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すずらん美容室

原作: その他 (原作:GIANT KILLING) 作者: QQ
目次

すずらん美容室6話

(11)



 達海は穏やかでない。



「オッケー?」

「……」

「なあ、分かったの?」

「……ん」



 達海が穏やかでない理由は、幼馴染みであり、先ほど恋人になった目の前の男が煮え切らない反応を返すからだ。

 つい今しがたまで「分からない」「分からない」と繰り返していた男に達海は正解を教えた。さらに数式のように答えにいたるまでの道筋も順序立て解説した。その上で「分かったか?」と聞けば無言である。

 暗闇の中が何度も明るくなる。外の花火は終わりを告げようと躍起になっている。そのさまと達海の心がシンクロした。高みを目指し、ひゅるひゅると時間をかけて上ってゆき、ベストポジションに達したとき、暗い空に喜びの花を咲かせる。花が開けば、あとは消えるだけ。



 ――それでは困る。

 

 達海は思った。



 ――俺たちは違う。



 だから並々ならぬ覚悟を持って行動に出た。



「お、おい!」



 達海は目の前でボーっとしている男の(秘)を握った。

 この冴えない男の(秘)は、不思議なことにいまだ力強く天井を見上げている。達海の解説は数分程度のものだったが、それでも達海の方は少し元気を失いかけていた。自分の体を見ても萎えることのない(秘)が、達海は愛おしくなった。



「後藤、いいから」

「っいや、しかし、」



 達海は解説したのだ。ここにこれを入れるのが男同士の交わりであるという正解を自分の尻を指差して。交わるためにはここを柔らかくしなければならないこと、それを長年にわたり後藤を想い、自らの手で行ってきたこと、先ほども風呂でそうしてきたこと、だから大丈夫だと。開発経緯については『ごとうノート』を参考にしろ、と。



「――っ」

「ア、あ、あ、、」

 

 開発に成功したそこに後藤の(秘)を導くと、ちゅるりと音を立て、あっさり吸着した。



「き、キツイっ……」

「あ、やべっ、きもち、よすぎっ」



 予想以上の快感に、達海は声と体を激しく震わせるのである。

 一方、身なりはこざっぱりしたが、態度が冴えない後藤も、達海の大胆さに戸惑いながらも、未知の領域の中で本能のままに腰を振るのである。



「んぅ、ごと、きもちいっ」



 腰を振り、遠慮のない達海の喘ぎ声に酔いしれる。

 後藤の頭の中は一定の法則を持ってはいるがめちゃくちゃである。はじめは犬の交尾を思い出していた。自分たちの行為と重なったからだ。次にケーキに突き刺さるろうそく、ろうそくの構造と歴史、歴史と産地、産地の他の特産品、特産品による地域おこし、地域おこしについて語る自分、自分の講義を聞く学生たち、学生たちの中で苦手な一人の男子、男子が得意げに口にする「コンセンサス」というセリフ。「コンセンサス」を得た自分と自分が今抱いている男。



「ごと、ごとう、んあっ、あ、あ、やっ、ごと、ごと、ごと」



 その男は自分の名をこんなにも連呼する。そこに含まれているのは間違いなく愛情なのだ。



――もう何十年、こうして呼ばれてきたのだろう。



 愚鈍な後藤もようやく気がついた。



「痛っ、そこはやっ、ふっ、」

「あ、すまんっ!」



 振り返り己を見つめる目の中にさまざまな想いを感じとった後藤は、その想いのすべてを返したいと思い始めた。同時に、自分の手によって背中を真っ赤に染め上げているこのかわいらしい幼馴染みを、他の方法でさらに高めてみたいという持ち前の好奇心が疼く。



「――あ!」



 自分の上に跨らせて突き上げる、細い足を大きく開かあるる、土筆を擦り上げる、(秘)を一度抜き、達海が所持していたローションをたっぷり塗って再び挿入してみる。

 そうしてしばらく試行錯誤は続けたが、だんだんと頭がぼんやりしてきたことを自覚した後藤は、これではいけないと意識を取り戻すため、培ってきたさまざまな知識を呼び出そうとふんばった。



