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若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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3人の面談の模様… その8

「あるところに、…役者の男がいました」
カスター自身も、頭の中で物語を作りながら話していた。

「その男は、観客の心を掴むような素晴らしい舞台を上演するために、常に舞台のことばかりを考えて暮らしていました。脚本や演出なども手掛けていたので、脚本を書いたり演出のアイディアを考えついたりするたびに、周りの人間…とりわけ自分の妻に、執拗に感想を求めていました。
少しばかり、神経質なところがあったのです」
「…」
人事担当者達はちょっと戸惑ったような顔をしていた。この場合、役者という男の職業は、何か別のものの例えだろう。

「男の舞台は、上演するごとに人気を増していきました。しかし、それに比例するように、男の神経質な性格はますますひどくなっていきました」

その男の劇団には、その男の片腕となる人物がいた。親友とも言えるような存在で、舞台の上でも、劇団の運営面でも、その人物のサポートがあるお陰で、男は自分の仕事にのめり込むことができた。

「人の前に立つのはその男で、親友はそれを支える裏方という役割だったようです。しかし、程無くしてその二人の関係は終止符を打つことになります。突然、男が病に倒れたのです。神経質な性格が体に障ったのでしょう」

病室のベッドの枕元に、男の妻と、親友と、数人の劇団関係者が集まった。
男の容体は深刻だった。妻は涙を流し、他の者達は呆然とその場に立ちつくすだけだった。

その時、男の右腕が震えながら動き出し、側にいた親友を真っすぐに指差した。
これを見た周りの人間は驚いた。生気のない顔で横たわっている男に、手足を動かす力がまだ残っていたとは…。

親友は身をかがめて、自分の耳を男の口元に当てた。
そして、驚いたように目を見開くと、その場にいた者達の前で、大きな声で宣言した。

「なんと…、座長の座をこの私に譲ると…!!」

「そして、そのまま男は眠りについたのでございます」カスターは静かに話しを締めくくった。どうやら第一幕が終了したらしい。

「まあ…」
「ちょっと〇ンダムの某エピソードっぽいような…」

カスターは、人事担当者達を横目でちらりと見た。
「脚色して話すと、初めにお断りしたでしょう」人事担当者達の突っ込みに、少し気を悪くしたようである。

人事担当者達は慌ててカスターに謝った。
「し、失礼をお許じぐだざい…。だだ、その役者の男どいうのは、カスターさんどどういう繋がりのある方ですか?」

この質問に、カスターはニンマリと笑った。
「慌てないでください。お話しはこれからです」

劇団の座長の交代が発表されると、マスコミはこのことを大きく取り上げた。その結果、大勢のファンや業界関係者が男の家の周りに押し寄せた。

「男の家族は家の外に出ることができなくなって、孤立状態となりました。このままでは身辺に危険が及ぶかもしれないということで、劇団の新座長となった親友の手によって、安全な場所にしばらく身をひそめることになったのですが…」

男の家族は、妻と10歳の長男と7歳の長女の3人である。3人は、親友が別宅として所有している屋敷に、こっそりと身柄を移された。
(10歳の長男と7歳の長女ですって?! やっと人間関係が分かって来たわね…)
(は、はい…)

しかし、親友の別宅は、男の家族にとっては座敷牢のようなものだった。
(なんとっ、本日2度目の座敷牢のご登場?! いや~んっ)
(静がにしでくだざい!)

身の安全を守るためと称して常に監視の目が光り、建物の外はおろか部屋の外にすら自由に出られない日々がどのくらい続いただろうか。

「しかし、ついにある晩、屋敷に忍び込んだ者達の手によって、子供達が連れ出されました」
「子供達だけですか?」
「はい、男の妻は救出を拒んでその場に残りました」

家族の救出に携わったのは、男の劇団に古くから所属していた劇団員である。
彼らは新しい座長を認めていなかった。そればかりでなく、この座長交代劇は新座長による陰謀ではないかと秘かに疑ってさえいた。
新座長による前座長の家族の扱いも、彼らの疑念を増幅させた。

「彼らは以前から、前座長の子供達を役者として有望視していました。特に、長男が子役として才能を発揮しておりまして…ふっ」この部分を語る時、カスターはなぜかちょっとうっとりしていた。

彼らは、新座長によって新しい才能の芽が摘みとられてしまうことを恐れた。その結果、二人の子供は、父親の支持者達の手によって、素性を隠して遠い島で演技の勉強をすることになった。
“お父様の跡を継ぐのはあなた達のほうがふさわしいのに”と言い聞かせられながら…。

「ちょっと待ってくださいっ!」担当者1は思わず声を上げた。

「それでは…、カスターさんは10歳以降、お母様と別れて、遠く離れたところで暮らしていたのですか?」
確かにカスターの経歴はほとんど分かっていないが…。

これを担当者2と担当者3が制した。
「担当者1さん、今のお話しだと、カスターさんのお父様は亡くなっていることになりますが、実際はご健在です」
「この話しには、事実とかけ離れたどごろがかなりあると思われます。大人しくカスターざんのお話じを伺いましょう」

カスターは楽しそうにクスクスと笑った。
「私は前座長が死んだとは言っていませんが…」
「えっ?」
「だって、さっき…」
「そのまま眠りにづいだと…」
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