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3人暮らしっ!

原作: その他 (原作:高校星歌劇) 作者: 陽(ひなた)
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退寮ってなんだか寂しいな

 入寮してから、もうすぐ二年。あと数カ月もしないうちに、退寮しなくてはならない。
「ここのお茶も、あと少しで飲めなくなるのか……。」
寮に帰ってきたと実感するこのお茶を飲めることが、もうできないと思うと、少しだけ寂しい気持ちになる。寮を出ても、学園でみんなには逢えるけど、この場所には、他にはない特別な思い出がある。
(退寮したら、みんなどうするんだろう?)

 暫く物思いにふけっている間に、同室である那雪が帰ってきていたようだ。
「星谷くん?」
「那雪、帰ってきてたんだ。おかえり!」
「ただいま。ちょっと前にね。声をかけたんだけど、返事がなかったから……。」
心配そうに顔を覗いてくる那雪に、申し訳ない気持になった。
「ごめん、退寮後のことを考えてて……。みんな、どうするのかなぁって。」
そう説明すると、那雪もなるほど、という顔になった。
「退寮かぁ……。少し、寂しい気持ちになるね。」
那雪も同じ気持ちであることに、嬉しくなる。
「そうだよな。……那雪は退寮したら、実家に戻るの?」
「うん、そのつもり。妹たちもいるしね。」
「そうだよな。俺も、暫くは実家から通うつもり!」
(あのこともあるし、なぁ。)
そう、俺には、誰にも言えない秘密があった。

 中学三年のあの日、あこがれの高校生……鳳先輩に出会って、俺の世界は変わった。
(私もあんな風になりたい……!)
その一心で、綾薙学園への入学を決めた。は、いいものの……
「綾薙って、男子校なんだよなぁ。」
(さすがに、女子として、入学するのは無理、だよね)
どうしようかと思案して、思いついた。
(おじい様に相談してみよう!)
そう。実は、学園を経営している柊家とは、親戚関係にあたる間柄なのだ。そして、理事長であるおじい様は、とりわけ俺を気に入ってくれている。案の定、入学の相談をしてみると、すんなり許可が出た。ただし、男装をするという条件ではあるが。
「ありがとうございます。おじい様!
 でも、男装……バレないかな?」
「心配しなくてよい。翼には伝えてある。何かあれば、フォローに回ってくれるだろう。」
翼お兄様。柊家長男にして、次期跡取り。頑張り屋で、自分にも他人にも厳しい人。頼れる俺の大好きなお兄様。
「翼お兄様がいるなら……!」
もう一度、お礼を述べ、駆け出す。
余談だが、俺が帰った後、おじい様は「かわいい孫が学園に……!」と、いつにもまして浮足立っていたとか。

 受験から今まで、長いようであっという間だった。待ちに待った入学式。バレないか、緊張でいっぱいだったが、それ以上に楽しくて仕方がなかった。「華桜会のご登校だ!」
どこかでそんな会話が聞こえた。
「華桜会?」
「星谷くん、知らないの?!」
頭にはてなマークを浮かべていると、那雪が驚きつつも、説明をしてくれた。
(よくわからないけど、翼お兄様かっこいい!)
改めて綾薙ってすごい場所なんだと思った。

 それから、ミュージカル学科への、入科オーディションや、綾薙祭など、たくさんの経験を積んできた。チーム鳳のメンバーとは、ぶつかったこともあるけど、いつも俺を支えてくれた。
(この部屋でも、たくさん過ごしたよな)
初めての公演を無事に乗り切ったお祝いや、困難にぶつかったときに相談をしたり。本当に大切で、幸せな時間だった。そんなみんなと過ごす時間が減るのは、やっぱり、
(嫌だよ……。)
男子として、星谷悠太として過ごすこの時間を少しでも無駄にしたくはない。泣きたくなった気持ちをグッと抑え込み布団に入る。起きたらまた、楽しい時間の始まりだ。

 いつも通り、那雪の声で目が覚める。この生活もあと少しだけなんだと思うと、やっぱり寂しい。その気持ちを隠して、いつものように挨拶を交わす。那雪も、同じ気持ちだったら嬉しいな。

 あっという間に、午前の授業も終わりお昼になる。最初は、チーム鳳だけのこの時間も、気が付けばチーム柊のメンバーや、揚羽に蜂谷、北原と南條が集まり、賑やかになっていた。大体俺の両隣に、辰巳と揚羽、向かいに、申渡・蜂谷が座る。隣の席では、那雪と卯川が楽しそうに話していて、戌峰に褒められ鼻高々な天花寺を、からかっている月皇。その後ろからは、北原と虎石が、空閑を取り合っている?声が聞こえる。きっと南條は、やれやれという顔をしているのだろう。いつもと変わらない日常。きっと、退寮後も変わることのない光景なのだろう。
(ずっとずっと、みんなと一緒に過ごしたい)
幸せに浸っていると、突然スマートフォンが、着信を知らせる。それは、滅多に連絡の来ることのない母親から。
「ごめん、ちょっと電話に出てくる。」
そう言って席を立つ。退寮日と、今後のことは話をしてあるはずだ。何かあっただろうか?と考えながら、通話ボタンを押す。
「もしもし、母さん。どうかした?」
「もしもし、悠?突然で悪いんだけど、今度の日曜、帰ってきてほしいんだけど……。」
「いいけど。何かあった?」

「実は、お見合いが決まったの!」

今の言葉は聞き間違いだろうか。お見合い、
「お見合いって……えぇーっ?!」
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