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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第二十話


少年たちは、旧校舎の廊下に戻っていた。
突如現れた体育教師の馬鹿力から、話があるということで、とりあえずこちら側に、戻っていたのだ。
「お前ら、勉強をろくにしておらんな。各地に神殿があったのなら、その数だけ、門番がいたとしてもおかしくなかろう。鍵もそれだけあったのなら、神官の子孫が、こっそり受け継いでいても、おかしくなかろう」
わかるか。
少年たちは、ふてくされた学生の顔だった。
噂の真相を、わかっていやがったな。
そんな、不平と文句がたらたらの顔だった
「オレがその子孫だって事だ。例の四大話に体育準備室が出てきた時点で、察しろ」
自慢の筋肉を豪快にうならせて、体育教師は、笑った。
一方の少年たちの感想は、一つだ。
無理だ。
実際、本当に、予想は出来なかった。
そして、なぜか仲間が増えたはずなのに、うれしくない。
大人が仲間になったのだ、頼っていいはずなのに、頼れば負けるような気がするのは、なぜだろう。
少年は、思った。
あぁ、これが反抗期なのだと。
「先生、質問です……」
力なく、先輩が手を挙げた。
げんなりとしたと、言い換えた方がいいだろう。今は旧校舎への無断侵入のバツということで、絶賛廊下のふき掃除の、真っ最中である。
雑巾がけという、足腰に大変つらい、拷問のまっ最中である。
「なんだ、何でも先生に訊いてみろ」
いい先生を気取ってやがる。さわやかな笑顔を向けてきたのだ、こっちの状態を知っていて、これは明確なる、虐待だ。
大人を頼りたくない理由が、また増えた。
「最初から『第四資料室』のことを知ってたなら、なんで俺たち、バツなんて、させられてんですか」
先輩の言葉遣いが、おざなりになってきた。
さすがに、体力は限界らしい。友人は、もはや言葉もなく、ぞうきんを枕に、廊下に突っ伏していた。
かくいう少年も、生まれたての小鹿のように、足をがくがくさせている。
あと少しで倒れると、自信を持って言えるのだ。
そんな状況をあえて七日、体育教師の馬鹿力は、おおいばりで、威張った。
「それはそれ、校則は、校則だ」
がっくりと、少年は倒れた。
横倒しに、ぞうきんの腐った香りが、心地いい。
大分、疲れがたまっているようだ。一方の先輩は、さすが上級生、かろうじてまだ、息があるようだ。
「だからって、俺ら三人で拭き掃除って……無茶苦茶だ――」
断末魔だったようだ。
男子生徒三人、廊下のシミと、相成った。
一方の体育教師殿は、大笑いをしていた。
「なんだ、なんだ、情けない。校則違反のバツは、しっかり受けてもらうからな。ほれ、あと五十メートル三本」
少年たちは、うめき声すら、あげられなかった。
そして三十分後、体育倉庫に、少年たちは移動していた。
「まさか、いまさら学校の四大話『その一、開かずの体育倉庫』を体験するとは、思わなかったっス……」
真っ白だ、もう、何も残ってない。
友人は、跳び箱の上の、魚状態だった。
「先生のおじさんが、噂のねつ造の主犯の、当時の体育教師だったとは……」
先輩もまた、すべてが大人の手のひらの上だったのか、そんな絶望を味わう犯行少年の気分を、味わっていた。
そして、怪奇現象の、今回鍵を拾った少年は、一言。
「……こうなりゃ、あれですか、先生まで僕たちの学生アパートの出身って、オチですか。化け猫の『ダマ』と、追いかけっこした口ですか」
マットに突っ伏して、最後のあがきの、当てつけだった。
怪奇現象ではないのだが、ここは神官の子孫であるバカ力こと、体育教師の城である。秘密の披露に、制約などの話は、ここでするらしかった。
噂を覆い隠すための、偽りのうわさ。
ありもしない不祥事をでっちあげて、真実から目をそらさせる。
その知恵を受け継いでいたなど、だれが知る。
「はっ、はっ、はっ……あいにく俺はこの都市の生まれだ。お前らのアパートの管理人殿とは、確かに面識はある。だが、二十年前のお嬢さんの、すなわち先輩の失踪当時は学生だ。すまんが、そこまで。いやぁ、しかし熊の倍のサイズの猫かぁ、ちょっと会ってみたいなぁ」
あんたなら、いつでも会えるぞ。
遊びがいがありそうだと、化け猫の『ダマ』もきっと、大喜びだ。
本当に、合わせたい誘惑が、むくむくと湧き上がる。
そう、本当に、その気になれば化け猫の『ダマ』に会うことができるのだ。教師が生徒の部屋に上がることは、本来は事情が必要だが、今が、今だ。不良行為を働いた生徒の部屋に上がるとなれば、だれも不審に思わない。
大人を見習い、公の理由を考え始めていた。
首から、鍵がぶら下がっているのだから。
首にぶら下がっているものが、体育教師の必須アイテム、ホイッスルだとずっと思っていた。
実は、あの青いかぎであったなど、予想外も、いいところだ。
というか、秘密を隠し続けているくせに、目立ちすぎだ。
そして、一切気づかなかった己の間抜けさを、呪いたかった。
「先生の先輩って言ってましたけど、管理人さんのお嬢さんとも、やっぱり秘密を守る仲間ってことで――」
少し、元気が戻ってきたのか、先輩が当然の疑問を、口にした。
思ったより、関係者は身近にいたのだ。なら、偶然であるといっても、仲間は欲しいはず。
管理人さんのお嬢さんの行方が分からなくなった当時は、まだ学生であったとしても、何か知っているのではと、期待があったのだ。
その期待は、裏切られる。
「面識は、確かにあった。だが、まずいんだよ、俺たちは。お前らも、さっきも言ったが、注意して行動しろよ。ないはずのものが、あるってことはな、マズイってことなんだからよ」
声色の変化に、少年も、真っ白になっていた友人も、顔を上げた。
なお、この罰掃除もまた、世間を欺く手段との言葉に、三人は同時にうなだれるのだった。

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