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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

義理という名の鎖

シンに語り掛けながら、目線をシンの左腕へと落とす黄猿。
その目には掠れる事なくはっきりと刻印された「51N」の文字が映っており、それによりシンが死んだと思われていた子供であるという事を確信したようだった。
「よく、あの男の下に居て“壊れず”にいられたものだねェ」
黄猿の言葉から、黄猿は先ほどから口にしている“0支部”つまり「海軍本部G-0支部」の内情をほぼ理解していたのだろう、そこで行われていた海賊殲滅だけを目的とした非人道的な行いの数々を。
そしてそこに居たシンがどのような扱いを受けていたかなど想像するに容易く、おそらく人としては扱われていなかったであろうと考えた黄猿はシンの頭に乗せた手を優しく動かし撫で続けるばかり。
そんな事をされては、今の今まで敵であると思っていた黄猿の予想外の行動にシンの頭は理解が追いつかず、けれど戦意がない事だけははっきりと理解したのだろう黄猿の言葉に返事を返すべく口を開いた。
「助けられた、から。」
そのシンの静かな声に、黄猿のシンの頭を撫でていた手が止まる。
「カエン少将が、私を助けてくれたから」
遥か昔、自分を助ける為にその命を落とした恩人の名をシンが口にした瞬間、ほんの一瞬ではあるが黄猿の表情が揺らいだ。
シンはそれに気づかないふりをして言葉を続けたが、それは恐らく黄猿の表情が続きを求めているように感じたからだろう。
「命を懸けて、私を人にしてくれた。幸せを、自由を、私に最初に与えてくれた。あの人が居たから、私は今こうしていられる。」
それに対して、感謝以外の言葉など浮かばない。
自分に攻撃を指示してくる、自分を盾として利用するだけだと思っていた“海軍”という名の軍隊の中で、彼の人が居たから自分は人で居る事ができたのだと、シンはそう告げた。
聞く人によっては、海軍大将に向けて告げる台詞としてそれは嫌味にも聞こえる言葉であったかもしれない。
けれどシンの言葉からは棘など微塵も感じられず、だからこそ黄猿はその言葉をシンの心からの言葉であると受け取った。
「カエン少将が、お前さんをねェ・・・」
そして呟いたその言葉で、シンは黄猿が“0支部”へと送り込んだ部下というのが自分の恩人であるカエンである事を察する。
察して、自分の頭に置かれた黄猿の手をそっと外すと深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございました。」
「・・・やれやれ、どうにもやる気を削がれるねェ」
「え?」
「お前さん、今は麦わらの一味だとそう言ったよねェ?」
そんなシンに対し、黄猿はシンの頭から外された手を自分の頭に持っていき緩くガシガシと自らの髪の毛を掻く。
その行動に頭を傾げたシンを一瞥した黄猿は、その次の瞬間に纏う空気を一変させた。
「なら、わっしとお前さんは敵になる訳だ。」
その急変ぶりといったら。
瞬時に纏った敵意に、シンは全身の毛が逆立つような感覚に陥った。
まるで今にも殺そうとしている程の殺意を帯びた黄猿の雰囲気に気圧され、息をする事すら難しく感じる程の極度の恐怖。
それによりシンがひゅっと喉を鳴らせば、表情さえ変えないものの瞳の光を鋭くした黄猿は有無を言わさず再びその手をシンへと伸ばしてきた。
「困ったねェ~、信頼してた部下の忘れ形見をわっしが殺さなきゃいけねェなんて神様も意地悪だねェ。」
緩い口調で言いながらも、その手には明らかな殺意。
それにシンが反応すら出来ずにいれば、その刹那にふっと黄猿とシンの間を遮る一つの影。
「この子にも手は出すなと言ったはずだぞ、黄猿君。」
「おっとォ、まだ居ましたか。」
「悪いが手を引いて貰おうか」
「それは出来ない相談ってモンでしょォ」
それが成り行きを見守っていたレイリーであるとシンが気付けたのは再び黄猿とレイリーが戦闘を始めた後であり、やっとそれに気付いたものの黄猿から送られた殺意により体が思う様に動かないシン。
立つ事すら出来ずに座り込むシンを目線に入れたレイリーは、何とか黄猿の攻撃を防ぎながらシンから黄猿を遠ざけようとするも黄猿の猛攻にそれも叶わない。
どうしたものかと僅かに冷や汗を浮かべたレイリーが、ふと静かに事の成り行きを見守っていたはずのバーソロミュー・くまがシンに近付くのに気が付いたのはその時。
黄猿も同じくその行動に気付いたのかそうはさせないと駆け出したのもほぼ同時だった。
「おォい、くまァ。お前さん、またその子もどこかへ飛ばす気じゃァないだろォねェ?」
そう言う黄猿の言葉に、くまは返答を返す事をせずシンへと手を伸ばす。
そんなくまの行動を援護するべく、レイリーもまた黄猿に立ちはだかりシン達の元へ黄猿が到達しないようにその行く手を阻む。
「ここから先は海賊の関わる了見じゃァないんでねェ・・・冥王といえど、こっちの領分に踏み入らないでもらいましょうかァ~」
「可笑しな事を言うじゃないか、黄猿君。あの娘は海賊で、麦わらの一味の船員だ。だから狙う、そうじゃないのかね?」
「あの子は元々海軍に所属していた海兵で、その籍はまだ海軍から抜けてないもんでねェ。一度正義を背負って、その正義を脱ぐってならそれ相応の義理を通す必要があるってモンでしょォ」
普段は飄々としてまるで掴めない雰囲気を醸し出す黄猿という男の目が、鋭く光ったのをレイリーは見逃さなかった。
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