1×1=1、 1×2=2、 1×3=3、 1×……



「んあっ、も、やばいっ、ああ、は、あ」



 腰を強く打ちつけながら、快楽に涙を滲ませる達海を見る。



……6×5=30、 6×6=36、……



「ね、ね、も、出る、出ちゃう、って」



……8×8=64、 8×9=72、



「あ!後藤!出る出る!」



……9×5=4、……9×5=……4、



「だめ、イクっイクッ!」

「~~~~っ!」



 達海は今宵いちばんの大声を上げたが、窓の外で連発された花火の大音量でかき消された。

 後藤は達海の尻の周りに流れ出る己の体液にあるはずの、9×5の答えを見失ったのである。





(12)





――やあ、テレビの前のお友だち!さて今日の不思議は何だろう?みんなのフシギに、この科学マンが答えるぞ!もしもーし。



――モシモシ!



――キミのお名前教えてくれるかな?



――スズキゲンキ!いちねんせーでーす!



――お、ゲンキくんは元気いっぱいだ!科学マンも元気が出てきたぞ!ゲンキくんはすっかり当番組の常連だな!



――ジョーレンってなんですかぁ?



――気にするなゲンキくん!いつもありがとうってことだ!さあゲンキくん、今日はどんな不思議を知りたいんだ?科学マンに聞かせてくれ!



――えっとーあのー……どうしたら星はキレイに見えますかあ?



――とってもいい質問だね!それじゃあゲンキくん、この科学マンが答えよう!星はねー……





「んなの簡単じゃん」



 幼児向け番組に大声で話しかけているのは達海猛、35歳。



「好きなやつと見ることだよね、後藤」



 その達海がうっとり見下ろすのが後藤恒生、39歳。



「え?う、ううん、科学的にはどうなのか、俺はそっちの知識は乏しいから答えられない」

「知識じゃねーよ、気持ちの問題でしょ」



 二人は幼馴染み。

 大きなお友だちだ。

 昨晩恋人になった。



「そ、そろそろ起きないと」

「えーまだいいじゃんーせっかくの休みなのにさー」

「いや、でも、村越のところに行きたいんだ」

「むらこしぃー?」

「ああ、今回の街コンの関連資料をもらいたい」

「あとじゃだめなの?」



 達海は後藤をみつめる。えさをねだる子猫の顔で見られた後藤はのどをぐっと鳴らした。



「俺、もすこしお前とこーしてたいんだけど」

「……」

「けなげな俺に、ちょっとくらいご褒美くれたっていいでしょ?」

「……あ、ん、ああ」

「腰いてーし」

「……ごめん」

「ほーんと、お前ってむっつりね。まさか3回もやられるとは俺も予想外だった。中にいっぱい出されちゃったしー」

「……すまない」

「あちこちべろべろ舐められるしさー、指とかズブズブされちゃったし、後藤のでっかいからケツ割れるかと思ったよ俺。ケツ初めから割れてっけどさー」



 裸の尻を擦る達海から後藤は目を逸らした。思い当たる節ばかりで後ろめたいのである。



「まあでも、気持ちよすぎて死ぬかと思った。ってことでさ後藤」

「え?」

「しよっか」

「……だから俺はこれから」

「こんなにしておいて?ほら、勃ってる」

「うっ!」



 今、朝ではない。もう昼近くなのである。

 しかし後藤の(秘)は朝だと勘違いして、今日も1日がんばると張り切っているのである。そのいきり立つ(秘)を達海は握力測定の如く握った。



「イテッ!」

「ごめんごめん、痛かったよね、よしよしいい子いい子、舐めたげるな」

「はんっ!」



――今日はタケちゃんに刈ってもらおうかしら!



