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若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
目次

看守たちの長期休暇(準備編)その6

“特例として、囚人の同行を許可する。ただし、同行させた者が全ての責任を負うこととする”

この長期休暇制度の2項目に登場する、“囚人を同行させた者”とは具体的には誰を指すのか。
実は、この部分についての解釈は、ハンニャバルとマゼランとでは異なっている。

ハンニャバルはこれを看守だと思っている。よって、看守達がドフラミンゴを休暇に連れて行ってしまえばいいというのがハンニャバルの本音である。

数日前、看守達に囚人の同行の禁止を言い渡したのは、彼にとってまさに苦渋の判断だった。自分はインペルダウンに務める役人(しかも署長だ!)である。そうであるからには、法律や社会の問題に対して、意識を高く持つべき立場である(しかも署長だし)。自分に都合がいいからと言ってこれを許したら、インペルダウンの署長の権威を自らの手で損ねることになる。

しかし、今のこのような状態になって、ハンニャバルは自らに課せられた使命がいかに難しいかを噛みしめていた。
看守が休暇で不在になることを知っただけで、ドフラミンゴは機嫌を損ねて反抗的になっている。看守が実際に休暇に入ったら、さらに機嫌が悪くなって手が付けられなくなるに違いない。
自分は「看守の休暇」というイベントを、無事に乗り越えることができるのだろうか?

思い悩んでいる時、前署長のマゼランが、“いっそ看守と一緒に休暇に行ってくれたら…”と、ポツリと呟いた。
マゼランでさえも同じことを考えていたのだ!
ハンニャバルは看守達に言い渡した囚人の同行禁止令を撤回することに決めた。

一方、マゼランは、この文章が示す全責任を負う者とは、インペルダウンの署長だと考えている。
看守に囚人を同行させるのは業務上の都合で、その指示を出すのは組織の長であると考えると、当然そのような解釈になる。

よって、マゼランはこの制度を非常に不条理なものだと感じていた。まず、特別室という特殊な監獄を担当する看守に、他に例のないような1か月もの長期休暇を与えておきながら、その分の穴埋めは全て現場任せというのが気にくわない。

この制度を作った人間も、この点を何とかしなくてはいけないと考えたのかもしれない。しかし、おそらく打開策のつもりで示したのであろうこの特例の内容は、“囚人の同行を認める”という意味不明としか言いようのないものだ。

この特例は、法を完全に無視している。しかも、全責任をインペルダウンの署長が負わなければいけない。
何という理不尽さだ。こんな打開策ならないほうがいい。

ハンニャバルは、一度はこの制度を使うことを看守達に禁止したのだが、今はそれを撤回しようとしている。それ程までに思い悩んでいるということか。

ハンニャバルが話し出した。妙に淡々としている。
「このような制度の活用を許すなど、インペルダウンの署長として、してはならないことかもしれません。しかし、私は部下の命を守りたい…」
部下の命もだけど、自分の命も守りたいという心の中の呟きは、当然マゼランには聞こえていない。

ハンニャバルは、自分が全責任を負っても、これを許可する価値があると判断したということか。部下を思う気持ちは分かるが、これはやはり間違っているとマゼランは思った。
もしもドフラミンゴが休暇先で逃げ出したら?インペルダウンにいる自分の部下は守れるだろうが、その代わりに一般市民がドフラミンゴの犠牲になる可能性がある。

「ハ、ハンニャバル…」
しかし、さっきの自分の失言を思い出すと、なかなか口を開くことができない。コイツがこんなことを言い出したのは、俺が弱気になったせいだ…。

ハンニャバルの主張は続いていた。
「囚人の監視については、看守達に任せておけば心配はいらないでしょう。彼らには彼らのやり方があるようです。我々には理解できないやり方ですが…」

看守達はドフラミンゴを厳重に監視するだろう、何かあったら自分の責任なんだから。それに、なぜか奴らもドフラミンゴを休暇に連れて行きたがってたし。何で連れて行きたがるのかは全く理解できんけど。というハンニャバルの心の声は、やっぱりマゼランには聞こえていない。

「彼らのやり方が何であれ、私達よりも囚人の扱いが上手いことは確かなようです。我々が下手に扱って爆発させるより、彼らに任せるべきなのかもしれません。例えそれが、法律に決められている囚人の扱い方と違っていても、犠牲者が少なくて済むほうを私は選びたい」
「し、しかし…」

「それに…、特別室というものがインペルダウンにある時点で答えは出ているのです。この事実を認めてしまったほうが、かえってやりやすいというものです…」

(責任は全部自分が取らにゃならんのだぞ!それでいいのか、ハンニャバル?!)
マゼランは息を飲んだ。
もしもこの件で何か起こったら、ハンニャバルはどんな罰を受けるのだろう。署長の座を追われ、遠い最果ての地に左遷されるのか。それとも市中引き回しのうえ磔獄門の刑に処されるのか…。

しかし、マゼランは何も言わなかった。
(考えてみれば、今の政府ではこれを拒否することができんのも事実か。無駄に抗おうとしているおれよりも、コイツのほうが一枚上ということらしい…)

これがマゼランが最終的に出した答えだ。
奴らは奴らで勝手にやってくれ。どうせ自分には関係ないし。というハンニャバルの心の声は、マゼランにはもちろん聞こえていない。
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