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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

七章 意志を持つ宝石

 ケイモスの言葉に、ダジュールはわずかに顔を歪ませた。

「だとすれば、黒ダイヤ自体に意志があると思うか?」

「触れさせる者を選ぶという意味でしょうか?」

「ああ、まあ、そうだな」

「どちらかといえば、黒ダイヤ自体に自己防衛本能がある方が説得力があるかと思います」

「黒ダイヤに自己防衛本能だと……いや、それならしっくりくる。アーノルドもそうだろう?」

 ダジュールが同意を求めると、アーノルドは静かに頷く。

「祖父は黒ダイヤを手にしてから人が変わられた。黒ダイヤの呪いという者もいたが、不正に持ち出し私物化したのであれば、黒ダイヤは本来の持ち主の元に戻りたい一心で祖父に災いを降り注いだのかもしれない。クラウディアにも約束したが、黒ダイヤの入手経緯はこちらでしっかりと調査する。最優先でだ。いいな、アーノルド」

「仰せままに。しかし王、その間も我々が管理するのでしょうか」

「ん?」

「クラウディア様が姫であることは本当のことでしょう。こんなこと偽りを言っても得にはなりません。もう存在しない国の姫といったところで担ぎ上げる物好きはいない。言い方が悪いことはお詫びいたします」

 アーノルドは自身の見解を述べ、言い方に語弊があることをケイモスとクラウディアに詫びた。

「つまり、おまえは黒ダイヤをクラウディアに返せと?」

「怪盗に盗まれたとすればよいでしょう。あんないわくつきのダイヤが盗まれてホッとする者がいても、悔しがったりする者はいないでしょう、我が国では。捜査依頼をしたところで、された側から不満が出ます」

「しかしだな。所在がわからなければ民も不安に思うだろうが」

「怪盗を追った、追跡したが他国に逃げ込まれたとすればよいのでは? 他国とはどこかと騒ぎになったとしても、他国のことを思い公言はできないとすればよいのです。政治的判断とでもいえば、最初は話題になってもしばらくすれば忘れますよ。人とはそういう生き物です」

 そんな感じで言いくるめられ、諭され、明日の公開最終日の後、盗まれたことにしてクラウディアに返すということになった。

 しかも、いつの間にか盗まれ偽物と入れ替わっていたとするらしい。

「これでクラウディアの願いは叶えられつつあるな。次は俺の番だ。期間限定の俺の妻になる。おまえがカルミラの姫であるならなお好都合だ。持って生まれた気品や資質というものがある。どんなに化けても見る者が見ればバレてしまうが、おまえの場合は生まれが王室だ」

「でも、王室で育っていないのよ?」

「母胎の中にいた時の記憶は根底にあるという。マナーレッスンを受ければ勘は戻る」

 突然沸いて出た期間限定妻の話に、ケイモスは顔をひきつらせる。

 流れ的によくなかったとアーノルドが場を和ませて、王であるダジュールの計画を打ち明けた。

「そういうことですか。しかし、それですとクラウディアの経歴にキズがつきますね。クラウディアはまだ恋も知らない初な子です。これから本当に愛する男が出来たときに、すでに結婚歴があるというのは……」

「親としては当然の疑問です。ここは私が保証人となり、王の計画が完了した際には、クラウディア様の経歴は綺麗に抹消いたします。もしくは、計画の間だけ別人になるというのもありかと」

 アーノルドは絶対的な信頼が出来る貴族の養女となり、新たな名を貰い受けることを提案した。

 離婚後は養女との関係も白紙に戻されただのクラウディアに戻るというのはどうかと。

 これらの計画もあってないようなものだから、書類抹消などは権限でどうとでもなると言う。

 しかし、

「ううん、クラウディアのままでいい。養父さん、わたしね、ダジュールの提案に乗ろうと思う。わたしもカーラに行ってみたい。母の祖国、そして養父の祖国でしょう? 養父さんの家族の安否確認もできるし、一般なら行き来できるっていうなら、向こうがこちらにくれば会えるでしょう?」

 カーラを裏切った形となっているケイモスはカーラに入ることはできない、そのことを思いやってのことだった。

「クラウディア、私のために犠牲になることはない。それに、私が裏切ったと知っていれば家族の存命はない」

「でも、攻撃は王宮にも及んだのでしょう? そこに養父さんがいると知って。生死確認もしていないと思うし、わたしは生きていると思う。こういうことは希望を持ちましょう。ね?」

「ケイモス殿、私がお約束いたします。お嬢さんの枷になるようなことは排除いたします。私が王共々お守りいたします。信頼のおける護衛兵、メイドを付けますので、お願いいたします」

 深々と頭を下げるアーノルドの横で、王であるダジュールも頭を下げた。

 今、ここにいるダジュールは王としてだろけうか、ひとりの男としてだろうか。

 どちらにしても怪盗業をしていたふたりに頭を下げ願うことの覚悟は相当のものだろう。

 なによりクラウディア本人が協力すると言っているのだ。

 ケイモスが反対する理由はもうない。

 なぜなら、ケイモス自身も裏切りの真意を知りたいのだから。

「わかりました。おふたりを信じます。どうかクラウディアをお願いいたします」



 こうしてそれぞれの思惑が形となる計画が始動するのだった。
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