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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

始まった日常

偉大なる航路で漂流していた一人の少女、シンを見つけた麦わらの一味が彼女を助けてから早数日が経とうとしていた。
シンを洗脳し殺戮兵器として利用していた男からシンを救い出し、彼女が麦わらの一味の一員としてサウザンド・サニー号に乗り込み航海を始めてからも同じ日数が経過しているその頃、次の目的地「シャボンディ諸島」へ向けて進む船の上では、偉大なる航路にしては珍しく安定した気候になっているおかげで一味全員が暫しの安息をそれぞれに過ごしていた。
「シン、体は大丈夫か?」
甲板で日の光を浴びながら洗濯物を干していたシンに、一味の船医であるチョッパーが声を掛ける。
「大丈夫。どこも悪くないよ。」
心配そうなチョッパーの視線に困ったような笑みを返しながらシンが返答を返した。
その質問をされるのはもう今日だけで10回は数えただろうか、しかもそれがチョッパーだけでなく他の船員からも問われるものだから、シンは同じ返答を同じ回数だけ答えた事になる。
「だけど、心臓を撃ち抜かれたんだぞ?どこかに痛みとか残ってないのか?」
「うん、大丈夫。海楼石の欠片も一緒に取れたから、回復力も上がったみたい。」
シンの食べた悪魔の実は「フジフジの実」という名前であり、自分の寿命を迎えるまでは決して死なないという特殊な能力を手に入れる事のできる悪魔の実である。
その副効果として怪我を負っても驚異的な回復力で傷口はすぐ塞がり、例えば心臓を撃ち抜かれたり首を撥ねられたりしたとしても寿命が来ていなければ死ぬ事なく回復してしまうという能力を持つ。
かつてシンは心臓に海楼石の欠片を埋め込まれる事で成長を止められ、それによって寿命を迎える事のない「不老不死」にされていたが、その施術を施した男により心臓を撃ち抜かれその際に海楼石の欠片は心臓から外れてしまった事により、今は寿命に向けて歳を取る体を取り戻している。
止まっていた成長も本来の歳である15歳相応まで成長したが、体には何の異常も見受けられずシン自身も自分の事であるが故にそれははっきりと分かっていた。
しかし周りの人間からすれば、10歳程度に見える年端の少女が心臓を撃ち抜かれ、更には15歳という年齢まで急激に成長したのだ。
それは確かに一般常識からすればこれ以上ない程に異常な事であり、一味の面々の心配も頷ける。
けれどそれも何日も続けば流石のシンも困ってしまい、洗濯物を干す手を止めたシンはチョッパーの目線まで屈むと困った表情のままで笑みを浮かべた。
「チョッパー、心配してくれてありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
「だけど、」
「・・・あんまり心配される事に慣れてないから、こんなに気にかけて貰うとどうしていいか分からないよ。」
過去、誰かから心配された事など一度しかなかった。
それは自分を命懸けで助けてくれた恩人からされたそのただの一度だけであり、現状のように皆から代わる代わるに心配されるとどう返していいか分からない。
そうシンがチョッパーに伝えれば、チョッパーの顔が少し泣きそうに歪む。
それから、短い腕を精一杯に伸ばしたチョッパーは目線の先にあったシンの頭を抱え込むように抱きしめるとぎゅっと力を込めた。
「じゃあ慣れればいい。仲間が痛い思いしたり、辛い思いしたら心配するのが仲間なんだ。シンはこれからそれに慣れてかなきゃいけねーんだ。」
優しい声に、シンの目頭がぐっと熱くなる。
もう幾度感じただろうその感情を抑える事も、ここ数日で大分難しくなってきていた。
「チョッパー、ありがと。」
何とか震える声でそう返せば、自分の想いが伝わった事を察したのかチョッパーはシンから離れるとシンの表情を見て気恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。
「エッエッエ、分かったならいいんだ。どっか痛くなったらすぐ言えよ!」
そしてそうシンに伝えると、満足したようにシンの側を離れていくチョッパー。
シンはそれを見送りながら、残った洗濯物に手を伸ばしながら小さく呟いた。
「・・・慣れない、なぁ」
「ウチの連中は過保護すぎんだよ。」
「う、わっ」
と、その時だ。
声と共に伸ばされた手がシンから洗濯物を奪い取ると、ぐしゃ、と別の手がシンの頭に強く置かれる。
驚いて声を上げかけられた声の方へとシンが視線を移せば、そこには仏頂面で洗濯物を抱える一味の剣士、ゾロの姿があった。
「ほっといて欲しけりゃちゃんとそう言え。じゃねえと、いつまで経っても同じ事聞かれ続けるぞ」
「や、あの、えっと・・・、」
強めの口調でシンにそう言いながら、面倒くさそうに欠伸をしながら洗濯物を乱雑に干していくゾロ。
それに目を白黒させながらゾロの行動をただ唖然と見守るシンに、ゾロは視線を洗濯物に向けたままで言葉をかける。
「何だよ?」
人から仕事を奪っておいて何だとは随分な言い様だが、シンはゾロからのその問いかけに言葉を返せずにいた。
はっきりと言えば苦手に思っているのだ、ゾロというこの目の前の男を。
何故かと問われれば、それは出会った時の事があるのだろう。
向けられた殺意に、殺意で返した初対面の出来事。
どちらも見ず知らずの相手であった上に、シンは“海賊”という単語に対し攻撃を加えるよう幼少期よりインプットされてきた経験があった為に仕方がなかったにしろ、“殺すつもり”で殺意を向けた相手に対してどう相対していいかが分からなかったのだ。
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