

 とここで振り出しに戻ってしまう。

 素人ふたりが推理をして真犯人がわかるくらいのことなら、そもそもクーデターや暗殺が成功しているわけがないのだ。

「だが、本物の帝王が逃げたとなれば、あの偽も焦るだろうし、公に捜索はできない。なにかしら動きがでるはずだな。それを待つか?」

「ううん。すぐにでもマリアンヌ様を救出するみたい」

「おまえ、マリアンヌ様って。母上と言っていいんじゃないのか?」

 確かにそうなのだが、なぜかそう言えない、言いたくないクラウディアだった。



 そして翌日、マリアンヌ救出を決行することになる。
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