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アニマルライフ

原作: その他 (原作:GIANT KILLING) 作者: QQ
目次

アニマルライフ1

ここはとてもつまらない動物園。いろいろな種類の動物たちが今日もひしめきあって息してる。

そうだな、数字のケタが一つ違っていると激高中のこのお局はヘビ。キイロアナコンダ。好物は自分の肩書きと見解スカスカのジェンダー論。私がすみませんと言うたびに、伝票をぐしゃっとする不思議な特徴を持っている。巻き髪は雑。高すぎるピンヒールは13センチか?

40過ぎて必死な感じが涙を誘うかわいそうな生物です。

続いてあちらに見えますのはクラハシコウ。特徴は首から曲がった背中。コンドルな幹部に頭を下げ続けたから歪んだのだろう。

黒々とした毛はエアコンの風でそよぎません。人口だからです。悩みは子どもの反抗期と少ない小遣い。こちらもかわいそうな鳥類。そのお隣りには夫と家事だけが生きがいのムフロン。好物はマリメッコ。普段ここでは

役に立たない生き物だけど、幸福な家庭と言う太い角でキイロアナコンダと同じように私をなぶる。わりと致命傷を負います。

エサの時間は大変。

ラッピングからオスの話までけん制しながら進む。なんの足しにもならない小さなお弁当箱は鮮やかで、それを持つ手には目立たない小ぶりのリング。ネイルはキラキラ。クラブのフロアの一角ばりにまぶしい。

ごちそう様と手を合わせたら、横並びになって移動開始。列から外れてはいけない。エレベーターの立ち位置も乱してはならない。

ピアニッシモかバージニアのライト、またはワン。少し力を入れただけで折れてしまう細長い煙草に火をつける。

本当はマイセンかアメスピ。煙くてむせるあれがちょうどいい。心が真っ黒だからあれで。

片足のダイアナでふんばるフラミンゴの群れ。その中の一羽が私です。

陽が落ちてからはもっと大変。

同期とのくだらない集会はだいたい新宿。52階から人間を見下ろすのが大好きなこの営業たちは億単位のプロジェクトを動かしていることが自慢のアメリカンバイソン。好物は評価。このうち何頭かはバックから突き上げるだけの、どれも自己陶酔型の交尾だった。

サバイバルな夜を駆け抜け辿り着いたマンションは家賃8万。時々やってくるのはオカメインコのオス。今日もいる。好物は、なんだっけ?

私はフラミンゴの群れから離れたら動物園では生きていけないから、お前のねぐらへお

帰りとオカメインコにすら言えない。愛嬌と安定だけを備えたこの種別の異なるオスとつがって3年のうちの半分の朝と夜を一緒に迎えた。

正常位から始まり正常位で完了する交尾は静かなままで、騎乗位は生理前だけ。面倒だから。

面倒なのは何もかも。毎日が面倒だ。どうしてこんなみじめな動物やってるんだろう。足下にまとわりつく鳩たちは自由だ。私はうらやましい。人生バラ色。そんなわけあるか。

さっきから視界の端をかすめる緑色のジャケットがすごくいい感じ。ごついアーミーでもなく、カジュアルすぎず、けっこう好きなデザインだ。ほんの数年前、学生の頃はああいう洋服ばかり好んで着ていた。

あれが私に似合う。自分らしいのはあれだ。大丈夫。ちゃんとわかってる。だからほっとけ。

それにしてもあの男はなんだ?

オオタカ?

ベンガル?

それともアカリス?私の図鑑のどの動物にも当てはまらない。ただベンチに座っているだけだというのに。

バッグの中でスマホが震えている。不穏を察知したらしい鳩たちは一斉に飛び立った。本物の動物は危機回避能力に優れている。私たちもあのガラス張りの動物園で懸命に動物やってるけど、刹那的に命のやりとりをしている彼らには劣る。52階でへらへらワインなんか飲んでいるアメリカンバイソンも、荒野に放たれたらすぐ死ぬだろう。

だから今日、私は生まれ変わろうと思うのです。みじめでくだらない動物をやめる。

その手始めとして、ウシっぽいおじさんたちに混じって汗をぬぐいながら牛丼を食べました。

「つゆだく、ギョクつきで」

学生以来の注文に少し緊張。けれど、キリンみたいな店員もウシたちも、誰も私なんて気にしなかった。どんぶりを片手で持ち、ずずっとかきこみ、外出てマイセン1本吸ったら、おなかも肺も体中がいっぱい。

楽しい時間を終わらせるつもりはない。だからスマホはシカト。

本当は怖い。

キイロアナコンダがぐるぐるとぐろを巻き、クラハシコウはキョロキョロ首を回して、フラミンゴたちはヒソヒソ囁き合っているだろう。

怖い。とても怖い。でも、あの鳩のように飛ばなければ、私はだめになってしまう。



正午、12時ジャスト。私は私として生まれ変わると決めたのだ。透明で息苦しい動物園には戻らない。だから、全員ほっとけ。

憧れの鳩は、灰色の上空を旋回して、緑色のジャケットの男の前に着地。噴水のしぶきの隙間からエサをつついているのが見える。

あの男は何の動物なのか。1時間以上たった今でも、私は答えを見つけられない。

細長い脚を投げ出してベンチに背中を預けているあの姿はサラリーマンじゃない。あれで上場の社員とかだったら、私は大切にしてきた図鑑を封印する。

男が空を見上げる。そこに何があるのか教えてほしい。真似て眺める空は空でしかなく、何も与えてもらえない。私は柵の最端に追い詰められてしまったのだろうか。もう手遅れなのだろうか。あの男なら、私が鳩になるためのヒントを授けてくれそうな気がしてならない。スマホがまた騒いでいる。

今何時だ?

そろそろ3時か。

もうねぐらに帰ろうか。

いや、あと少し、少しだけ。

ここは本当に平和だ。

ウサギのようにかわいい母子の集団。クラハシコウの仲間はベンチで優雅に昼寝中。それらをすり抜け、大股で歩いているのは背の高い人。地味だけどいいスーツを着ている。そんなどうでもいいことまで、私はあの動物園で学んでしまった。

あれは大きなシカ。あの男はワピチだ。

ずいぶん前にオカメインコと行った東武動物公園にもいた。目がやさしくてのんびりしてた。

ワピチは緑色の男のもとへ向かっているけど、じゃああの緑の男もシカ科?いや、どうなんだろう、全然わからない。

緑の男がワピチに気づいた。

男の前に立ったワピチは、男の頬をぶった。
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