ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第十九話


「ボクが、『アイツ』のその後を知っているかって?」
パタンと本を閉じて、『転校生』は、つまらなそうに答えた。
嘲笑されないだけ、ましだと思うべきだ。そんな印象だ。
少年は、怒りを抑えた。
管理人の老人の家を訪ねた夜、早速学校に忍び込んでいたのだった。
しかし、当の『転校生』はこちらを見ることもなく、つまらない質問をされた、そんな顔をしていた。
確かに、質問の答えは知っている。
二十年前に、今は老人となった管理人は、娘の行方を捜すために『転校生』を頼ったというのだから。
「五十年前、あんたと友達になった少年と、二十年前に、そっちに行った女の子。そっちの話だろ。なんかないのか」
管理人の老人は、言っていたのだ。
分からないといわれた、と。
だが、かつての友情があり、約束を守っているからと、協力はしてくれたようなのだ。
「二代目の………悪いけど、僕たちは御伽噺に伝わるほど、すごい力はないよ。あるといえばあるけど………だけど、『アイツ』は自分の意思で動いている。二代目の娘もそうだ」
二代目とは、アパートの管理人の老人のことのようだ。
確かに、五十年前は初代管理人の息子と言う意味で、二代目と呼ばれていたのだろう。
時間の流れが、彼らの間では、もしかすると共有するものがあるのかもしれない。
古い友人の間柄とは、そういうものだと。
しかし――
「言ったはずだよ、ボクには何も出来ないって。御伽噺の魔物だったら、何でもすき放題するようだけど、まぁ、いないって言い切れないけどね………ボクは、ボクだ」
要領を得ない話し方は、変わらない。
いいや、人に見えて、人とは異なるのだ。考えの深慮遠謀も通り過ぎ、ぼんやりと無関心となっているのだ。
なら、関心を持ってもらわねばならない。
「昔、そっちにつながってた場所って、たくさんあるんだろ。管理人さんの娘さんは、たくさん調べてた。がんばって色々………人間が勝手に門を閉ざしてしまったからってさ――」
言いながら、言いよどんできた。
これもまた、勝手な話ではないのかと、自らが制止したのだ。
一方的に門を閉ざして、今度もまた、一方的に決め付けているのではと。
迷う間に、先輩が話をつないでくれた。
「教えてください。あなたは『アイツ』と言う人と、友達だったんでしょう。あなたが二代目と呼ぶ管理人さんとも」
『転校生』は、黙ったままだ。
少年の友人は、険悪な空気ではないのかと、うろたえ始めていた。
扉のすぐそばで、帰宅準備万全だった。
それが、まずかったようだ。
唐突に、扉が開いた。
あちらから。
「こらぁ、休日にこんなところで、何をしとるかぁああっ」
扉を開けると共に、体育のバカ力が、怒鳴った。
なぜ、お前がここにいる。
三人とも、そんな顔で、体育のバカ力を見ていた。
怪奇現象の中にいるのだ、今更教師に叱咤されて、おびえる少年たちではなかった。
一方の教師のほうも、一応形式を整えた、と言うことらしい。今度は『転校生』に向かい合った。
「すみません、大先輩。うちの生徒が勝手にお邪魔してしまって………」
何の話だ。
と言うか、どういうことだ。
少年たちは、混乱した。
鍵は、一本だけではないのか。
いいや、こちらとあちら、一本ずつであり『転校生』の鍵は、少年の部屋の洗面所の扉とつながった、フード付きマントの女の子に預けたのではなかったのか。
謎が、多すぎた。
と言うか、増えすぎだ。
少年は、一気に窮屈になった印象の、と棚の隅に身をかがめていた。
頭を抱え、いったいどういう状況だと。
「このバカどもが。こっそり忍び込むならな、もっとこっそりやらんか。オレが先輩に連れらてた頃はな、もっと周囲に気を使ったものだ………まぁ、旧校舎の立ち入りが禁止されて、間もない頃だったこともあるがな」
関係者のようだ。
そして、珍しいものを、見せてくれた。
「二十年ぶり………ですね、大先輩」
いきなり、愛想良くなった。
だが、珍しいのはそれではない。『転校生』が、心底あっけに取られていたためだ。
筋肉バカが、突然乱入したのだ、仕方ない。
そもそも、鍵を持っていなければ入れないはずなのだから、乱入者など、想定しようがないのだった。
「………………」
あっけに取られていた。
必死に思い出そうとして、混乱に拍車をかけているだけと、見て分かる。
本当に、珍しい。
「お忘れですか………無理もありません、結局この二十年、ここの扉を使わなかったものですから。しかし、その理由は、そちら側の“門番”であるあなたなら、おわかりでしょう」
ややこしい話が、更にややこしくなったと、少年は思った。
友人は、こっそりと窓の外に顔を出していた。
カーテンを開けるな。
先日の注意はしっかりと守っている、カーテンに顔を突っ込んで、現実逃避をしていた。
その一方で『転校生』は、やっと思い出したとばかりに、目を見開く。
「あぁ………神官の子孫か………大きくなった」
ごつくなったの、いい間違いだろう。
化け物になったと、言いたいのかもしれない。それは生徒の側からの話で、しかし、これは改めて話を聞いたほうがよさそうだ。
話は、こうだ。
実は『転校生』の住まう範囲は、この部屋だけ。そういう、怪奇現象とは違っているのだ。
いわば、特別なつながりを持つ場所として作られ、その見張りと言うか、門番らしい。
力も、その限定と言うこと。
その外側の話は、あちら側であっても、分からないのだ。
それは、決して無関心と言う意味ではなく、それぞれの役割と言うことなのだ。
「『アイツ』は、あいつの道を行った。二代目の娘も、わざわざこっちとあっちの、両方の鍵を持っていったんだ。今どこにいるか、おそらく『アイツ』の後を追って、世界中を回っているはずだ」
とんでもない話のようだ。
一気に、世界規模だ。
それも、こっちとあっちの。
だが、少年たちにとってのとんでもない事態は、ここに教師がいることだった。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。