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腐男子、BLを百合と語り、男におちる

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: kirin
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幕開けはいつも唐突に 2

 少し時間をさかのぼる。

 大絃は高校3年生にして初めて彼女が出来た。



 それまでモテなかった訳ではない。

中学生に上がった頃から、姉の影響で―イラストのモデルになれと髪型や服装に至るまで口を出された結果―他より早く垢抜けた外見になり、もともとの顔立ちも目鼻立ちがはっきりしていて、睫毛が長く美人な顔立ちをしていたので、寧ろかなりモテた。

 だが、一番近しい女性が姉たちなので、大絃が話せる内容はアニメ、マンガ、BLと言ったものばかりだった。大絃の容姿を好んで言い寄ってくる相手は基本的に、流行に乗るタイプの可愛らしい一般女子だった為、最初は流行を勉強して話題についていこうとするが、結局途中で合わせることがしんどくなってしまい、付き合うまでに至らなかったのだ……。

 そんな苦い思い出を払拭すべく、高校に上がる時には一般常識を養おうと幼馴染の男子・生駒汐(いこましお)に協力をあおぎ、流行になんとなくついていけるようになった。

ただし、一番の得意分野はやはり「オタク」に寄っているものなので、どちらかと言えばキラキラと流行に乗っている女子よりも、少し大人しめでオタクに偏見のない人を彼女にしようと決めていた。

 しかし、大絃の思いとは裏腹に外見に引き寄せられるのはキラキラタイプの女子ばかりで、高校3年最後の学園祭終わりにコミケで何度か見かけたことのある―売り子として参戦する機会が何度かあった―クラスメイト・好野桃夏(よしのももか)に告白されるまでお付き合い経験がなかったのが実情だ。

 好野は可憐な女子だった。ふわふわとした雰囲気でいつもハーフアップにしている髪の毛からはいつもいい香りがする。私服もゆったりとしたオーバーサイズのワンピースが多く、森ガールな雰囲気といえば良いだろうか。そしておっとりと話すところを大絃はとても気に入っていた。もともと彼女に対して好感を持っていた大絃は告白をすぐに受けたのだった。



 可愛らしい彼女が出来たことによって大絃のモチベーションは格段に上がった。万莉の影響で文学について学びたいと思い文学部のある大学に進学することを目標としており、好野も別学部にはなるが同じ大学に行きたいとの事だったので共に勉強することも多くなった。

 長年憧れを抱いてきた普通の恋愛。少女漫画のような劇的なきっかけや変化がなくても、一緒に何気なく過ごす1日の尊さや幸せを噛みしめて、順調に仲を深めていった。

 季節は移り変わり、大学受験、合格発表と進んでいった。大学の掲示板に2人の受験番号があることを確認し抱き合って喜んだことも、その日の夜、お互いの両親から了解を貰いお泊りをして、その際に盛り上がってしまい童貞卒業したことも夢ではなかったはず。肌を重ねて、ああ、俺はこれからもこの子と連れ添っていくんだな……大学生活に慣れてきたら、バイトをして貯金額を増やし、結婚に関しても真剣に考えていこうと、密かに将来設計も始めてもいた。



 大学生活が始まった当初は、大学指定のアパートでひとり暮らしを始め、家事に関してもほとんどを母親がやってくれていた実家とはかなり勝手が違い、洗濯に関しては文明の利器を最大限に活用してどうにでもなるが、自炊に関してはどうしても経験に左右されてしまうものである為、初めはレトルト食品や外食で賄っていた。

 時折、好野がお裾分けしてくれるご飯が美味しくて、自分で作れるようにならなければ、将来的に好野が風邪を引いた時や、結婚して子供が出来てしんどい時に家事が出来ないとお互いに困るなと思い立って、時間を作ってはレシピ本を片手に料理するようになった。



大学でも学部の講義やゼミに関してのリサーチ、課題、その他諸々で好野と一緒にいる時間は少なくなってしまっていたが、別の学部になってしまったものの同じ大学という事で昼食は一緒に取るようにしてお互いの近況を報告し合った。

「桃はどう? 慣れた?」

「うん、私あんまり1人で行動するのが得意じゃないんだけど~、講義の時に隣の席に座った女の子が声を掛けてくれてね。その子と一緒にいろいろやることにしたから、大丈夫だと思う」

 好野は告白する時に関しても一緒に行動してくれる女子がいないと積極的になれない質だった。自分が一緒に居られれば良かったのに……と大絃は何度も思ったが、彼女の成長の妨げになりそうだとも考えていたので頭の中に浮かんだ思いは飲み込んだ。

「そうか、それなら安心だな。でも、何かあったら俺にも相談してな。たまには構ってくれないと、そのうち拗ねるぞ」

 少しむくれた顔をするが、自分にぶりっ子は似合わないとすぐに笑ってしまった。好野の頭を軽くなでる。

「ふふっ。うん、わかった。これからの大学生活楽しみだね~。あ、そうだ。私、漫画研究サークルに入ったよ」

「おお、それじゃあ趣味仲間が増えるな」

「うん! それが楽しみなんだ。大絃くんは入らないの?」

「ん~、課題とかが忙しくなりそうだから、様子見てからかな」

「そっか……。大絃くんが来るの、待ってるね」

 そんな他愛ない会話のひとつひとつがに胸が甘く疼く。幸せの感覚とはこういうものかと大絃はしみじみと思うのだった。



 だが、崩壊の日は唐突に訪れた。
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