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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

五章 宝石の行方

 クラウディアの話を黙って聞いていたダジュールはしばしば考えるような仕草をする。

 腕を組んだり、視線が上を向いたり。

 視線が上を見るときは、何かを思いだそうとしている時だと養父が言っていたことを思い出す。

「その話、いったんこっちで預からせてくれないか?」

「え?」

「もし不正に持ち出されたものであったり売買されたものであれば、国の代表としておまえに返す」

「できるの?」

「輸入や輸出、他国との取引したものは記録として残し保管することになっている。国として闇取引は禁止しているし、発覚すればそれ相応の処罰が下る。祖父の代なんか、見せしめのための処刑なんかもしていたらしい。父の代でそれは禁止としたが。その代わりにもしかしたら闇取引が横行してしまったかもしれない。年代的にはあっていると思うが、俺の記憶違いもあるかもしれない。確認する。それとカルミラ国滅亡の経緯だが、レイバラル大国としては一切関わっていないはずだ。祖父は力こそが正義と信じ、幾度となく戦争をしたが父はそんなやり方を嫌っていた。二十年前、板挟みになったのは、祖父派と平和主義派との板挟みで、父はどちらかといえば平和主義者で戦争反対派に肩入れをしていた。しかし立場的には祖父には逆らえないところもあった。なんだけど、五歳の時の俺の記憶がもし正しく残っているなら、珍しく父は祖父の意見に真っ向から反対して、ちょっとした騒動になっていたはずなんだ。俺は突然姿が見えなくなった父を捜して、そして意外な場所で姿を目撃した。その辺りも確認する。おまえの交換条件はそのあたりだろう?」

「祖国滅亡の真意? もしそれが両親の行方に関係しているなら真実は知りたいところだけど、わたしの条件は、レイバラル大国にあるカルミラ国の宝石を返してほしいということ。でも、それも確認してくれるようだし、不正が認められたら返してくれるっていうから、こちらの希望は半分叶ったようなものね。そっちはわたしになにをさせたいの?」

「ああ、そうだった。俺の方は……盗人が女であったことが幸いしたってことで、半分は協力になっているな。あとはおまえの承諾を得られれば完璧だ。期間限定で俺の妻になれ」

「は?」

 一瞬、クラウディアは自分の耳が病に冒されてしまったのだと思った。

 そうでないなら言葉を理解できない脳みその難病かもしれない。

「それ、プロポーズ、じゃないよね? 脅迫だよね? とても協力を願い出る側の言い方じゃないと思うんだけど! わたし、初婚だよ? はじめてだよ? なにモノみたいな。というか、夫婦のふりじゃダメなの?」

「ダメだ」

 紳士のような態度を見せたと思ったら横暴な物言いと態度になる。

 かと思えば真剣な眼差しで冗談のようなことをサラリと口にする。

 ダジュールという男の真意はどこにあるのだろうか。

 本当の彼はどんな彼なのだろうか。

 クラウディアはいくつもの顔を見せるダジュールのことが気になり始めていた。

 だからといって、期間限定の妻とはどういうことか。

 演技ではなく書類上でも妻でなくてはならないと断言する、そうまでしなくてはならない理由を知る権利がありそうだ。

「理由、聞く権利、あるよね?」

「ああ、そうだな。それを聞いても無理だって言うなら、別の方法を考える。だが、たぶん、ほかの方法はない。なぜなら、俺は正々堂々とカーラ帝国に行きたいからだ」

「カーラ帝国に行きたい? 停戦中とはいえ敵国じゃない」

「ああ、そうだ。一般の者なら旅行や留学を理由に出入りすることは可能だが、俺の場合はそれができない。俺が王位に就いた時、先代と変わらずに停戦を結ぶ調印式にでている。顔が知れている。そんな俺が正々堂々とカーラ帝国に行けるとしたら、王妃を伴い、今後も変わらぬ関係を維持したいと挨拶に出向いたという筋書きが相手も受け入れやすい。相手がこちらを受け入れてくれた状態で、俺はカーラであることを調べたい。父の死の真相だ」

「……先代の死の真相? カーラに殺されたと思っているの?」

「ああ」

「だって停戦中だったんでしょう?」

「実はな、祖父が父に王位を譲ったが、その後に父は殺されている。まだ幼い俺が王位に就くのは厳しいってことで、俺が十八になるまで祖父が再び王位に就いた。だが、祖父もちょっと訳ありで早くに亡くなり、十八までの三年間は王不在だったんだよ。世間的には祖父は病にふせってはいるが公務に差し支えはないということにして、宰相や貴族たちが現状維持を続けることで一致して動いてくれていた。一部の人しか知らないことだ」

「そう。あなたも苦労していたのね。ねえ、わたしにひとつ提案があるの。養父に会わない? カーラ帝国のことは養父がよく知っていると思う」

「おまえの養父に? カーラのことを知っているってなぜ?」

「ん~、実はわたしも養父がなにをしていたのかは知らないけれど、父の近くにいたらしいから世界情勢なんかも覚えていると思う」

「……わかった。アーノルドの同席は可能か?」

「問題ないと思う」

「なら、決まりだ。街に戻ろう」



 こうしてクラウディアは会ってばかりの男をふたり連れて戻ることになる。

 当然、朝方の帰宅に男連れとなれば養父の怒りは当然のこと。

 すごい剣幕で叱られたのち、ふたりの男の素性を知ると、「これも運命かもしれない」とつぶやき、クラウディアにも話したことのないことも話してくれることになった。
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