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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
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二十三章 ケイモスの素性

「協力するのはかまわない。だが、俺はひとつ気がかりがある」

「レイバラル王の気がかりは、父王暗殺の件ですね? それは囚われている帝王に聞けばわかると思います」

「救いたいというなら、わたしもいます。養父さんの家族を救いたい」

「ケイモス様のご家族ですが、実はカーラにはおりません」

「え? どうして?」

「ケイモス様の素性はご存じですか?」

「……はい。カーラから産業スパイをするように言われて、偽って入ったって」

「そうです。その後、あの方は祖国を裏切りました。わたくしとマリアンヌ様が他国に偽装したカーラ軍に囚われた時、実はカーラの内部にもわたくしたちの味方がおりましたの。今はもうほとんど根絶やしにされ見せしめのような処刑をされてしまいました。そうなる前に、有志の方々がケイモス様のご家族を他国に逃がしています。ですが、逃げられた先はわかりません。護衛として共に行動をしている兵士もいたと思いますが、あれから二十年。兵士ももうそれなりの年齢になっていますでしょうし、ご両親も……」

「だけど、この国にはいないのですね?」

「はい、断言できます。ただ、こっそり戻ってきてしまっている可能性はありますが。でも、入国審査が厳しいのでまず無理かと」

「それならいいんです。ほかの国で生存していてくれると願って。わたしはタリアと行動を共にします。ダジュールは?」

「依存はない」

「では、当面は今の帝王に従順でいてくださいませんか?」

「かまわないが……。だが、クラウディアにした仕打ちを許すつもりはない」

「それはわたくしもですわ。時が満ちれば、その時、存分に恨みを晴らせばよいかと」

 そんなことをいうタリアの顔は、人の血が通った生き物とは思えないほど、冷酷な顔をしていた。

 もともと軍人であったという彼女、女の顔と軍人の顔の切り替えができるのだろう。

 クラウディアもこれくらいできていたなら、帝王にああまで酷い仕打ちはされなかっただろう。



※※※



「……ねえ」

 とても気になる気配がある。

「……ん?」

 聞かれたダジュールは少しだけ手を抜いた返しをした。

 これは明らかになにかある、そう思ったクラウディアはさらに突っ込んだことを言ってみる。

「わたしのことはいいから、ダジュールは寝て」

「遠慮するな」

「遠慮じゃない。ずっと看病してくれたって。それなのに、わたしは夫であるあなたを裏切ってしまった」

「ばか! おまえの意思じゃないだろう? 理由はどうであれ……なんてそう簡単に切り捨てられっか! いいか、よく聞け。俺が苛ついたり怒ったり落ち込んだりしているのはな、誰のせいでもない。俺自身になんだ。おまえがそんなケガをしたのも俺が不甲斐ないから。不甲斐ないから、おまえは俺のために無茶な行動をしてしまったんだ」

「……ちがっ、それは違うよ、ダジュール。ぜんぶ、わたしが招いたこと。甘く見ていた。あの帝王は危険だって感じていたのに、のこのこあとを付けたりして」

「ま、その辺はまったくだといいたいな」

「もう、そここそ違うっていうのが男ってものでしょう?」

「悪かったな、ヘタレな夫で」

「ううん、そんなことない。夫がダジュールでよかった。というか、あんな風にめちゃくちゃにされるくらいなら、初夜、ダジュールと最後までちゃんとしておけばよかった。ダジュールが最初の人の方がよかった」

 クラウディアはそういって布団をふかく被った。

 ダジュールはその布団をめくり、

「今から消毒しようか?」

「え?」

「初夜の仕切り直し。まあ、無理にとはいわない。おまえはケガ人だし、恐怖心もあるだろうし」

「ダジュールが汚れた女と思わないなら、わたしは構わない。わたしがイヤだと泣き叫んでも最後までしてほしい。ごめんね、こんなわたしから告白されてもうれしくないよね。でも言わせて。わたし、ダジュールのこと、好きみたい」

「……ばか。それこそ先に言わせろよ。愛している、クラウディア。愛ってなんだって自問自答したこともあるけど、愛ってこういうことなんだなって。もう少し、ギュッと抱きしめて大丈夫か?」

 うんと頷く代わりに、クラウディアは自らダジュールの唇に触れた。

 出会いが復讐の共存でなければ、もう少しまともな過程を得て感じることができたかもしれない。

 だけど、こんな屈折したような経緯は自分たちらしいと、ふたりの肌が優しくふれあうのだった。

 互いの体の重さ、伝わってくる温もり、同調する鼓動、それぞれがとても優しくて愛に満ちている。

「不思議ね。胸が苦しいのに、幸せだって感じるの」

「ああ、本当に。こんなにも大切に思える存在に出会えるなんて、考えもしなかった」

 けれど、ふたりは知っている。

 この幸せに必ず終わりが来ることを。

 ダジュールはとても大切な宝物を抱きしめるようにクラウディアのことを包み込む。

 クラウディアはそんなダジュールの腕の中に顔を埋め、この日この瞬間のことを忘れないよう、記憶に深く刻み込む。



 なぜこの世界はひとつの国ではなかったのだろう。

 なぜこの世界は争いが耐えないのだろう。
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