――あらやだー!えぐざいるにでもなるつもり?



――あんたなんかわかめちゃんで十分でしょ、しかもババアの!



――あらやだー!



――ちょっと!今日って定休日じゃないの!?



 すずらん美容室へ向った毎度おなじみの一行が、ぐずぐず引き返してくる。後藤は先ほどのみっともない声が外に漏れてしまったのではないかと焦った。



――なによもう!せっかくタケちゃんと触れ合おうと思ったのにー



――あんたと触れ合うくらいなら、ボンレスハム触ってた方が楽しいに決まってるわよ!



――あらやだー!



――もしかしてコウちゃんの家じゃないの?



 後藤はさらに慌てた。この商店街で幅をきかせる彼女たちにとって、不法侵入など造作もないのだ。



「ねえ、後藤のふにゃふにゃになっちゃったけど」

「あ、当たり前だろ!」

「俺、舐めるの下手?これでもいっぱい練習したんだけど、アイスとか魚肉ソーセージとかで」

「ち、違う、そうじゃない、だって下にあの人たちいるんだぞっ」



 うろたえる後藤を見上げた達海は、大きくため息を吐いて後藤から離れた。

 後藤は薄手のタオルケットを引き寄せ(秘)を隠す。達海以外に見られる心配はないのに不安だったのだ。

 達海がベッドから窓辺へと移動し、サッシを勢いよく開けた。



「お、おい、達海?」

「おばちゃーん!」



――あら!タケちゃ、……



――あら、やだ……



「ごめーん!今日店休みなんだー」



――そ、そうなの……



「明日また来てー」



――私たちのことは気にしないで!邪魔しちゃって悪かったわね!



「またねー」



 達海はサッシを勢いよく閉めた。



「これでいいでしょ、後藤」

「……お、お前」

「続きしよ、続きー」



 達海はベッドに飛び乗り、再び後藤の(秘)を掴んだ。



「んっ」

「おほ、ほほほん、むあんあ?」

「え?」

「むあんあ、ああほほんあ?」



 後藤には達海が何を言っているのか理解できないが、外で会話が続けられているのは分かった。



――まるだしだったわね、タケちゃん



――いいもの見たわ



――まるだしだったけど、よかったんじゃない?



――そうね、私たち、ずいぶんヤキモキさせられたものねーあの子たちには…



――何年かしら?



――20年くらいじゃないの?あの頃、私らもピチピチのギャルだったからねー



――奥さんが店やってた頃からあの子ら見てきた私たちとしては本望よ



――あ!あんたあの話どうするのよ!



――そうそう、コウちゃんに紹介するって話よ!ほら、どっかの大学の助手やってるお嬢さん



――ああ、藤澤さんね、お茶の湯女子大学の才女……あの方ならコウちゃんにぴったりだと思ったんだけど……



 後藤はまたしても焦った。達海が(秘)を口から離し、聞き耳を立てている。



――まあ、タケちゃんにはかなわないでしょ



――……そうね、なんせあの二人は「ホ・の・字」なんだから!



――あらやだー!



――しかしあれね、この商店街の由来みたいね、あの子らって



――ああ、たしかに…



――くっついて育って、大人になって離れて、また戻ってきてね、まさにすずらんの花言葉通り、幸せの再訪ってやつよ



――ロマンチックねぇ……韓流ドラマみたいじゃない



――男同士だけどね!



――あらやだー!





「なあ後藤、ホの字って何?」

「……それは」



 後藤は力強く達海の体を引き寄せ、唇を押し付けた。



「……こういうことだ」

「……ほんと、お前ってば、そっち系の説明すんのは苦手なのね」

「……は、恥ずかしいんだ」

「俺とこーゆーことするくせに?」



 達海は後藤に抱きついた。



「後藤、好き」

「あ、ああ、うん」



 いいだけやったくせして、二人の顔は真っ赤なのである。






~完~
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