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勇者達のこんにちワーク

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 髙見 青磁
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ラストバトルは永遠に

俺は、最後の力を振り絞って、魔法の詠唱に入った。その隙に、魔王の四回口撃が始まった。それを、のらりくらりと交わした。いや、実際には必死だ。的確に俺の急所を突いてくる。四回目の口撃を得意のすっとぼけで交わす。まあ、現実世界のゲームで言うところの、「回避」だ。これなら、成功すればダメージはゼロ。その間に、詠唱を続けることができる。
「まあ、奥様。最近は美魔女なんて言うのが、流行っておりますので、魔王様も魔女に転職なさってはいかがかしら?」
俺は、最強の魔法である、「オバサン」を唱えた。
これは、話の最中で、男女問わず、最強と謳われる生き物「オバサン」になりきるというものだ。これなら、恥もへったくれもない、歯に衣着せない物言いが許される。
「あら、私、いくつに見えます? え? 二十代? そうねぇ、そう見えるのも無理はないわ、何しろ私は、賢者の石で永遠の美しさを手に入れたのよ」
恐ろしい。なんと、魔王はあの伝説のアイテムを持っていたとは。
「まあ、だから湯上がりタマゴ肌なのね。どこの通販でお買い求めに? うらやましいわぁー。あら、でも、首元にイボ発見ですわ」
「んまっ。ハズカシイ。でも、あなたを傷つけることには飽きたわ。もっと、ダメージの大きい口撃をしましょうかね」
な、なんだ。その妖怪じみていながらも艶然とした笑いは!!
「さあ、皆さん、コッチへいらっしゃい」
魔王がそう言うと、懐かしい三人組が現れた。
「お、おい。お前ら、生きて?!」
三人組は無表情だ。
そして口をそろえて言った。
『我々はエリートサラリーマンだ。お前のような知り合いはいない!』
な、なんだと?! どういうことだ。
「あーら、びっくらこいちゃって、カワイイ。この子達は私の大切な社員よ」
そういうことか。あの三人は社畜にされたのだ。
「ふふっ、どう? 自分が傷つけられるよりも、自分が大切にしている人が傷つけられる方が、ずっと痛いでしょう?」
なんとまあ、何処までも卑劣な奴め。
それじゃあ、俺も最後の手段を使わせてもらおう。
俺は、ライフのマザーAを使った。
「ぬっ、なんですのコレは? 今までの苛つきや体のほてりが収まった。どうしましょう、私は、私は、今なんて優しい気持ちなの?」
魔王は、急速に魔力を弱めて、縮んでいった。
そこには、確かに三十代に見える女性が立っていた。
まあ、実際に三十代なのだろう。あのクソじじいは、若いのが好きだからな。
「あんたの、魔力増大は、女の子の日だからだろう? それを、伝説の秘薬で緩和させてやったのさ」
「まあ、私なんてことを。ごめんなさいしなきゃ」
「そうだな。ごめんなさいしちゃいなさい」
「でも、あの人、私の欲しい宝石買ってくれないの。ケチだと思わない?」
「あのなぁ、金持ちだと思って結婚したのかもしれないが、王様っていうのもそんなに自由な職業じゃないんだぜ」
「そうなのよねぇ。私、今度は勇者様と結婚しようかしら」
「やめとけよ、同じだから。さて、王様には魔王のご機嫌ナナメがなおったことを伝えていいんだな?」
「ええ、今度は私、宝石なんて欲しがらないからって伝えて」
「ああ、それがいい」
「今度は、ポルシェにするっ!!」
あー、ダメだこりゃ。と、思いながら、俺は魔王に背を向ける。
その背中に、声をかけるヤツがいる。
『師匠。ししょー。待ってください』
俺は、振り返った。
そこには、あの、笑顔を交わした三人がいた。
魔王が縮むと同時に、洗脳が解けたらしい。
「師匠。待ってください。僕らを置いていくんですか?」
「もう、なーんにも。教えることはねぇよ」
「そ、そんなぁ」
「いいだろ? もうここの『正社員』様、なんだし」
「でも、私まだお茶汲みしかやってません」
「いーんだよ、それで。ゆっくり大人になればいいんだ」
「お別れ、ですか?」
勇者の一人が、ボソッと呟いた。
「そーだなー、でも、お前らが本当の最強勇者になった時には、相手してやるよ」
俺はそう言って、身を翻し、その場を去った。
背中に、三人の嗚咽を聞きながら。

――勇者の自宅にて
俺は、久しぶりに再開した家族と、その日はゆっくり過ごした。
風呂に入っていると、なんだか玄関の方で、ドサッという音が聞こえた。
家内が申し訳なさそうに、風呂のドアを開けて、あなたお客さんよと言った。
やれやれ、この家にはまともな客は来ないのかね。
俺は疲れた体に鞭打って、服を着替えて、客の待つ部屋まで行った。
そこに居たのは、隣国の傭兵部隊の隊長と名乗る男だった。
どうやら、傭兵を主産業としている隣国で、ある問題が起こっているそうで。
その問題というのも、まあ、所謂、戦争とカネの問題で。
それを解決するためにも、俺みたいな勇者が必要だとのことで。
あー、うんうん。
とりあえず、話は聞いた。
こうして、また、最強勇者の強行軍の日々が始まる。
俺は、みんなの前で、有給休暇が欲しいと呟いたが誰も聞いていなかったようだ。
俺の旅はまだまだ続くようだ。
後日、あの三人組から手紙が届いた。
どうもあの三人は、正社員を辞めて、武者修行に出たらしい。
やーめといた方がいーのに。
でも、俺はそんなヤツが好きだぜ。
みんなも困ったら家まで来いよ、何とかしてやる。場所は異世界だけどな。

<おわり>
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