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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

二十五章 ダジュールの祖父の素顔

 クラウディアとタリアがマリアンヌ救出の案を練っていた頃、ダジュールは。



「王の先々代には大変世話になったのだが、その後、お変わりはないかね?」

  すでに現役を引退しているが、未だに政界への関与をし続ける者たちの茶会に参加していた。

 ぜひダジュール王に聞かせたい話があると言われ、無碍に断ることができなかったのだ。

 祖父のことを聞いてきたのは元軍人、最終階級は元帥だったと自慢げに名乗っていた者だ。

 ダジュールの祖父が亡くなったのはずいぶん前だが、公表したのはつい数年前。

 ダジュールが正式に王位を継ぐことになった年だった。

 レイバラルでは男女とも十八歳を迎えた時点で成人と見なされるが、家督を継ぐのは二十歳を迎えた翌日からとなっている。

 つまり、その二年間で周りを整理しなさいというものらしい。

 ダジュールが王に就いて五年、今更なにをという感じである。

「祖父は五年ほど前に亡くなりまして」

 と一応、公表された年を告げる。

「おや、そうでしたか。カーラからはなにかお悔やみの言葉がありましたか?」

「どうでしたでしょうか。亡くなったことの悲しみより、新しい王の誕生を祝う風習が強い国ですので、もしかしたらご報告していなかったかもしれません」

「お国柄ということですな。ところで、あれは厳重に保管してくれていますでしょうか?」

「……? すみません、あれとは?」

「いやですな。あれはあれですよ。先々代には重々よろしく頼むとお願いし、その見返りとして……年寄りは早く死ぬものですし、あなたがその若さで王であるのは、我々のおかげといってもいいでしょうな。なあ、みなのもの」

 この元元帥の取り巻きたちだろう、一斉に頷きはじめた。

 ところがこの話題になると、カーラ二世は陽気さが消え、表情に陰りが見え始める。

 どうやら、彼にしてみれば話題にしてほしくないらしい。

「本当に申し訳ないですが、私にはなんのことだか……」

「まあ、あえて口にするのも不謹慎なんですが、黒ダイヤですよ」

 彼らの話を要約すると、カルミラ襲撃の際の国旗と軍旗を提供してもらい、軍隊を少し貸し出してもらったらしい。

 王宮を攻めるのはレイバラル軍に化けたカーラ軍が行い、レイバラル軍にはカルミラの宝石を根こそぎ集めてほしいとお願いしていた。

 必ず黒ダイヤを見つけること、それを所持し保管し続けてくれるなら見つけた宝石類はすべて持ち去って好きに売りさばいていいということにした。

 さらに、カーラ内でのクーデターに手を貸す代わりに先々代の息子、その時の王を暗殺することを請け負ったという。

 ダジュールの目の前に父王を殺した張本人がのうのうと酒を飲み、雑談し、恐ろしい計画の思いで話を笑いながら自慢するように話している。

 この光景を見て殺意がわかないほうがどうかしている。

 しかし、今はその時ではない。

 ダジュールは何度も押し寄せる殺意を必死に押さえ込んだ。

 そんなダジュールの心境など察する気配もなく、話題は別のことへと変わっていく。

「そういえばダジュール王。アーノルド殿はご健在か?」

「アーノルド、ですか? はい、それはもう。しかし、なぜ彼のことを?」

「どうしてって、彼はなかなかいい目利きをしているね。闇の武器商人の存在は知っているね? 戦争のあるところに風のように現れ最新鋭武器を売りつけている連中のことだ。彼らは双方に武器を売りそして戦わせ、威力などの統計をとり、それらを元にあらたな武器をつくり売る。彼は近年希な逸材だよ。たしか彼は王の側近でしたな。近々、どこを攻めるつもりですかな? カーラを攻めるなんて冗談はなしですよ」

 といい、最後は大笑いをする。

 しかし、ダジュールは笑えなかった。

 なぜアーノルドが?

 本当に彼が武器商人などやっているのだろうか。

 父王を殺した国の者がいつ戯れ言だと切り捨てたい。

 しかし、完全に切り捨てられないのも事実。

 もし彼がそのようなことをしていれば、今までの計画は筒抜けであるかもしれない。

 今すぐにでもクラウディアと話し合いたい。

 そもそも彼女は無事なのだろうか。

 気が気でない心境を隠し夕方まで連れ回された結果、解放されたのは夜の帳が落ち始めた真夜中すぎだった。



※※※



「アーノルドが、武器商人? いやだわ、ダジュール。そんな戯言を信じたの?」

 ベッドの中、ダジュールはいてもたってもいられず、その話をクラウディアにする。

「俺だって信じたくはない。だが、もしそうなら計画はすべて筒抜けだ。あいつが考えた策だ、別の策など俺には……」

「ダジュールはちょっと心配しすぎじゃない? それは大丈夫と思うけど。だって、計画ってカーラに行くことであって、行った先での計画はアーノルドとは話していないもの。もちろん、タリアにあうことなどは知られているけれど、細かいことがわからなければ偽の帝王に密告はできないと思わない?」

 今までなら、気にするのはクラウディアでダジュールは根拠のない大丈夫だを連発する。

 しかし今は逆だった。
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