ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

勇者達のこんにちワーク

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 髙見 青磁
目次

勇者達と魔王のこんにちワーク

そんなこんなで、俺たち勇者は、鉄道に乗って、魔王のトコロの最寄り駅までやってきた。
――デスパレスサイドビル 地下一階
ここのフロアは飲食店が並んでいる。
なんとなく既視感強いのは何故か分からないが、とにかく俺たちは足を進めて行く。
俺も勇者達もスーツに身を固めているので、幸い全く怪しまれることはない。
しかしまあ、何というか、腹が減っては戦はできぬと言うので、そこいらのラーメン屋にでも入ることにした。
勇者達に奢ってやると言うと、我先にとメニューを取り合っていた。
それを横目に俺は、魔王攻略の作戦を立てていた。
なに、簡単なことだ。コチラの勇者達を間諜として送り込むのだ。魔王のトコロに。
――時は遡ること3日前
ここは、国立職業安定所、通称「こんにちワーク」だ。
勇者達にまずは求人票の検索をしてもらうことにした。
「どうだ、あったか?」
しばしの沈黙の後。
「ありました、魔王のトコロの求人です」
「どれどれ、見せてみろ」
ほー、なかなかの神求人ではないか。
魔王もなかなかやるな。
しかし、これだけ好条件の求人となると・・・・・・。
「わ、私ダメです。こんないいところ受かりっこないです」
ほら来た、ダメダメ求職者が来たぞ。
「大丈夫だ。名刺交換を思い出せ。やれば何でもデキる!」
「でも、こんなハイスペック求人なんて無理です。そんなスキルないし」
「前も言っただろう、勇者の武器は?」
「智慧と勇気ですよね。でも、現実はそんなに甘くないはずです。私、イヤですよ。何度も面接落ちて、嫌な思いして、愛想笑いして、傷ついてないフリして、無理目のところにチャレンジするなんて、新卒の時の苦い思い出が蘇るようで」
出たよ、デモデモ成人め。そうやって、デキない理由を振りかざすのは簡単だよな。
だがな、それだけじゃ成長できないぜ、お嬢さん。
「分かった、俺がしっかりフォローするから、安心して応募してきなよ」
「本当ですか?」
「嘘は言わねぇよ」
「じゃあ、落ちたらどうしてくれるんですか?」
「どうもしねぇよ」
「やっぱり、責任取ってくれないんじゃないですか!!」
俺は、ヤレヤレと思いながら、しかしまあ、昔の俺もこんな風だったのかもしれないなと思った。スッと息を吸って言った。
「馬鹿野郎! 責任は自分で取れ。自分の責任も取れないヤツが内定を勝ち取れると思うな。お前は失敗して何を学んだんだ。自分を省みたんじゃないのか? ダメなのはお前のレベルでも装備でもねぇよ。お前の弱いココロだ」
おっと、ついついアツくなってしまった。
女勇者は泣き出してしまった。
「あー、悪かったな。すまなかったよ」
「わらひ、わたしは・・・・・・」
ずずずーっと、涙混じりの鼻水を啜っている。
「なんだ?」
俺は務めて優しく言った。
「わたし、馬鹿かもしれないけど・・・・・・」
ああ、そうだな、馬鹿だな。
「野郎ではないもんっ」
あっ、そう・・・・・・。そっちかよ。
「そうだな、その意気だ。お前は馬鹿だけど、野郎じゃない。だから、それも武器にしろ」
頑張れ。頑張れよ! 俺はいつも心の中でお前達に言っている。
どうにかこうにか、応募の手続きを終えて、旅の拠点にしている宿屋に着いた。
三人とも疲れているようだから、早く休めと言った。
しかし、緊張しているのか、なかなか寝付けていないようだ。
俺は一回寝返りを打ち、ベッドサイドの煙草に手をやった。
――キャーッッ
何だ? 女勇者が、また精神的にやられたか。
「受かったー。書類選考通った!」
マジで? 早すぎないか?!
女勇者はスマホのメールを見せてきた。
確かに。選考通過のお知らせメールだ。
「マジかよ、オイ。俺たちも見てみようぜ」
そう言って、残り二人の男の方もメールチェックし始めた。
結果。
三人とも、書類選考通過だった。
ヤレヤレ、どうなってるんだ? 魔王のトコロはそんなに人材不足なのか?
分からんなぁ。

こうして、我々はデスパレスサイドビルに向かうことになり、そこでラーメンを食べた。
こうしてみると、勇者達も逞しくなったような気がする。
最初は、どうにもならんと思ったが、やれば何とかなるものなのか。
共に悲しみ、共に喜び合う仲間が居るっていうことは、良いことだ。
そのことを、勇者達にも知ってもらいたかった。
だからこうして、今はこうして楽しく食事ができる。そんな時間を大切にして欲しいと思う。
これから、三人の勇者達は、魔王のトコロへと向かう。
そんな三人に、ささやかながら贈る言葉があるとすれば、それは。
――職業に貴賎無し。頑張れよ!
俺は、心の中でそう叫びながら、目の前のチャーシュー麺を啜った。
その後、エレベーターに乗り込む前に、装備のチェックをしてやった。
「問題ない。完璧だ、行ってこい!」
『行ってきますっ!』
そう言って、俺たちは笑い合って別れた。
そう、それが最後の別れだとは気付かずに。
子供のような屈託のない笑顔は、もう二度と、永遠に戻らないことになるのを、この時は誰も知らなかった。
本当の魔王の恐ろしさを知らなかったのは、三人の勇者達だけでなく、俺も同様に知らなかったのだ。
ラストバトルにエンカウントするまでは・・・・・・。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。